怪異の忘れ物

幼児化再教育

「今日から私はあなたたちの先生です。静かになさい」
「私は先生です、みんなおとなしくしなさい！」
特別教室でわいわい騒いでいた生徒たちが、少し怒気の含んだ私の言葉に、ようやく大人しくなる。いじめ事件の加害生徒としてこの施設に収監された彼らは、以前は、自分たちのしたいじめをひどいことだと認識せず、不当な収監だと、ずっと反抗的な態度を取っていた。それが、最新医学で肉体はそのままに小学生低学年レベルまで意識を退行化させられ、肉体までも小さい子供に戻ったと思い込ませて、ようやく大人の言うことを素直に聞く幼い子供に戻ったようだ。
いじめをして、相手を自殺に追い込むような加害生徒には、厳罰化が必要という意見が多かったが、それでは根本的な解決にはならないと、厳罰ではなく、再教育が必要だろうと法改正が進み、悪異質な虐め加害生徒を最新医学で、小学生ぐらいまで退行させて、子供からしつけをやり直す特別再教育制度が整備された。いじめ加害者の親に有力な国会議員がいて、前科として残る厳罰化は困ると考え、精神を子供に戻して、小さい頃からの再教育を受けさせるということにすれば、厳罰化よりマシだろうと画策したという噂があったが、とにかく、制度は施行されて、いじめは悪いことだと深く認識させるための再教育がスタートした。きっと真人間として社会復帰を果たすだろうと期待されて。
かつての少年法は、若いから、罪を犯しても改心する余地があるとして、法的に甘い部分があったが、その反省を踏まえての再教育のための彼らの先生に私はなった。
そうして、彼らを慎重に再教育しているつもりだったが、後日、受け持ちの生徒の一人が自殺して、私は、その特別教室内でいじめが起きていることを初めて知った。小学生からやり直しても、加害生徒の本質は変えられないようだと上に報告し、私は責任を感じて自殺した。