ヒーローだって人間です

木全伸治

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最後の殺人

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名探偵とネットでおだれられ、マスコミも彼に、迷宮入りしかけていた事件を彼の元に持ってきて、彼が事件を解決していく様をカメラに収め、ドキュメンタリー番組として、テレビで放映した。
彼は本当に優秀な名探偵で、時効寸前だった事件をわずかな証拠から解き明かし、高視聴率をたたき出し、大活躍していた。だが、彼は、彼が捕まえた犯人の家族がその後、どうなるか深く考えていなかった。事件を解決して称賛を浴びることに酔っていた。
「くっ、まさか、この島の住民、全員が・・・」
「ええ、あなたが調子に乗って、次々と犯人を捕まえるから、その分、犯人の家族と世間から白い目で見られる人がふえたの。つまり、自業自得ね」
「随分、大掛かりなことをするじゃないか?」
「だって、あなたすごく頭が切れるから、島の駐在さんを含めて島まるごと仕掛け人にするぐらいにしないと、あなたを殺せないと思ったの。でも、安心して、あなたが死んだら、ちゃんと私が首謀者として自首するから。私が一番重い罪になるでしょうけど、協力だけした他の人は執行猶予が付くでしょう。私にとっても、最初で、最後の殺人。初犯なら、刑期も短いでしょ」
「そ、そんなに俺が憎かったのか」
「ええ、だって、お姉ちゃんなんか、結婚式の直前で、親が殺人犯の娘と結婚などさせられないって、向こうの御両親にひどいこと言われて。私の父が殺さなければ、あいつは、うちの両親だけでなく、もっと多くの人を不幸にしていたはず。あなたが、父を捕まえさえしなければ、姉は、お腹の子をおろすこともなかったんだから」
「ほぉ、それで、孤島におびき出して復讐か?」
「そうよ。あなたが、ここで死ねば、これ以上、あなたのせいで不幸になる人は増えない」
「なるほど・・・、しかし、妙だとは思わないかい。致死量の毒を食事に仕込んだのに、まだ俺は生きてるぜ?」
「…そうね。でも、毒の量が足りなかったのなら、直接、手を下すだけ」
「君は、犯人の家族がすべて君たちと同じように不幸になり、俺を恨んでいると思ったようだが、中には、仕方ないと思い俺に今回の計画を密告してくれた家族もいるんだぜ。もうじき、県警が船で、この島に乗り込んでくる手はずさ」
「まさか、あなた、毒の入った食事を食べたふりをしてたの?」
「ま、そういうこと。悪いね」
「クソ、名探偵!」
「おいおい、いまさらどこに逃げるつもりだ。ここは、絶海の孤島だぜ。俺が逃げられないようにここを選んだようだが、逆に、君もここから逃げられないだろ」
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