ヒーローだって人間です

木全伸治

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コタツ、怖い

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「コタツ出したわよ」
俺の助手で、ヒーローである俺の戦闘でのパートナーでもある彼女は俺の探偵事務所兼生活空間であるマンションに顔を出し、無邪気にそう言ったが、俺は、テレビの前に鎮座するそれを見て、ゲッとなった。
「コタツ、今年はやめないか」
「なんで?」
「先週戦ったやつ、コタツ怪人だったろ? だから、あいつのことつい思い出してさ」
俺は探偵業を営む傍ら、正義の味方という金にならない副業をやっていて、助手である彼女も変身能力を持つヒロインをやっていた
「なに言ってるの? 先週の怪人なんて、きっちりヒーローとしてあんたが倒したじゃない」
「いや、けど、眠くなる赤い怪光線出したり、眠気を誘う熱風を吹きかけてきたり、結構苦戦したから、ちょっとそいつを思い出して、コタツ、怖いなって気分でさ」
「情けないわね、あんたそれでもヒーロー?」
「自分だって、クリスマスケーキ怪人に襲われた後、近所のケーキ屋さんに、クリスマスケーキの店頭販売やめろって怒鳴り込んでたくせに」
「あ、あれは、怪人のせいだけじゃなくて、クリスマスケーキを買うリア充の姿を観たくなかったからで、あんただってクリスマスなんて爆発しろって、クリスマスケーキ怪人に、八つ当たり気味に攻撃してたじゃない」
「当たり前だ。こっちはリア充どもが安心してクリスマスイブにホテルでエロいことできるように頑張ってるんだ。そういう八つ当たりをして何が悪い」
「なら、あたしが、近所のケーキ屋さんに怒鳴り込んでも文句はないでしょ」
「ま、それはそれとしてだ、本当に今年、コタツ、やめないか」
「ヘタレ・・・」
「ああ、ヘタレで悪いかよ、それだけ命がけで戦ってるんだからな」
世の中、ヒーローは勝って当然と思われているようだが、敵も死にたいとは思わないから、死に物狂いで襲い掛かってくるから、怖い。殺されそうになる恐怖がどれだけ恐ろしいかは、戦争経験者の帰還兵がおかしくなるのと同じだ。彼女は、ただやれやれと肩をすくめるだけで、出したコタツを、元に戻そうとはしない。
「ヒーローだったら、そんなコタツの恐怖とも戦いなさいよ」
「・・・ああ、わかったよ」
俺はやけくそ気味にコタツに潜り込み、他に誰も入れないほど、全身をコタツに突っ込んみ、四方から亀のように手足をちょこっと出して、バタバタさせた。
「ちょっとあたしの入るスペースは?」
「これは、俺のコタツだ。何か、問題でも?」
「コタツ怖いとか言いつつ、そのコタツを独占するつもりね。させるか!」
彼女は、ガバッとコタツ布団をめくり上げて、潜り込んできた。
「お、おい、狭いだろ」
「う、うるさい、もっとあんたが詰めなさいよ」
本物のコタツの魔力は恐ろしい。そうして、ヒーローヒロインたちは、次の新たな怪人が現れるまで、そのコタツのある部屋で、ダラダラと過ごした。

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