ヒーローだって人間です

木全伸治

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地球温暖化

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地球温暖化を警告する科学者はいた。
だが、その変化が劇的で、いきなり、季節が夏だけになるとは誰も想像していなかった。その年は、地球全体で記録的な暑い日が続き、南北の極点の氷が急激に溶けていると人々が気づいた時には、沿岸の大都市のほとんどが、突然の津波や、海面の急上昇で海に没し、多くの人々が水没する陸地から追いやられるように船に乗り海に逃げた。
大型客船のプールやキャビンは土が敷き詰められて畑になり、海水をろ過する装置で真水を作り、人間と植物に与えられた。ソーラーパネルを設置して、昼間電力を蓄え、夜の明かりにするようになり、そうやって船上で、細々と人類は生き残っていた。いくつもの大型タンカーを並べて鉄板でつなげ、海に浮かぶ街を作ったところもあるようで、人類滅亡までは至っていない。
その避難船の一隻に運よく乗れた政府高官だった俺は、陸地の見えない海を眺めていた。
一流大学を出てエリート一直線だったが、この避難船への乗船の権利で俺のキャリアは使い切ったようだ。もう国境は存在しない。全国民の数パーセントしか、こういう避難船に収容できなかったので、正直、もう国は存在していない。何千万人単位で乗れる船はそう簡単には、作れない。心ある政治家は、避難船に乗せられなかった人々とともに沈む国と運命をともにしていた。この船にも寄港先はない。ただ海に浮いているだけだ。一応、この船に乗船している数名の学者が、この地球規模の異変の原因究明と解決方法を模索しているが、希望は見つかっていない。
「ねえ、お母さん、夏はいつ終わるの」
そばにいた男の子が、無邪気そうに母親に尋ねている。
「夏なんてなくなればいいのにね」
その母親は軽く微笑んで息子をそっと抱きしめていた。
「そうなるといいわね」
確かにな。俺も心の中で同意したが、政府御用達の科学者たちに意見を聞いたときも、この異常気象現象がいつまで続くかその原因も期間も明確に答えられた者はいなかった。映画なら、一発で状況を好転させる奇策を持った科学者が出て来るのだろうが、いまのところ、そんな科学者はいない。生き残った科学者の大部分が、政府に尻尾を振った御用科学者ばかりで、政府に都合のいいことしか言わない凡庸な学者ばかりだった。
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