61 / 228
私立探偵
しおりを挟む
私立探偵と言えば小説や映画ではかっこよく活躍するが、興信所と言い換えると途端に聞こえが悪くなる。ま,私立探偵が殺人事件に出くわす可能性は現実的には,かなり低い。
殺人事件が交通事故並みに頻繁に起きているなら話は別だが、世間はつい弾みで殺してしまったという殺人ばかりで,小説や映画みたいに私立探偵が活躍する密室殺人は現実にはあり得ない。
俺が私立探偵を始めたきっかけは興信所のバイトで浮気調査のための尾行を経験し、わりといいバイト代が入ったからで、ハードボイルドは始めから期待していない。実際,私立探偵として開業してからの仕事は、浮気調査や婚約者の素行調査や会社の金を横領してそうな社員の素行調査などばかりで、今回も奥さんからの依頼でご主人の浮気調査を行った。
「結論から言いますと,ご主人は浮気されていません。これがこの三ヶ月のご主人の行動調査の資料です」
俺は,依頼主と喫茶店で待ち合わせ、その喫茶店のテーブルに向かい合わせに座っている奥さんに資料の入った茶色い封筒を渡した。
奥さんはそれを受け取ると、自分の目で中の資料の確認を始めた。調査中に隠し撮りした写真も数百枚ほど入っていた。文字資料より、写真の方が説得力があるので、たくさん撮ってある。真面目に仕事中のご主人を隠し撮りした写真や,夜、部下の男性社員と飲んでいる写真など、奥さん以外の女性と会っている写真は一枚もない。
俺は注文したコーヒーを飲みながら,奥さんが資料に目を通すのを待った。
「本当にあの人が浮気してないっていうの?」
何だか信じられないという風に奥さんが口を開く。
「はい。少なくとも、私どもの調査では何も出てきませんでした」
「そんなはずないわ。きっと浮気してる」
「その根拠は何です」
「女の勘よ」
「勘ですか」
「ええ、そう。これじゃ慰謝料が取れないじゃない」
「慰謝料目当ての浮気調査ですか」
「そうよ、悪い?」
「いいえ、それなら、ご主人にハニートラップを仕掛けることをお勧めします」
「ハニートラップ? 浮気する女を用意するってこと?」
「はい、こちらも、その手の相談はよく受けるので」
世の中,ヒーロー気取りではメシは食えない。
俺は冷めかけたコーヒーを一気に飲み干す。
「奥さん。煙草、いいですか」
「ええ、どうぞ」
俺は煙草に火をつけ一服すると,ハニートラップの相場や手口の説明を始めた。
あれから5年後。
うまく夫をハニートラップにはめてたっぷり慰謝料を受け取って再婚したあの女性から再び依頼があった。今度は、初めから再婚相手の夫にハニートラップを仕掛けて欲しいという依頼だった。
殺人事件が交通事故並みに頻繁に起きているなら話は別だが、世間はつい弾みで殺してしまったという殺人ばかりで,小説や映画みたいに私立探偵が活躍する密室殺人は現実にはあり得ない。
俺が私立探偵を始めたきっかけは興信所のバイトで浮気調査のための尾行を経験し、わりといいバイト代が入ったからで、ハードボイルドは始めから期待していない。実際,私立探偵として開業してからの仕事は、浮気調査や婚約者の素行調査や会社の金を横領してそうな社員の素行調査などばかりで、今回も奥さんからの依頼でご主人の浮気調査を行った。
「結論から言いますと,ご主人は浮気されていません。これがこの三ヶ月のご主人の行動調査の資料です」
俺は,依頼主と喫茶店で待ち合わせ、その喫茶店のテーブルに向かい合わせに座っている奥さんに資料の入った茶色い封筒を渡した。
奥さんはそれを受け取ると、自分の目で中の資料の確認を始めた。調査中に隠し撮りした写真も数百枚ほど入っていた。文字資料より、写真の方が説得力があるので、たくさん撮ってある。真面目に仕事中のご主人を隠し撮りした写真や,夜、部下の男性社員と飲んでいる写真など、奥さん以外の女性と会っている写真は一枚もない。
俺は注文したコーヒーを飲みながら,奥さんが資料に目を通すのを待った。
「本当にあの人が浮気してないっていうの?」
何だか信じられないという風に奥さんが口を開く。
「はい。少なくとも、私どもの調査では何も出てきませんでした」
「そんなはずないわ。きっと浮気してる」
「その根拠は何です」
「女の勘よ」
「勘ですか」
「ええ、そう。これじゃ慰謝料が取れないじゃない」
「慰謝料目当ての浮気調査ですか」
「そうよ、悪い?」
「いいえ、それなら、ご主人にハニートラップを仕掛けることをお勧めします」
「ハニートラップ? 浮気する女を用意するってこと?」
「はい、こちらも、その手の相談はよく受けるので」
世の中,ヒーロー気取りではメシは食えない。
俺は冷めかけたコーヒーを一気に飲み干す。
「奥さん。煙草、いいですか」
「ええ、どうぞ」
俺は煙草に火をつけ一服すると,ハニートラップの相場や手口の説明を始めた。
あれから5年後。
うまく夫をハニートラップにはめてたっぷり慰謝料を受け取って再婚したあの女性から再び依頼があった。今度は、初めから再婚相手の夫にハニートラップを仕掛けて欲しいという依頼だった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる