ヒーローだって人間です

木全伸治

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願い

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「嘘・・・でしょ・・・」
「いえ、あなたの願い確かに聞き届けました」
「でも、例えばできるのと聞いただけでしょ」
「はい、例えばうざい上司を消せるのか、でしたね」
「ええ、そう、例えばの話よ」
「ですが、私の力を信じていただくには、実際に私の力をお見せするのが一番かと思いまして」
「でも、大丈夫。こちらが力を見せるために勝手にやったことですから、これで、願いは終了なんて言いませんから」
「ちょっと、待って携帯が、はい、何ですか、え? 部長が、事故で即死ですか」
「あ、はい、お葬式のお手伝いで課長は部長のお宅に。明日は普段通りに出社して、あとは社長の指示で。じゃ、お葬式の日程が決まったらうちの部署全員で。あ、はい、喪服あります」
「どうです。すごいでしょう」
「え、ええ、びっくり」
「で、どんな願いにしますか」
「一晩考えさせて、誰かがいなくなってしまえばいいなんて、一瞬、スカッとするけど、それで世の中解決しないから」
嫌な奴をひとり殺したからと言って、この世界が快適になる保証はない。
そうして一晩考えて願いを口にした。
「誰も見たことない世界へ、ちゃんと空気と食べ物がある異世界に連れてって」
「異世界?」
「そう、このくそつまらない現実から私の存在を消して、別の世界で新しい人生を」
「なるほど、自身をこの世界から殺してほしいと」
「いや、その、ラノベ風の異世界での第二の人生ってヤツなんだけど?」
「ですけど、この世界から存在を消すって死ぬってことと変わりませんよ」
「ま、いいわ、とりあえず、この世界で死んだとしても、どうせ、誰も悲しまないだろうし、もう、なんかこの世界に疲れたし」
「じゃ、恐竜だらけの異世界でもいいですか」
「ちょっと待って、人間のいる世界にして」
「どの異世界にしても、この世界が一番良かったと後で後悔しても知りませんよ」
「大丈夫、後悔なんて、もうこの世界でしまくってるから」
「はい、分かりました」
そうして、わたしは異世界で新しい人生を始めた。
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