ヒーローだって人間です

強い者に媚びる

魔王様の支配する魔界では強い者に媚びるのは常識であり、だからこそ、強い魔王様に誰もが従っていた。だが、魔王城を目指して、突き進んでくる勇者一行の強さが噂となって魔界に広がると、魔王様の権威が揺らぐのも自然の理だった。
魔族は、人間に毛嫌いされるように善人の集まりではない。その頂点である魔王様も魔界で一番強いという以外、たいした取り柄はなく、強いからみな黙って従っていただけで、そこに忠誠心はなかった。魔王様に対して叛意が芽生えても、おかしくはなかった。魔王の腹心という肩書を持つ俺は、その立場を利用し、魔界に不慣れな勇者が魔王城に迷わず来れるよう誘うようにモンスターたちを配置して、勇者一行が魔王城に着き魔王様を退治した瞬間、勇者にもみ手してこびへつらった。だが、魔王様が討たれて、すぐにすり寄って来た俺を、勇者は問答無用でモンスターとして斬り捨てた。
なにしろ、こちらは人間の言葉が喋れなかったし、見た目も人間から見ればバケモノだったのだ。