ヒーローだって人間です

木全伸治

文字の大きさ
上 下
41 / 228

桜の木の下で場所取り

しおりを挟む
「うむ、よし、これでいいな」
桜の下にブルーシートを広げ四隅に石を置き、いい場所を確保する。
いくら三下の戦闘員とはいえ、花見の場所取りとは、いささか悪の組織の一員としては情けない気はするが、今頃他の仲間たちはヒーローたち相手に派手にやりあっているはずだから、そんな彼らの労をねぎらう意味で、花見でいい場所を確保するのも、組織人としては重要な役割だろうとは思う。それに、力の差がハッキリしているのに、上からの命令に従って無理して立ち向かってヒーローにボコられるより、花見の場所取りを任されたのは幸運だったと思うべきなのかもしれない。
俺はあまり頭がいい方じゃない。だから、悪の組織のザコ戦闘員なんかやっているわけだが、ヒーローとの力の差を理解できないほどおつむはゆるくはない。
「さて、みんなが来るまで昼寝でもしてるか」
天気は良く、気温も春らしいポカポカ陽気だ。昼寝しながら場所取りするのも悪くないと思ったときだった。
「貴様、そんなところで何をしている!」
「みんなの憩いの場所で、何の悪だくみだ!」
なんだなんだと声のした方を見るとそこには、五色の原色の戦闘スーツに身を包んだ正義の味方がいた。
「怪しい奴がいると聞いて来てみれば、貴様何をしている」
「いや、ただの花見の場所取りだよ。それより、貴様らこそ、どうしてここに? 我らの仲間と戦ってるはず」
「は? あいつらなんて、三十分で片付けたさ」
「ちっ」
舌打ちしながら、ヒーローたちと対峙する。せっかく確保した場所だが、五対一では不利なのは分かりきっている。けれど、戦闘員にだって意地はある。ボコられるの覚悟のうえで、花見の場所の防衛をたった一人で始めた。

騒がしくて、その声で目を覚ますと、総帥や将軍たちが、桜の下でドンジャか騒いでいた。
「ん、気が付いたか、ご苦労だったな」
「おう、ようやったな、気絶しても、この場所を、正義の味方に譲らなかったんだろ。偉いぞ、うん」
「あいつら相手に一歩も引かねとは、お見事」
総統をはじめとする幹部たちが、目覚めた俺に賞賛の声をかけてくれる。そうだ、思い出した。何度もボコられても、そのたびに立ち上がり、「花見の場所は譲らんぞ」と恨めし気に言ったので、連中は、気味悪がって撤退したのだ。それを見届けて、俺は気絶した。その気絶している間に、みんなが来て、俺を気遣って起こさず先に宴を始めていたのだ。
「素晴らしい勝利だ。ここは、我らが、あ奴らから勝ち取った最初の支配地だ」
「うむ、さ、飲んで、食うが良い。これは、そなたの勝利を祝う宴でもある」
「あ、どうも」
三下の戦闘員である俺が、その花見の主役にさせてもらえて恐縮だった。正直、俺はゴキブリのごとくしぶとく立ち上がり続けただけで、そんな賞賛されるような活躍をしたつもりはなかったが、その花見の夜だけは、みなとたっぷりと缶ビールを開けて楽しんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...