ヒーローだって人間です

木全伸治

文字の大きさ
上 下
66 / 228

勇者の顛末

しおりを挟む
すべての始まりは数十年前、人間界と魔界とのわずかな隙間から魔族や魔物があふれだすように侵攻してきたときから始まる。その村の少年は魔物に村を襲われ、幼馴染や両親を惨殺され、天涯孤独の身となり、復讐の旅に出て、いつしか、勇者と呼ばれる強者になり、仲間とともに魔界と人間界をつなぐ道を封印する方法として封印のための光の宝玉を光の女神から得て、それを見事に使い魔界と人間界を完全に分断し、人間界を平和に導いたが、平和になった途端、それまで共通の敵相手に協力し合っていた諸国が互いの利権のために争いを始め、世界に名を知らしめていた勇者も、知り合いの国王の依頼で、とある紛争に加勢したところ、勇者の加勢した側は勝利したが、勇者は世間から人間に刃を向けるのかと囁かれ、なんか嫌気がさして、田舎に引っ込み、魔界封印の功労である各国からの報奨金を、すべて生まれた村の再建に使い、いまは、かつての名声も忘れられ、ただの白髪の老人として片田舎で余生を送っていた。
「勇者か、会ってみたいな」
ただの貧しい村の村人から多少は冒険者として強くなってきていた俺は、かつて勇者と呼ばれた男がこの近くに住んでいると聞き会いたくなった。
「そうだな。私も、勇者の剣技には興味がある」
「私も勇者の使う魔法には興味があります」
「うむ、それも良いかもしれん」
俺の連れの女戦士と少女魔法使いに神官のおっさんもあっさり賛同する。
で、その家屋は、村のはずれに本当にひっそりとみすぼらしく建っていた。
世界を救った勇者にしては、何ともみすぼらしい建物だ。彼は人間同士の争いに一回だけ加担したのち、他者との関わりを避けて、ここに隠居したということまではあまり知られていなかった。
「あの、すみません、どなたかいますか」
返事はなく、仕方なく俺は中に入った。家の中には一人の美少女がいた。
なんか人間離れした美貌の少女で、後で知ったことだが、かつての魔界封印の際、人間界に取り残されて勇者に拾われた魔族の女性だった。
「あ、すみません、勝手に入って。返事がなかったもので。あの、ここに元勇者がいると伺ったんですが」
「あ、ご主人様に御用ですか。申し訳ありません、ご主人様は誰とも・・・」
「あ、よいよい、ちょうど退屈してたところだ。老人の話し相手になってくれんか」
家の奥から声がして、ベットの上で、けだるそうに体を起こしていた老人と対峙した。
そうして、俺は仲間の神官のおっさんや女戦士と少女魔法使いも呼んで、これまでの冒険などを老人に語り聞かせた。帝国内の皇位継承争いで魔界との封印が壊されたことを教えるともと勇者はハハハと笑った。
「そうか。わしらが数十年前に施した封印が壊れたか。ま、人間の業じゃな」
「で、このおいぼれにどうしてほしいと? また封印してくれと言われても、この老体じゃ、何も出来んぞ」
「いえ、できれば、私たち未熟者に稽古をお願いできませんか。修行を見ていただき何かアドバイスを頂ければ幸いです」
「うむ、ま、見るだけなら、いいじゃろ。ちょうど最近退屈しておったでな」
そうして、俺たちは元勇者のもとで修業を始めた。が、その修行中、その勇者の家を魔族と魔物の群れが襲撃し、激しい戦いの末、元勇者は命を落とし、俺は元勇者の剣と鎧を受け継ぎ、元勇者を弔って、その地を去った。しばらくして、風のうわさで、あの魔族の女性が元勇者の子を身ごもっていて、人目のつかない田舎で勇者の大切な忘れ形見を生み育てていると聞いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...