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怪人たちのお気に入りのあの店
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正義の味方と戦うために生み出された怪人たちだが、言葉を話すし、人間並みの知能もあるし、腹も減る。だが、その異様な風貌のため、一般的なお店に入ることはできない。入れば、パニックを起こすのは必定だ。だが、その脱サラで、喫茶店を始めたという白髪の店主は、奇妙なマスクをつけた戦闘員たちを引連れた異様な風体の怪人たちが入店してきても、一瞬だけ驚いただけで、客として、接客してくれた。なので、出撃前の怪人や戦闘員が、ふとコーヒーや軽食を楽しむため、彼らは、よくその店に立ち寄った。愛知県出身の店主のその喫茶店のメニューには、モーニングセットとして小倉トーストがあったり、鉄板ナポリタンというメニューもあった。怪人たちは、その鉄板ナポリタンや小倉トーストを美味だと言って、とても嬉しそうに食べた。
だが、いくら店主の出す食事が気に入っても、怪人たちで、もう一度、この店を来店する怪人は、まれだった。大抵は、正義の味方にボコられ、爆散して、二度と、この店には来れなくなったからだ。鉄板ナポリタンをズルズルと美味い美味いと言いながら食べてくれた狼男みたいな怪人や、包帯だらけのミイラ怪人が、小倉トーストの味に笑みをこぼしていたのを店主は覚えていた。
だが、初めて彼らがこの店を訪れた春先には、たくさんいた彼らも、春、夏、秋、冬と季節が過ぎていくごとに人数が減り、ある日を境にぱったりと誰も来なくなった。
そして、店主が、少し寂しい気分を味わっていたある春の日、見たことのないマスクを被った戦闘員たちを連れた、これまた見たことのない怪人たちが、ガヤガヤと店内に入って来た。そして、一年前と同じように店主は、一瞬だけ驚きながら彼らを客として接客した。だが、その中の戦闘員の声に聞き覚えがあった。
「あの、もしかして、前にもこの店に来ていただいてませんでしたか」
「あれ、マスター、もしかして、声で分かった?」
「はい、いつもうちのコーヒーをご注文して下さってましたよね」
「あ、ええと、前の組織が、正義の味方に潰されちゃって、こっちの組織に転職させてもらったんだ。で、怪人でも行けるお店って紹介したら、みんなで行こうって話になってさ、マスター、迷惑だった?」
「いえいえ、新しいお客さんを連れてきていただき、ありがとうございます」
「あ、そうだ、うちに再生怪人ってのがいて、風体はちょっと変わったけどマスターの味を覚えている奴らもいるんだけど、今度連れて来ていい?」
「ええ、構いません。うちの定休日は覚えてますね」
「覚えてるよ、じゃ、また一年、よろしく」
「一年とは言わず、何年でも、当店はお待ちしております」
「ありがとう、マスター」
店主の笑みに、その戦闘員もマスクの下で笑みを返していた。
だが、いくら店主の出す食事が気に入っても、怪人たちで、もう一度、この店を来店する怪人は、まれだった。大抵は、正義の味方にボコられ、爆散して、二度と、この店には来れなくなったからだ。鉄板ナポリタンをズルズルと美味い美味いと言いながら食べてくれた狼男みたいな怪人や、包帯だらけのミイラ怪人が、小倉トーストの味に笑みをこぼしていたのを店主は覚えていた。
だが、初めて彼らがこの店を訪れた春先には、たくさんいた彼らも、春、夏、秋、冬と季節が過ぎていくごとに人数が減り、ある日を境にぱったりと誰も来なくなった。
そして、店主が、少し寂しい気分を味わっていたある春の日、見たことのないマスクを被った戦闘員たちを連れた、これまた見たことのない怪人たちが、ガヤガヤと店内に入って来た。そして、一年前と同じように店主は、一瞬だけ驚きながら彼らを客として接客した。だが、その中の戦闘員の声に聞き覚えがあった。
「あの、もしかして、前にもこの店に来ていただいてませんでしたか」
「あれ、マスター、もしかして、声で分かった?」
「はい、いつもうちのコーヒーをご注文して下さってましたよね」
「あ、ええと、前の組織が、正義の味方に潰されちゃって、こっちの組織に転職させてもらったんだ。で、怪人でも行けるお店って紹介したら、みんなで行こうって話になってさ、マスター、迷惑だった?」
「いえいえ、新しいお客さんを連れてきていただき、ありがとうございます」
「あ、そうだ、うちに再生怪人ってのがいて、風体はちょっと変わったけどマスターの味を覚えている奴らもいるんだけど、今度連れて来ていい?」
「ええ、構いません。うちの定休日は覚えてますね」
「覚えてるよ、じゃ、また一年、よろしく」
「一年とは言わず、何年でも、当店はお待ちしております」
「ありがとう、マスター」
店主の笑みに、その戦闘員もマスクの下で笑みを返していた。
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