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きぐるみ課長
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その町には、これと言って名所や名物等はなかった。山間の田んぼの多い、田舎町。ようするに全国的に無名の田舎である。周辺の町と合併して市になろうという動きもあったが失敗し、いまだ人口は少なく、若い人たちは町を出て行き、若者を呼び戻し町の活性化が町役場の大きな課題になっていた。
町の知名度上げと活性化を兼て俗に言うゆるキャラを生み出そうとしたが、財政的な理由で、全身は作れず首から上の頭の部分しか作れなかった。
なので、頭だけの被り物、この町では、夏、田んぼに蛍が飛ぶので、それをモチーフにしたゆるキャラが誕生した。ただ、頭だけの被り物で、その下はスーツという奇妙なキャラになってしまった。
私は、そんな上司である課長を朝から見守っていた。たぶん、ストーカーと言う部類になるだろう。きぐるみ課長は、役場に出勤前、近くの小学校の児童が登校する交差点に立ち、その奇妙な格好で交通安全を児童たちに呼び掛けている。子供たちも、慣れたように「おはよう、課長」と声をかけて横断歩道を渡る。ゆるキャラの正式名称より、課長の方が呼びやすいので、もうだいたい課長の愛称で親しまれていた。そんな課長の姿を見るのが私は好きだった。小さな子供たちに
「ちゃんと手を上げて渡りましょう」とか、「車道の方にはみ出さない」と声をかける姿は微笑ましくて愛おしい。だいたいの児童が交差点を渡り、子供が少なくなってきたかなと思った頃、その頭の軽そうな若者たちが交差点で車を止めて降りてきた。しかも、課長に絡んでいる。
「なんだこれ、キモ」
「なんだよ、おっさん」
「何してんの」
声をかけながら課長の太ももを蹴る男もいた。
「やめろよ、課長になにするんだ」
交差点で待っていた子供が課長を助けようと若者連中の間に割って入る
「うるせ、クソガキ」
そのドキュン連中は、その小さな子供を突き飛ばした。
その次の瞬間、その突き飛ばしたドキュンが、あっさりと課長に投げ飛ばされる。下はアスファルトの歩道で、したたかに背中を打ち付け、悶絶する。課長の動きは速く、あっという間に全員を投げ飛ばしていた。
「くそ、この野郎、訴えてやるからな」
「待ちなさい、先に課長を蹴り、子供を突き飛ばしたのは、あなたたちでしょ、ちゃんと撮ってあるから」
私はスマホを手に飛び出して、そう叫んだ。
「うっ・・・」
さすがに自分たちの分の悪さを理解したのか、連中は車に逃げ戻り、さっさと車を発進させて退散した。地元の者ではないだろう、都会からドライブにでも来た連中だろう。
「ありがとう、助かったよ」
課長が礼を言いつつ、首を傾げる。
「君、なんでここに?」
まさか、課長をストーキングしてたと言えず、
「たまたま通りかかっただけです」
と私は笑って誤魔化した。着ぐるみ課長の中の人は、県大会でベスト8に残ったこともある柔道の経験者で、中央官僚になれるぐらいの学歴の持ち主で地元のためにと地元役場に就職したとか、実家がこの辺りの名家だと知ったのは、彼と結婚した後である。
町の知名度上げと活性化を兼て俗に言うゆるキャラを生み出そうとしたが、財政的な理由で、全身は作れず首から上の頭の部分しか作れなかった。
なので、頭だけの被り物、この町では、夏、田んぼに蛍が飛ぶので、それをモチーフにしたゆるキャラが誕生した。ただ、頭だけの被り物で、その下はスーツという奇妙なキャラになってしまった。
私は、そんな上司である課長を朝から見守っていた。たぶん、ストーカーと言う部類になるだろう。きぐるみ課長は、役場に出勤前、近くの小学校の児童が登校する交差点に立ち、その奇妙な格好で交通安全を児童たちに呼び掛けている。子供たちも、慣れたように「おはよう、課長」と声をかけて横断歩道を渡る。ゆるキャラの正式名称より、課長の方が呼びやすいので、もうだいたい課長の愛称で親しまれていた。そんな課長の姿を見るのが私は好きだった。小さな子供たちに
「ちゃんと手を上げて渡りましょう」とか、「車道の方にはみ出さない」と声をかける姿は微笑ましくて愛おしい。だいたいの児童が交差点を渡り、子供が少なくなってきたかなと思った頃、その頭の軽そうな若者たちが交差点で車を止めて降りてきた。しかも、課長に絡んでいる。
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声をかけながら課長の太ももを蹴る男もいた。
「やめろよ、課長になにするんだ」
交差点で待っていた子供が課長を助けようと若者連中の間に割って入る
「うるせ、クソガキ」
そのドキュン連中は、その小さな子供を突き飛ばした。
その次の瞬間、その突き飛ばしたドキュンが、あっさりと課長に投げ飛ばされる。下はアスファルトの歩道で、したたかに背中を打ち付け、悶絶する。課長の動きは速く、あっという間に全員を投げ飛ばしていた。
「くそ、この野郎、訴えてやるからな」
「待ちなさい、先に課長を蹴り、子供を突き飛ばしたのは、あなたたちでしょ、ちゃんと撮ってあるから」
私はスマホを手に飛び出して、そう叫んだ。
「うっ・・・」
さすがに自分たちの分の悪さを理解したのか、連中は車に逃げ戻り、さっさと車を発進させて退散した。地元の者ではないだろう、都会からドライブにでも来た連中だろう。
「ありがとう、助かったよ」
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「君、なんでここに?」
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