ヒーローだって人間です

木全伸治

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隣の宇宙人

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「ま、そう硬くならずに」
「この状況で、のんびりできるわけないだろ」
俺は宇宙人に拉致された。しかも、そいつは昨日までアパートの隣で同じ地球人のふりをして生活していたのである。監禁場所も、そのお隣さんの部屋だった。
「俺を洗脳でもするつもりか?」
「いえいえ、この星を去る前に最後に現地住民の生の声を聞きたいと思いまして」
「だからって、なんで縛り上げる?」
「この星の宇宙人に対するイメージが、凶暴なエイリアンというのが多いもので、万が一の安全を考慮しまして」
「地球人が宇宙人に危害を加えると?」
「この星はいまだ惑星単位でまとまっておりません。複数の国が互いに軍事力を持っています。失礼ながら、我々から見ればあなたがたは野蛮な原始人にしか見えません」
「そうか、広い宇宙から見たら、俺たちは、まだまだ野蛮な原始人か・・・」
無限に広がる大宇宙から見たら、たった一つの惑星の上で、無数の国家が乱立し、それぞれ勢力争いをしている光景は、宇宙人から見れば原始的で滑稽で野蛮なのだろう。
納得は出来たが、拘束されて喜ばなければならない理由にはならない。
「意見を聞きたいと言っていたな。その後は、すぐに解放してくれるんだろうな?」
「もちろんです」
「記憶を消したりは?」
「しません。覚えていたところで、このことを誰に話しても、この星ではあなたが白い目で見られるだけだと思いますが?」
「・・・・・」
その通りだ、自称宇宙人に連れ去られたという人間のインタビューをテレビ番組か何かで観たことがあるが、テレビを見ていた俺はそのインタビューを受けている人が嘘をついているとは思わないまでも、眉唾物だなと感じてはいた。嘘ではないが、真実だと認めるのは現実的ではないと客観的に思考していたのだ。宇宙人が地球に来ていると信じるよりも来ていないと考える方が自然な思考だというのが、現在の地球人だろう。
「さっさと質問して、早く自由にしてくれ」
「では、我々には、この星をたった一日で征服できるだけの科学力があります。この星の大気成分等、詳細なデータはすでに私が本星に送っております。今のところの調査結果では、無計画に地球資源を浪費し、大気を汚染し、人類は遠からず滅亡するだろうと我々は思っております。ですが、知性を有する生命体は貴重ですから、あなたたちの言うところの絶滅危惧種として我々が認定し、強制的な保護を行うかもしれません。あなたたちを絶滅から救うためだとしても、人類は我々の保護を拒絶すると思いますか?」
「・・・するね。俺たちも絶滅危惧種の動物を保護したりするが、捕まえようとすれば逃げる。それと同じだ。他人の一方的な善意なんて、余計なお世話だと思うぜ」
「では、このまま滅びても良いと?」
「そういうことじゃなくて、野蛮な原始人だから、保護されるより、自由なまま生きたいんだ」
「自由? ただの無秩序で非生産的なままでいいと?」
「ああ、俺は、そっちの方が面白いと思ってる」
その会話を最後に隣の宇宙人は引っ越していった。で、俺は本当に記憶を消されることなく、いつか彼らが、地球人を保護するために巨大なUFOで地球を訪れる日が来ることを確信しつつ、時々空を見上げて、宇宙に想いを馳せていた。

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