ヒーローだって人間です

木全伸治

文字の大きさ
上 下
75 / 228

アイデアノート

しおりを挟む
高校の時、木村という同級生がいた。彼女は授業と授業の合間の休み時間になると一人机に座り、ノートに何かコソコソ書いていた。ある日、男子生徒の一人がそれを取り上げて、
「アイデアノートだってよ」
仲間の男子とともにその表紙の文字を読む
「やめて、返して!」
彼女は叫んだが、調子に乗った男子たちはやめずに中のノートを勝手に開いて読み始めた。それは漫画を描くことをひそかな趣味にしていた彼女のアイデアノートだった。
「なんかびっしり書いてある」
「おい、異能力だって」
「中二病ってやつか」
男子たちの笑い声と泣きそうな木村さんの顔が目に入った。
「いい加減にしなさいよ、上田」
彼女とは同じクラスメイトという以外共通点はない。はっきり言ってしまえば友達ではないのだが、なんかその男子が目障りなので、つい前に出てにらんでしまった。
「なんだよ、オマエ。関係ないだろ」
「うるさいのよ、ガキ」
「は、ガキ?」
「高3にもなって女子いじめて喜んでるなんて、小学生以下じゃない」
「な、何だと・・・」
上田はなにか反論しようとしたが、他の男子が気圧されてソッと彼から離れたので、自分の不利を悟った上田はしぶしぶノートを彼女に返した。
で、十年ほどした同窓会の会場の居酒屋前で、その上田は彼女に土下座していた。
「お前の描いたヒーロー漫画がアニメ化されて儲かってるんだろ。うちのおやじの工場、今、やばいんだよ。ちょっと金貸してくれよ」
それを見かけたとき、なんという喜劇だと、私は笑いをこらえながら二人に近づいた。
「上田、学生のころ彼女になにしたのか忘れたの」
「い、いや、あの頃は俺もガキで・・・」
彼女が学生の頃に書き溜めていたあのアイデアノートは、現在、漫画家として大活躍する彼女の糧となっていた。
「あ、久しぶり」
「久しぶりね、木村さん」
私たちは軽く笑い合い、上田を無視して居酒屋の中に入る。いくら昔のこととはいえ、今さら土下座されても金を貸す義理は彼女にはない。
「そうそう、あなたの原作単行本最新刊買ったわよ」
「あ、言ってくれたら、サイン入りでプレゼントしたのに」
「いいわよ、友達にねだる趣味はないから」
あの一件以来、私と彼女は仲良くなり、友人として、学校卒業後も、いまでも、たまにメールのやり取りをする程度の仲にはなっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...