ヒーローだって人間です

木全伸治

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正義のヒロインと悪の幹部

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ただの偶然と簡単に片づけてしまうには、偶然の神様ってヤツは、実に質が悪いと思う。
ま、相席になってしまったのは仕方ない。それに、相席の相手が気に入らないからといって自分の方から店を出ていくのは、なんとなく負けた気がして、譲れない。お互いの負けず嫌いがその居酒屋の一角を異様な雰囲気にしていた。ま、正義の戦隊ヒロインとその敵の女幹部が居酒屋の混雑のため相席になるなど、どういう偶然のいたずらであろう。悪の女幹部はいつも顔を隠してないし、戦隊ヒロインの方も変身前に素顔をさらして生身で戦うことがあるので、互いに顔を見知っていた。
「なによ、あんたも、一人酒?」
「昼間のあんたらとの戦闘で疲れたから、夕飯作るのもめんどくさいからね」
正義のヒロインらしからぬ、気だるい口調で答える。
「そっちこそ居酒屋でひとり寂しく何やってるの、お仲間のサメやクワガタは、どうしたの?」
「ばかね、あんなの連れて外に飲みに来れるわけないでしょ。それぐらい、わきまえてるわよ。そっちこそ、顔だけはいい戦隊のお仲間は、どうしたの?」
「ああ、あいつらはダメ。気取ってすぐ、フランス料理だとかイタリア料理じゃないと外食しないとかわめくから」
「なに、あいつら、そんなにボンボンなの」
「ただカッコつけたいだけ。居酒屋なんて、ダサいって」
「ようするに見掛け倒しってこと?」
「そうそう、ヒーローはカッコよくなくちゃダメだって、いっつも髪型、気にしてて、もう、ゲッて感じ」
「そっか、うちは脳筋ばっかで、大変だけど、そっちもいろいろ大変そうね」
その日は女二人で朝まで飲み明かし、翌日の戦闘は男だけが戦って、いつも通り、敵怪人を撃破して、なんとかヒーロー側が勝利していた。
また、たまには女だけで一緒に飲みましょうねと女同士の約束をあの居酒屋を出るときにしていたのは男たちの知らない女たちの秘密である。
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