怪異の忘れ物

木全伸治

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感染拡大防止

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うちの父が感染したことは、なぜか、近所の人たちにすぐに知れ渡った。しかも、近所のおばさん連中が家の前でわざわざ井戸端会議をして、感染者が出た家が近所だなんて迷惑だと大声で話しているの聞いて、私は、コソコソ家の前で話すなと追い散らかしたくなるのを我慢して、おとなしくしていた。父が感染して以来、母や弟は近所の目を気にして学校や買い物にも行かず、家の中に閉じ籠った。私は、部活の大会が近いので、その状況でも学校に登校した。近所の目は気になるが、学校の中では、先生も同級生も面と向かって私に何か言うことはなかった。表面上は、普通の学校生活を送れているつもりだったが、部活の顧問に呼び出されて、急にレギュラーから外されることを告げられた。
理由は聞かなかった。家族に感染者が出た生徒を大会には出せないということだろう。みんなが私たち家族から感染拡大するのを恐れていると感じた私は、家族である自分にしかできない感染防止策を実行することにした。母は、父の遺影の前でぼうっとしていた。弟は学校に行かず自室でずっとゲームをしていた。家の中が灯油臭くなっても誰も文句は言わなかった。いや、灯油の匂いを嗅いで私が何をしようとしているのか気づいても、わざと黙ってじっとしていたのかもしれない。廊下や階段に冬場のストーブの残りの灯油をまき終わり、私はマッチを一本擦った。それを灯油で濡れた廊下に落した。
燃える家の中に残っていようかと最初は思っていたが、灯油の燃える勢いが強くとても熱くて、私は、卑怯にも自分だけ家の外に飛び出していた。燃え上がる家の中から、熱い熱いという悲鳴が聞こえたような気がしたが、私は燃える家の中に家族を助けに戻ろうとはしなかった。私の家が燃えているのに気づいた近所のおばさんたちが、野次馬として集って来たので、私はそのおばさんたちに
「感染防止で私が家を燃やしました。感染者を出した家族として、家族にしかできない感染防止策として、立派に私は責任を果たしたと思いますが」
おばさんたちは私の行動を賞賛するどころか奇異の目で見て、警察に通報して、私は特別施設に入れらた。だが施設行きになった私は、その特別施設にいたおかげで世界的な感染爆発から守られ、逆に私の家の近所では別の家から感染が広がり、近所のおばさんのほとんどが感染したと後から聞かされた。
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