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最初の冒険
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俺は武器屋のおやじと値切り交渉をしていた。
「この前までは、この剣、銅貨三十枚ぐらいだったろ」
「最近は魔物や魔族が多くて、武器は高く売れるんだよ。だから中古でも高値になる。気に入らなければ他を当たりな」
「ち、足元みやがって」
「それが商売ってものだよ、にいちゃん。で、どうする? 銅貨四十枚でも今の時世お値打ちな方だと思うぜ」
「分かった。銅貨四十で買うよ」
魔物の牙、毛皮、肉を売り、コツコツ貯めた金だが、よい武器が手に入れば魔物の狩りも楽になる。
損得勘定を考えたうえで俺は購入を決めた。
これで、腕に装備した木の丸い盾に鎖帷子、新しく手に入れた剣と、それなりに格好はついてきた。
「にいちゃん、魔物退治で名を上げるつもりかい?」
「名を上げるというより、帰る村がないから、仕方なくやってるってところだ。で、どうだい、最近、何か面白い話は?」
「いや、別に、魔族や魔物が増えて世の中物騒なのに、上の貴族連中は、皇帝の後継者争いに夢中で、俺ら庶民の方を見てなくて、相変わらず、武器屋が儲かる物騒な世の中さ」
「ふぅん」
だが、世の中が乱れるほど、ただの村人だった俺にも立身出世のチャンスも増えるというものだ。そろそろ、もう少し大きい街に移るか。この町の周辺程度の魔物じゃ稼ぎも今一つだし、新しい剣も買ったし。明日にでも宿を出払って別の街に。そんなことを考えながら俺は武器屋を出た。
「じゃあな、おっさん」
もうこの武器屋に来ることはないかもしれないと思いつつ、店屋のおやじに軽く挨拶して表通りに出た。そして酒場に向かう。酒場には、外から来た商人や外から来た傭兵など、街の外の情報を持った者が集まりやすい。俺はそういう連中がたむろする酒場に向かった。この街を出る前に外の情報は重要である。が、酒場の前でひと騒動起きていた。
「うるせぇぞ、アマ」
「酒がまずくなるから、どっかうせろ」
「お願いです」
「誰か助けて!」
「私の村を、どうか、どうか、誰か助けて!」
「だから。うるせぇって言ってるんだろ」
酔っているらしい男たちと嘆願を繰り返す娘。
状況から察するに、娘が酒場に居た彼ら荒くれ者に助けを求め、断られているところのようだ。
「お金ならあります」
と言って娘が汚い革袋を取り出して中身を見せる。
「ケッ、銅貨ばかりじゃねえか」
「これがみんな金貨なら助けてやらんこともないけど、こんなはした金じゃ」
「チッ」
思わず舌打ちしてしまう。銅貨だって立派な金だ。貧しい村の生まれである俺には、その銅貨はきっと村中のひとたちから必死に集めた金だと分かる。
「くそったれが」
新しい剣を手に入れて気が大きくなっていたかもしれない。数的不利を失念して、その男たちの前に飛び出る。
「でかい図体して威張ってるけど、本当はビビッて、引き受けられないんだろ」
「おいおい、なんだガキ、独りで俺たちを相手するつもりか」
「面白れぇ、世間の厳しさってヤツを知りたいみたいだな」
「そうだな、ガキは大人に逆らうものじゃないって」
「うるせぇ、そっちこそ、死んでも恨むなよ」
俺は新しく買ったばかりの剣を鞘から抜いて身構えた。
「うむ、ここは数的に不利な方に加勢するのが騎士道であろうな」
成り行きを見守っていた野次馬の中から女戦士がスッと俺に近づいてくる。
「まだ、数的には不利だから、もう一人くらい加勢してもいいですよね」
さらに少女魔法使いが進み出る。それが俺たちパーティの最初の戦闘だった。
村を襲っていた魔物や魔族も俺たちが退治し、俺たちの冒険は、そこから始まった。
「この前までは、この剣、銅貨三十枚ぐらいだったろ」
「最近は魔物や魔族が多くて、武器は高く売れるんだよ。だから中古でも高値になる。気に入らなければ他を当たりな」
「ち、足元みやがって」
「それが商売ってものだよ、にいちゃん。で、どうする? 銅貨四十枚でも今の時世お値打ちな方だと思うぜ」
「分かった。銅貨四十で買うよ」
魔物の牙、毛皮、肉を売り、コツコツ貯めた金だが、よい武器が手に入れば魔物の狩りも楽になる。
損得勘定を考えたうえで俺は購入を決めた。
これで、腕に装備した木の丸い盾に鎖帷子、新しく手に入れた剣と、それなりに格好はついてきた。
「にいちゃん、魔物退治で名を上げるつもりかい?」
「名を上げるというより、帰る村がないから、仕方なくやってるってところだ。で、どうだい、最近、何か面白い話は?」
「いや、別に、魔族や魔物が増えて世の中物騒なのに、上の貴族連中は、皇帝の後継者争いに夢中で、俺ら庶民の方を見てなくて、相変わらず、武器屋が儲かる物騒な世の中さ」
「ふぅん」
だが、世の中が乱れるほど、ただの村人だった俺にも立身出世のチャンスも増えるというものだ。そろそろ、もう少し大きい街に移るか。この町の周辺程度の魔物じゃ稼ぎも今一つだし、新しい剣も買ったし。明日にでも宿を出払って別の街に。そんなことを考えながら俺は武器屋を出た。
「じゃあな、おっさん」
もうこの武器屋に来ることはないかもしれないと思いつつ、店屋のおやじに軽く挨拶して表通りに出た。そして酒場に向かう。酒場には、外から来た商人や外から来た傭兵など、街の外の情報を持った者が集まりやすい。俺はそういう連中がたむろする酒場に向かった。この街を出る前に外の情報は重要である。が、酒場の前でひと騒動起きていた。
「うるせぇぞ、アマ」
「酒がまずくなるから、どっかうせろ」
「お願いです」
「誰か助けて!」
「私の村を、どうか、どうか、誰か助けて!」
「だから。うるせぇって言ってるんだろ」
酔っているらしい男たちと嘆願を繰り返す娘。
状況から察するに、娘が酒場に居た彼ら荒くれ者に助けを求め、断られているところのようだ。
「お金ならあります」
と言って娘が汚い革袋を取り出して中身を見せる。
「ケッ、銅貨ばかりじゃねえか」
「これがみんな金貨なら助けてやらんこともないけど、こんなはした金じゃ」
「チッ」
思わず舌打ちしてしまう。銅貨だって立派な金だ。貧しい村の生まれである俺には、その銅貨はきっと村中のひとたちから必死に集めた金だと分かる。
「くそったれが」
新しい剣を手に入れて気が大きくなっていたかもしれない。数的不利を失念して、その男たちの前に飛び出る。
「でかい図体して威張ってるけど、本当はビビッて、引き受けられないんだろ」
「おいおい、なんだガキ、独りで俺たちを相手するつもりか」
「面白れぇ、世間の厳しさってヤツを知りたいみたいだな」
「そうだな、ガキは大人に逆らうものじゃないって」
「うるせぇ、そっちこそ、死んでも恨むなよ」
俺は新しく買ったばかりの剣を鞘から抜いて身構えた。
「うむ、ここは数的に不利な方に加勢するのが騎士道であろうな」
成り行きを見守っていた野次馬の中から女戦士がスッと俺に近づいてくる。
「まだ、数的には不利だから、もう一人くらい加勢してもいいですよね」
さらに少女魔法使いが進み出る。それが俺たちパーティの最初の戦闘だった。
村を襲っていた魔物や魔族も俺たちが退治し、俺たちの冒険は、そこから始まった。
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