ヒーローだって人間です

木全伸治

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戦闘員だって目立ちたい

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モブである戦闘員だって目立ちたいという願望を持ってもおかしくはない。その夢の叶え方を考えても何ら不思議ではない。
マスクとコスチュームを脱いでしまうと悪の組織の構成員であっても、見た目は普通の人と変わらなくなる。
彼らは、仲間同士で、安くて料理が美味いのが売りの居酒屋チェーン店にいた。
「相手を少しでも疲労させてその戦力を少しでも削ぐための突撃かもしれないけど、上は、ただ突っ込めの一点張りだもんな」
「ま、もう少し戦術を考えて欲しいよな。いつもワンパターンすぎる」
「で、突っ込んでいったら、あいつら情け容赦なく、殴りかかって来るしな」
「そうそう。俺たち戦闘員が弱いの毎回戦ってて知ってるはずなのに、正義の味方のくせに、あいつら問答無用で殴る蹴るの暴力が大好きだよな」
「ああ、正義の味方とかいう割に、いつも、最後は暴力で解決だもんな」
「見せ場なく、すぐ倒されて、退場させられるモブの身にもなれって言うんだ」
「そうだよな。あ、お姉さん、生もう一杯」
「はい、ほかにご注文は?」
「とりあえず、生で、料理の追加はあとで」
「おいおい。お前、今日は飲むな」
「飲まずにやっていられるかっての。お前らは、今日はレッドとかにやられたからいいけど、俺なんか、画面隅のいつも見切れそうなピンクにやられたんだぜ」
「そりゃ、目立ちようがないな」
「あのピンク、そんなに強そうには見えないけど、なんであいつらのメンバーにいるんだ」
「だよな、他のメンバーだけで十分強いんじゃね。たまに、仲間と喧嘩したのかピンクだけ浮いてるときもあるよな」
「そう、ピンクなんていらねえよな」
「誰がいらないですって」
近くのテーブルにいた女性が、スッと立ち上がる。
「げ、ピンク…」
彼らは絶句した。戦闘以外で出会うはずのない、正義の味方と、遭遇したのである。
「な、なんでここに…」
「女一人で寂しく飲んでて何か問題でも?」
後で分かったことだが、ピンクは戦隊五人の中で、最も血の気が多く、そのため、戦闘では、チームワークを乱さないように自主的に控え目な立ち位置にいたのだ。
で、マスクやコスチュームを着ていない俺たちを、店の外に連れ出し、一方的にボコった。レッドやブルーの方が平和主義者だと、俺たちザコ戦闘員は思い知らされた。 
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