ヒーローだって人間です

木全伸治

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ヘタレ勇者

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俺はもと勇者から勇者の剣と鎧を受け継ぎ、自身も勇者と呼ばれ始めていた。
ただの村人から数々の試練と苦難を乗り越えて、もと勇者との出会いを経て、二代目勇者として活躍しているその俺でさえ、この目の前の状況に「誰か助けて!」と叫びたい気分だった。
目の前では仲間であるはずの女戦士と少女魔法使いが口喧嘩を展開していた。
女同士の口げんかに、男は割り込みにくい。
「もうちょっとで、全滅するところだったじゃない」
「だって、あんなに次々とモンスターが出てきたら、こっちだって、息切れするわよ」
「体力しかとりえのない、脳筋の剣バカのくせに」
「ハ? そっちこそ、こっちが守ってあげなくちゃ、なにもできない貧弱魔法使いのくせに」
「貧弱? 頭脳労働専門と言いなさいよ」
「は? 頭脳労働専門って聞こえはいいけど、口先ばっかて意味でしょ」
「く、なによ、この筋肉巨乳! 筋肉で胸をかさ上げしてるの丸わかりのくせに」
「口先ばっかで、貧乳よりはマシだと思うけど」
「貧乳言うな!」
「貧乳は、貧乳じゃない」
「乳の大きさで威張るな・・・」
「あら、脳筋と言われたから、貧乳よりマシだと言いたいだけだったけど、そんなに貧乳なの気にしてたの、ごめぇん!」
さすがにもう我慢できなくなって俺は口をはさんだ。
「あ、あのさ、確かに、今日の戦いで危なくなりそうになったのは事実だけど、こうして無事に宿屋までたどり着き、せっかく夕飯にありついてるんだから、もう少し仲良く・・・」
「は、あんた、何言ってるの。今日の戦闘、あんたにも責任があるでしょ」
「え、俺?」
「そうですね、仮にも勇者と呼ばれる戦士が、あの程度のモンスターひとりで押し返せないなんて、問題ですよね」
女戦士の言葉に少女魔法使いもウンウンと同意する。
「いや、俺だって一生懸命やってただろ」
「一生懸命? 勇者にしか使えない剣とか鎧とか持ってるんだから、もっと活躍してもいいんじゃない」
「い、いや、この装備は・・・」
「だいたい、今まで弱かったあんたにいい装備を回してあげてたのは誰だと思ってるの」
「そうそう、誰かさんなんて、お金がなくて一時期ビキニアーマーとかいう妙な鎧でしのいでたものね」
「そうそう、いっつも苦労するのはあたしらで、あんたは気が付けば勇者様様で、こっちはお付き扱いのときもあったし・・・」
「いや、勇者と呼ばれるようになったのは成り行きで・・・」
なんか俺に怒りの矛先が向けられてきたので、助けを求め、俺たちのパーティのもうひとりの男性である、神官のおっさんをちらりと見たが、彼はわれ関せずという風で一人、黙々と食事を続けていた。
「ちょっとあんた、どこ観てるの」
「そうですよ、勇者、今日の戦いだって、あなたがもっと勇者の剣を上手に使えてたら、もっと楽に勝てたんじゃありませんか」
「は、はい、すみません」
仲間の女戦士と少女魔法使いに同時に責められ俺はヘコヘコと頭を下げていた。
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