27 / 228
昭和の香りがする喫茶店
しおりを挟む
お気に入りのあの店を見つけたのは、夏の暑い日、得意先での打ち合わせを終えて、自宅に戻る途中で、あまりの暑さに涼を求めて、『秘密基地』というなんとも適当な店名の喫茶店をドアを開けた。思った通り、店内はきちんと冷房が効いていて、アイスコーヒーを頼んで、一休みさせてもらった。フリーランスなので早く自宅に戻らなければならない理由はないので、アイスコーヒーを飲むぐらい問題ない。
それにしても、なんとなく昭和臭い店内で、店主がひとりきり、カウンターの中にいるだけで客も俺だけだった。だが、その店主の顔には、見覚えがあった。誰だろう、学校の先生か、それぐらいの年齢差はある。だが、教師を辞めて、喫茶店を始めた先生の噂は聞いたことないし、元教師という雰囲気でもない。とにかく、見覚えはある。で、最初訪れたこのときは気づかず、後日、その軽食も出している喫茶店を再び訪れ、サンドイッチを注文して店のマスターの顔を観察して、思い出そうと努力した。
そんな風に何度か、その店を訪れて、ふと、壁に飾られた記念写真に気がついた。集合写真で、何かの撮影スタッフらしき人たちと店のマスターが写っていた。で、ハッと気づいた。
店主は 、俺の好きだった特撮ヒーローの主人公のひとだと。で、ネットで調べると、特撮ヒーローの主役を務めても、その後、大きな役を得られず、役者業で食えずに引退したと分かり、そして、こうして人知れずこの店のマスターになったのだと悟った。で、その喫茶店の常連になって数年後、俺は思い切って、そのマスターに色紙を差し出した。
「すみません、サインください」
いい年した大人がなにやってるんだと思ったが、マスターは、こういうのになれているのか軽く苦笑して色紙を受け取った。
「ほぉ、やっぱり、君もあの特撮番組のファンだったか。そんな感じはしてたが。もう二十年以上も前の作品だが、こうして、たまに君みたいにサインをねだりに来る人がいるよ」
「そうですか」
引退した方に、こういうのは失礼かと思っていたが、その日から、マスターは、気さくに撮影秘話などを話してくれた。
そして、俺はフリーランスのドラマのシナリオライターとして、この喫茶店とマスターをモデルにドラマの脚本を書き上げて、監督とプロデューサーに相談して、この店とマスターを、ちょい役で出てもらうことにした。すると、あの特撮ヒーローがドラマに復活と数カットのちょい役の出演でも話題になり、マスターは、「このおいぼれがまたテレビに」と照れくさそうに笑ってくれた。
それにしても、なんとなく昭和臭い店内で、店主がひとりきり、カウンターの中にいるだけで客も俺だけだった。だが、その店主の顔には、見覚えがあった。誰だろう、学校の先生か、それぐらいの年齢差はある。だが、教師を辞めて、喫茶店を始めた先生の噂は聞いたことないし、元教師という雰囲気でもない。とにかく、見覚えはある。で、最初訪れたこのときは気づかず、後日、その軽食も出している喫茶店を再び訪れ、サンドイッチを注文して店のマスターの顔を観察して、思い出そうと努力した。
そんな風に何度か、その店を訪れて、ふと、壁に飾られた記念写真に気がついた。集合写真で、何かの撮影スタッフらしき人たちと店のマスターが写っていた。で、ハッと気づいた。
店主は 、俺の好きだった特撮ヒーローの主人公のひとだと。で、ネットで調べると、特撮ヒーローの主役を務めても、その後、大きな役を得られず、役者業で食えずに引退したと分かり、そして、こうして人知れずこの店のマスターになったのだと悟った。で、その喫茶店の常連になって数年後、俺は思い切って、そのマスターに色紙を差し出した。
「すみません、サインください」
いい年した大人がなにやってるんだと思ったが、マスターは、こういうのになれているのか軽く苦笑して色紙を受け取った。
「ほぉ、やっぱり、君もあの特撮番組のファンだったか。そんな感じはしてたが。もう二十年以上も前の作品だが、こうして、たまに君みたいにサインをねだりに来る人がいるよ」
「そうですか」
引退した方に、こういうのは失礼かと思っていたが、その日から、マスターは、気さくに撮影秘話などを話してくれた。
そして、俺はフリーランスのドラマのシナリオライターとして、この喫茶店とマスターをモデルにドラマの脚本を書き上げて、監督とプロデューサーに相談して、この店とマスターを、ちょい役で出てもらうことにした。すると、あの特撮ヒーローがドラマに復活と数カットのちょい役の出演でも話題になり、マスターは、「このおいぼれがまたテレビに」と照れくさそうに笑ってくれた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる