ヒーローだって人間です

木全伸治

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ドリルは男のロマン

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会議室は煙草の臭いが染みつきそうなほどモクモクとした煙で充満していた。
ロボットにドリルを装備させるかどうかで、もう三時間ほどもめている。
それぞれ、紙コップにコーヒーが入っていたが,そのコーヒーもすっかり冷めて,灰皿の煙草の吸い殻だけがどんどん増えていた。
「確かにドリルの方が駆動系は単純で壊れにくいだろう。だが、運用面でドリルが必要になる場面は」
「どうせ、万博用の見世物ロボットなんだ。実用性より、見た目のインパクトでいいだろ」
「そうですね。世界に,日本の下町工場の技術力をアピールできればいいんですから」
今回のプロジェクトは、政府が資金を提供しているが、日本の技術力を世界に宣伝するのが目的で大企業の開発部からも何人か出向しているが、この会議室には営利目的ではない下町の技術屋ばかりが集まっていた。そして、だいたいが、昔見たロボットアニメにノスタルジーを抱えているおっさんばかりであった。
「ドリルは腕の予備の交換パーツとして作って置いて、デモンストレーション時に交換してポーズをつけさせるとか」
「なるほど、ただロボットを歩かせるだけでは面白くないからな」
「剣とか盾も持たせたいですな」
「いや、露骨な武装はまずいでしょう」
「ええ、どっかから兵器開発だとか難癖つけられかねません」
「じゃ、ドリルは予備交換パーツとして採用でいいですか、皆さん?」
「鉄球も、どうですか。ロボットにハンマーってカッコよくありません?」
「鉄球なら、いまある重機からの流用もできるし、いいかもしれませんね」
「では、とりあえず、ドリルや鉄球は腕の交換パーツとして作成ということで」
「後は外見のデザイン発注の方は」
「すでに某アニメデザイナーに依頼済みで、もうすぐ上がってくるかと」
「よろしくお願いします」
そうして,男たちのロボ造りは進んだ。が、万博のお披露目前に東京に宇宙怪獣が飛来した。
「堅いな。さすが大気圏を無傷で突破してきただけはある」
自衛隊からロボのパイロットとして出向してきた彼は、ロボを操作しつつ苦笑していた。
『こんなこともあろうかと、ドリルの先端には人工ダイヤが埋め込んである。そいつで貫け』
通信機から開発主任のおっさんの声が聞こえる。
「おっしゃ、やったる」
ギュルルルルル。
ドリルが回転し,宇宙怪獣に見事に突き刺さった。
「よし、まずは一匹!」
彼は二匹目に向かっていた。ロボットは万博の見世物用が一台だけで、相手の宇宙怪獣は群れだった。だからと言って、逃げる気にはなれず、下町製ロボットは戦い続けた。
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