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悪の美学
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正義の戦隊は追い詰められていた。相手は警察の機動隊であり、正義の味方が警察に牙をむくわけにもいかず防戦一方で市民に被害が出ないように後退しているうちに廃工場に追い込まれていた。
「クソッ!」
パトカーが何台も周辺道路を塞ぎ、退路はなかった。
「全く情けない、我らが組織を散々苦しめてきたヒーローが、この程度の雑魚に追い詰められるとは」
悪の組織の作戦参謀的科学者が忽然と現れてヒーローたちを嘲笑う。
「貴様ら自慢の合体ロボは呼ばんのか」
いつも怪人を巨大化させても、あのロボに苦汁をなめさせられている悪の科学者が苦笑する。
「あれなら、一蹴りで、外の連中など蹴散らせるであろう」
「正義の味方が、そんなことできるか!」
「ほほぉ、テレビの報道では、その正義の味方様が、どこぞの政治家の秘書を殺害した容疑を掛けられているとあったが」
「濡れ衣だ。お前らのような悪事を俺たちがするものか」
「なるほど。大方、余計な正義漢でどこぞの政治家の不正を暴こうとし、お前たちに感化された秘書が、その政治家の不正の証拠をお前たちに渡そうとして口封じに殺されて、その濡れ衣を着せられたというハリウッドのアクション映画にありがちな展開ですかな」
まるで、すべてを把握しているように悪の科学者が分析する。
「随分、事情通ぶってるじゃないか」
まるですべてお見通しという感じで語る悪の幹部にヒーローたちの警戒心が高まる。
「汚職政治家に悪の組織、ヒーローが目障りということで、てめぇらが手を組んで仕組んだんじゃないのか」
敵が共闘するというのも珍しい展開ではない。
「確かに、我ら組織にあなた方殺害の依頼はありましたよ。生きて警察に捕まったら、後々厄介なのでしょうな、ですが、我らの総統は断りましたよ。一度でも手を貸したら、その政治家に言いように使われるでしょうから。大体、自分の手を汚したがらない小悪党なんぞ、信じる価値もない。おそらく、すべての汚れ仕事を我らに押し付けて、自分は美味しいところだけ戴くという腹積もりが見え見えですからね」
「じゃ、警察に協力して、俺たちを逮捕させるつもりか。それでも、お前たちの邪魔ものは排除できる」
「いやいや、敵に塩を送るというのは、この国の言葉だったはず」
悪の科学者は、自分の足元を蹴った。すると、ホログラムで隠していた穴が現れる。
どうやら、この穴を通ってヒーローたちのそばに来たようだ。
「この近くには、電線などの地下ケーブルを通す穴がありましてね、ここからくぐって行けば、警官たちの足元を抜けて平和的に逃げられます」
「本気で俺たちを助けるつもりか」
「我が総統は、悪なりの美学をお持ちで、自分の手を汚さずに得た勝利に興味はないと」
「いいのか、それで」
「カリスマ性というやつですよ、我らは総統のそういうところにひかれて戦っている。悪の組織とは言え、卑怯卑劣が売りでは、面白くありませんからな。いいから、さっさと逃げろ。もし、文句があるなら、この次また好きなだけ相手してやる。今は逃げろ」
「・・・」
リーダーのレッドは迷った。が、嘘をついているようには聞こえない。
「分かった。正々堂々、邪魔が入らぬようにいずれ決着を」
そうして悪の組織に助けられた正義のヒーローが逃げ延びた直後、どこかから、その政治家の汚職の疑惑と秘書殺害に関してのリークがなされ、マスコミが騒ぎ、ヒーローの秘書殺害容疑も、いつの間にかうやむやになり、その政治家が、自身の疑惑火消しのために国会議員を辞職した頃、悪の総統とヒーローたちは人知れず、決戦を行っていた。
「クソッ!」
パトカーが何台も周辺道路を塞ぎ、退路はなかった。
「全く情けない、我らが組織を散々苦しめてきたヒーローが、この程度の雑魚に追い詰められるとは」
悪の組織の作戦参謀的科学者が忽然と現れてヒーローたちを嘲笑う。
「貴様ら自慢の合体ロボは呼ばんのか」
いつも怪人を巨大化させても、あのロボに苦汁をなめさせられている悪の科学者が苦笑する。
「あれなら、一蹴りで、外の連中など蹴散らせるであろう」
「正義の味方が、そんなことできるか!」
「ほほぉ、テレビの報道では、その正義の味方様が、どこぞの政治家の秘書を殺害した容疑を掛けられているとあったが」
「濡れ衣だ。お前らのような悪事を俺たちがするものか」
「なるほど。大方、余計な正義漢でどこぞの政治家の不正を暴こうとし、お前たちに感化された秘書が、その政治家の不正の証拠をお前たちに渡そうとして口封じに殺されて、その濡れ衣を着せられたというハリウッドのアクション映画にありがちな展開ですかな」
まるで、すべてを把握しているように悪の科学者が分析する。
「随分、事情通ぶってるじゃないか」
まるですべてお見通しという感じで語る悪の幹部にヒーローたちの警戒心が高まる。
「汚職政治家に悪の組織、ヒーローが目障りということで、てめぇらが手を組んで仕組んだんじゃないのか」
敵が共闘するというのも珍しい展開ではない。
「確かに、我ら組織にあなた方殺害の依頼はありましたよ。生きて警察に捕まったら、後々厄介なのでしょうな、ですが、我らの総統は断りましたよ。一度でも手を貸したら、その政治家に言いように使われるでしょうから。大体、自分の手を汚したがらない小悪党なんぞ、信じる価値もない。おそらく、すべての汚れ仕事を我らに押し付けて、自分は美味しいところだけ戴くという腹積もりが見え見えですからね」
「じゃ、警察に協力して、俺たちを逮捕させるつもりか。それでも、お前たちの邪魔ものは排除できる」
「いやいや、敵に塩を送るというのは、この国の言葉だったはず」
悪の科学者は、自分の足元を蹴った。すると、ホログラムで隠していた穴が現れる。
どうやら、この穴を通ってヒーローたちのそばに来たようだ。
「この近くには、電線などの地下ケーブルを通す穴がありましてね、ここからくぐって行けば、警官たちの足元を抜けて平和的に逃げられます」
「本気で俺たちを助けるつもりか」
「我が総統は、悪なりの美学をお持ちで、自分の手を汚さずに得た勝利に興味はないと」
「いいのか、それで」
「カリスマ性というやつですよ、我らは総統のそういうところにひかれて戦っている。悪の組織とは言え、卑怯卑劣が売りでは、面白くありませんからな。いいから、さっさと逃げろ。もし、文句があるなら、この次また好きなだけ相手してやる。今は逃げろ」
「・・・」
リーダーのレッドは迷った。が、嘘をついているようには聞こえない。
「分かった。正々堂々、邪魔が入らぬようにいずれ決着を」
そうして悪の組織に助けられた正義のヒーローが逃げ延びた直後、どこかから、その政治家の汚職の疑惑と秘書殺害に関してのリークがなされ、マスコミが騒ぎ、ヒーローの秘書殺害容疑も、いつの間にかうやむやになり、その政治家が、自身の疑惑火消しのために国会議員を辞職した頃、悪の総統とヒーローたちは人知れず、決戦を行っていた。
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