ヒーローだって人間です

木全伸治

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父は、天才科学者だった。

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父は天才科学者だったらしい。らしいというのは、俺が小学生の頃に母と離婚したので、父が天才科学者だったというのを実感する機会がなかったためだ。天才ゆえ、自分の研究開発に夢中で、家庭というものに興味がなかったのだろう。俺も父との思い出は、たまに、日曜日の朝のヒーロー特撮番組を一緒に観たなといううすぼんやりした記憶しかない。
だから、父が死んで、その遺産が俺にプレゼントされると聞いた時も、何だかピンとこなかった。母も、「自分の目でその遺産を見てきて、いらないなら自分で決めて拒否しなさい」と,言われ、アメリカの父の研究所に向かった。
出迎えてくれたのは、父の片腕だったという副所長のフジタという日系人のおっさんだった。
父の死後、研究所は閉鎖され、フジタさんはその施設の管理人をしているという。遺産というのはその研究所そのものらしい。父はいくつもの発明特許をアメリカで所持していて、その特許料で、自前の研究所を持ち、独自の研究開発をしていたそうだ。
父の死後、閉鎖された研究所内は無人で、警備兼お掃除ロボとすれ違うくらいで、所内は静かだった。
「ここも、最盛期は、2百名ほどの科学者が集まっていたのですが、所長が亡くなると、すぐ、みな別の研究施設に移ってしまって、寂しいものですよ」
「フジタさんは、別のところに移ろうとしなかったんですか?」
「こんなに年の食った、おっさん科学者なんてどこも欲しがりませんよ。それに、ここの管理人をするだけでも、お金は出ます。あなたのお父上は、自身が亡くなった時を見越して、ご自身の特許の管理を私設した財団に委ね、ここの管理維持費はそこからきちんと出るようにしてあります。ここを処分できる権を持つのはご子息である、あなたのみです」
「はぁ・・・、しかし、俺、いまはただのサラリーマンでこんな研究所を引き継いでも、使い道は・・・」
「ま、地下の特別区画を覗いてみてください。お父さんからのあなたへのプレゼントです」
「プレゼント?」
「特撮ヒーローが好きだったとか。その気持ちが変わらないのなら、最高に素敵なプレゼントですよ」
「?」
俺は首をかしげながら、地下へと案内された。そこには、特撮ヒーローが着そうな戦闘強化服や、巨大格納庫に収まった巨大ロボがあった。
だが、地下から怪獣が目覚めたり、異世界から、謎の軍団がやってくることも、外宇宙からエイリアンが攻めてくることもなく、俺は、寿命を迎えそうである。
だから、俺の父が残した遺産は、俺の孫にプレゼントすることにした。あの研究施設は、財団が維持管理を続けているはずだし、俺が生きている間に、異変はなかったが、孫の時代に何か起こるかもしれないとプレゼントすることに決めたのだ。
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