ヒーローだって人間です

木全伸治

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美食家魔王

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魔王は急に食事の手を止め、ため息をついた。
「こいつは、前に食ったな・・・」
まずくはない。だが、前に食ったことがあると感じると、もう食が進まなかった。
魔王の玉座の前には、急に呼び出されたこの魔王城の厨房を預かる料理長が、ひざを折り控えていた。何か料理についてご不満があり叱責されるのではと怯えている感じだった。
「そなたは魔界一の料理人であろう、そなた以上の料理人は、魔界、人間界、すべての世界を見渡してもおるまい」
「それは、有り難きお言葉・・・」
「だが、今日の料理は前に食べたモノと同じだったな」
「は、以前、魔王様がたいへん美味だったと気に入られたと聞き、また作ってみましたが、何か問題でも？」
「いや、今日も美味かった。だが、余としては二度も同じ料理はつまらん。毎日、違う美味で余を楽しませて欲しいのだ」
「は、はぁ、ですが魔王様、魔界の極上の美味と呼ばれる食材は料理して、お出し尽くしたかと」
「うむ、なるほど、確かに、余も、魔界の食材は食べつくした感はある」
「もし、これから毎日のように違うものをご所望ならば、人間界から新しい食材を手に入れていただければ・・・」
「だが、人間界とは全く国交がない、それに人間は魔族や魔物を嫌悪する傾向にある。魔界にない食材を手に入れるには、こちらから侵攻して奪うほかないが・・・」
こうして、極上の美味を求める魔王軍の人間界への進軍が始まった。

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