怪異の忘れ物

優しい夫

その日、家に帰ると、いつもと違って異様に優しい夫が待っていた。
「なに、気持ち悪いわね、どうしたの？」
「反省したんだよ、今まで君にひどいことを言い過ぎたってね。今日から、心入れ替えるから、昔みたいに楽しく、やろう、ほら、君の好きなワイン」
まるで結婚記念日を祝うように夫は、その晩、自分で料理をし、私をもてなしてくれた。
そうなのだ、最近はぎくしゃくしていたが、結婚したばかりの頃は、こんな風に優しかった。そして、私は離婚する気で弁護士の先生とも相談していた。が、その晩、優しくされた私は、能天気にも、弁護士の先生との相談をやめてしまい、彼の本心を見抜けないまま、保険金目当てで夫に殺されてしまった。
ちょっと優しくされたぐらいで、心変わりしてしまった自分が悪いのだと、彼を呪うより、自分の迂闊さを呪って死んだ。