ヒーローだって人間です

木全伸治

文字の大きさ
上 下
141 / 228

はい、船長

しおりを挟む
「おい、なんだ、なんだ」
ブリッジの当直を副長の彼女に任せて休んでいた俺は、けたたましい緊急サイレンの音を聞きつけ、急いでブリッジに顔を出した。
「何があった」
「機関部に異常が発生し、緊急パージを」
「緊急パージだと」
と俺が聞き返すのとほぼ同時に、まばゆい閃光がブリッジの窓から差し込む。
衝撃波で軽く船体が揺れる。
「いま、切り離された機関部が爆発しました」
「ああ、説明しなくても分かる」
もともとこの貨物宇宙船は退役しててもおかしくない旧型船だ。今日まで無事に宇宙を飛んでいただけでも奇跡と言える老朽船である。最新型の貨物船には乗員不要の完全自動化された船もあるが、こいつには操作する乗員が必要で、船長の俺と副長の二人が乗り込んでいた。
だが、よりにもよって、宇宙大学出たての新米副長と一緒の時にトラブルとはついてない。この船は貿易会社所有の貨物船であり、その船員の人事権は会社にある。俺なら、大学出たての小娘を副長に抜擢はしない。
「で、現状は?」
「機関部と貨物部分は緊急パージを行いましたが、ブリッジ周辺と生命維持に必要な居住区画はそのままで異常なしです」
「で、緊急パージとなった原因は?」
「たぶん制御系のトラブルかと、機関部内の温度が急上昇して、コンピュータが緊急パージを提案、で、それを実行に移しました。船長にお伺いする時間がなくて申し訳ありません」
「いや、いい。ほんの数秒の遅れが、取り返しのつかないことになることもあるからな。しかし、落ち着いてるな。大切な機関部がなくなったというのに」
「さきほど救難信号は出しましたし、これで、しばらく船長とふたりっきりだなと思うと、ついにやけて」
「は?」
「あ、わたし、昔、家族と旅行したとき船長とお会いしたことがあって、船長、昔は客船の船長でしたよね」
「ああ、そんな時代もあったな」
「その時から、船長にあこがれてて、で、この船に」
「憧れ? こんなおっさんに」
「いえ、あのときの船の事故で家族全員が助かったのは船長の英断のおかげです。事故を船長のせいにして客船から下して、貨物船の船長に格下げした連中が私は嫌いです」
「ま、昔の話だ。いまは、この状態から無事に生還するのが先だ、いいね」
「はい、船長」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...