ヒーローだって人間です

木全伸治

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お隣のお姉さんは正義の味方

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うちの隣には優しくて美人のお姉さんが住んでいた。
お隣なので幼いころから、よく顔を合わせていた。初恋だったかもしれない。とにかく、ガキの俺でも目を引く美人でこんな女性を彼女にしたいという憧れの対象だったのは間違いないと思う。
だが、ある日、慌てて帰って来たお姉さんを見かけて、何事かとこっそりとなりの家の様子を見ていたら、ピンク色のヒーロースーツに身を包んだお姉さんが出て来た。顔はフルフェイスのヘルメットで分からなくしていたが、そのぴっちりとしたスーツの背格好からお姉さんとハッキリと分かる。お姉さんは正義の味方だったんだと、俺は即座に理解した。同時に、理想の彼女という憧れも一瞬で萎えた。そういえば、うちの母も、二十歳を過ぎて結婚適齢期になっているはずなのに実家暮らしを続けているお隣のお姉さんのことを夕飯時の話題にしたことはない。たぶん、なんとなく、お姉さんの正体を知っていたのだろう。
なにやら、事件でも起きたのか、慌てて去って行くピンクのヒーロースーツを見送りながら、俺は、千年の恋が一気に冷めた気分だった。誰が、正義の味方を彼女にしたがるだろうか。失恋ではなく、理想に対する失望に近い。慌てて自宅に帰り、ヒーロースーツ に慌てて着替える女性を、憧れの対象としてみろというのは難しい注文だ。正義の味方が良くないというのではない。俺の彼女、正義の味方なんだぜと他人に紹介できるだろうか? うちの母が、お隣のお姉さんの話題をあまりしないように、なんとなく腫れ物に触れるように距離を開けたくなるのではないか。ネガティブに考えれば、一般人は正義の味方と知り合いということで、変な事件に巻き込まれることを恐れるべきではないか。俺はいろいろ考えて、とにかく、この次お姉さんと顔を合わせることがあったら、何も知らないふりをしよう。それが無難だろうと俺は考えた。
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