ヒーローだって人間です

勇者侵攻

魔王城は人類最強の勇者一行の進撃の報を受け、騒然となっていた。
「陛下、またひとつ街が落とされました」
「一つ目巨人族の村、全滅、生存者なし、金目のものはすべて奪われたと」
「砂漠の甲虫族も壊滅、敗走中」
「呪いの森のダークエルフも全滅、皆殺しかと」
「勇者どもめ、容赦なしか」
その最強の力を惜しげもなくさらしての無慈悲な行軍である。
「はい、この魔王城を目指して一直線に肉迫してきております。しかも、途中の魔物や魔族を見つけては、片っ端から殺し、金品を奪って路銀にしているようです」
「おいおい、金品の強奪とは、どっちが魔物か分からんな」
「はい、しかも、奪った武器などは売り払って、さらに金を得る鬼畜ぶり」
これには魔王も、苦笑を浮かべるしかなかった。
「全軍に伝えよ、これ以上勇者に手を出すな」
「この魔王城で、このわし自らが相手する」
「陛下おひとりで？」
「そうだ。無駄な犠牲を、これ以上増やすわけにはいかん」
魔王は、魔族を束ねる長である。魔族の存続に責務がある。
「ま、この世界の半分をくれてやってでも、魔族の滅亡だけは避けねば」
自分の首と世界の半分で魔族の滅亡を阻止できるのなら、それもやむなしと腹をくくった。