ヒーローだって人間です

木全伸治

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戦闘員の悲哀

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最近のヒーローは剣や銃で武装するのが、当たり前になっていて、奴らはモブの戦闘員を容赦なく撃つ。毎回、何人か撃たれ、こちらの戦闘員に重傷者や死者が出ていた。その日は、俺と親しい戦闘員が撃たれ、瀕死になった。
「うおお、い、いてぇ」
「おい、落ち着け、もう治療室に着いたぞ」
そこは我らが組織の医療室で、そこに瀕死の仲間を何とか俺は連れてきた。
ここの装置を使えば、死体でなければ蘇生できる。
「畜生、俺は、こんな組織、もうやめてやる!」
腹に穴を開けた戦闘員が、痛みにもがきながら吠える。
「とにかく、落ち着けって、これから治療してやるから、治療が遅れたら、後遺症が残るかもしれないぞ」
治療カプセルに仲間を押し込め、装置を作動させ、催眠ガスを充満させると、やっと静かになった。そして、緑色の液体が治療カプセル内を満たす。その特殊な溶液には治療用ナノマシンが含まれていて、この液体に浸かっているだけで傷口からナノマシンが体内に侵入し、肉体の欠損部分を補修し、傷口も塞ぐ。
異様な容姿を持つ特殊な怪人を製造できる組織である。この程度のオーバーテクノロジーの医療技術を持っているのは当然である。
でなければ、地球支配を目指したり、地球の生態系を無視した怪人などは製造できない。
「これで、大丈夫と」
医療装置の正常な稼働を確認して、俺はホッとしていた。ここまで連れてこられず、基地への撤退途中に亡くなった仲間も少なくない。
「『もうやめてやる!』か」
彼の叫びが俺の耳に残っていた。
確かに、死ぬような目に会って、それでも、この組織に残らなければならない義理は俺たちにはない。
辞め時かもな。それなりに、戦闘には参加している。俺自身、この医療カプセルの操作を覚えるくらいにはこの医療室には世話になった。
その数日後、俺は仲間の傷が完全に癒えてから、二人で組織を脱走した。追手が来るかと半年ほどはビクビク警戒して暮らしていたが、春頃になると風の噂で俺たちのいた組織が、ヒーローの手により壊滅したと聞いたが、けれど、戸籍等が一切なく、とにかく、フリーターとして、何とか生活できる金を得るのに必死になっていた俺たちは、前に属していた組織のことなんか、もうどうでも良かった。
その日の深夜、俺と一緒に逃げ出した仲間はコンビニでレジにひとりでいた。サングラスにナイフの強盗が店を襲い、彼は、その犯人を捕まえようとして、逆に刺されて死んだ。なんとも、あっけない最期で、身分証や戸籍もなく、履歴書に書いた経歴もデタラメだったので、身元不明の無縁仏として、コンビニの経営者の方が、近所のお寺に弔ってくれた。彼が死んだと聞いて、俺は病院で彼の遺体に手を合わせてすぐに姿を消した。組織が壊滅したと噂では聞いていたが、あくまでもそれは噂であり、もし、組織が残っていて、彼の死を知り、もうひとりの脱走者である俺に追手を放つ可能性を考えての逃亡だ。彼の遺体を引き取らず逃げ出したのが薄情だとは思わない、ただの強盗相手にドジって死んだのは彼の責任だ。
悪の組織から逃走して、強盗を捕らえようとして死んだ元戦闘員。脱走せず、正義のヒーローにモブとしてやられていた方が華やかだったろうか。いや、どちらも、死には違いない。だから、俺は、ヒーローや悪の組織とは無縁の田舎に逃げて行き、そこで、都会からのリターン者として農業を始め、そこでの生活になじんでから老衰で死んだ。


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