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ヒーローベルト
しおりを挟む 夜の十二時を回ってしまった。閉店後もカフェに残り、メニュー開発と今後の方針等々、有意義な話を行っていたらこんな時間だ。夜中まで付き合わせた雪乃に礼を言い、自宅の近くで車を降りる。蓮太郎はどうしているだろうか。寝ているか、もしかしたら出かけていたぶんを取り戻すために、まだ机に向かっているかもしれない。
いつかの、揃いのマグカップをプレゼントしてくれた日の夜を思い出す。あのときを境に俺と蓮太郎は急激に接近したのだった。あのころの蓮太郎はアルバイトで連日帰りが遅く、帰宅時間でいえば今日の真逆だ。
おかしな話だと思う。
あとから本人に聞いた話。蓮太郎と距離を取っていたのに、それが裏目に出て、距離を縮める結果になった。
鍵を開けて、音を立てないように玄関に入る。リビングの電気は消えており、しかし帰宅する俺のために玄関と廊下には電気がつけられていた。靴を脱ぎ、階段の下から二階を見上げると、静寂の中に感じる人の気配にホッと息をつく。
食事は済ませてきたので、手早くシャワーをし、寝巻きに着替えた。明日の朝は何を作ってあげようかと考えながら自室にむかい、珍しく心地のよい気分で微睡んでいた。
そのとき、隣室——蓮太郎の部屋のドアが開いた音がした。蓮太郎の足音は階段を下がっていき、トイレだろうかと思っていたが、いつまで経っても戻ってくる様子がない。
俺が帰ってきた音で起こしてしまったのだろうか。謝りたくて下へ降りると、リビングに姿はなかった。トイレの電気もついておらず、その先の洗面所も真っ暗。念のために覗いてみると、蓮太郎はそこにいた。
壁に寄って膝を抱え、先ほど脱いだ俺のワイシャツを抱きしめている。
何をしているんだろう・・・・・・と不思議に思った。声をかけるべきか迷い、悩んでいる間に蓮太郎が鼻をすすった。俺は息を呑む。帰りが遅くなったことが、そんなに嫌だったんだろうか。状況からみて、泣いている原因は俺なのではないかと思えてならない。むしろ、そうとしか思えない。
心地よかった気持ちに入り込もうとしてくる、ひんやりと冷たいすきま風。こういうとき、恋人ならば慰めに駆け寄らねばならないのだろう。
知りたいのなら、自分から歩み寄らないと駄目だ。わかっているのに、足が動かない。物理的な距離にさえも俺は躊躇している。しかし自分の都合を優先せざるをえない。俺はその場から立ち去り、眠れない夜を過ごした。
翌朝、何も知らないふりをして朝食をつくり、蓮太郎が起きてくるのを待った。八時半ごろ、そろそろ家を出ようかという時間、ようやく蓮太郎が目をこすりながらリビングに顔を出した。
「おはよう、蓮太郎。今日は寝坊してもいい日だったのかい?」
昨晩の姿が思い起こされ、緊張気味に挨拶をする。だが蓮太郎は昨晩のあれが幻だったかのごとく「おはよう」と明るい口調で言い、そして、にっこりと笑う。
「大学は午後からの講義しか入ってないから今日はゆっくりで大丈夫。いつも朝ごはんありがとう鬼崎さん」
「あ、うん、じゃあ俺は先に家を出るよ」
「もしかして俺が起きるの待っててくれた? ごめんなさい気がつかなくて」
蓮太郎は甘えて俺にすり寄り、上目使いに見つめてくる。
「今日の夜、覚えてる? 約束ね?」
「ああ、わかってる」
昨日の朝に俺から告げたベッドの誘いのことだ。俺は積極的な蓮太郎に煽られ、顎を持ち上げて唇を合わせた。チュッとリップ音を残して口付けると、蓮太郎が嬉しそうに照れる。
「ン、いってらっしゃい」
「いってきます」
甘い雰囲気に後ろ髪を引かれつつ、リビングを後にする。途中に洗面所の前を横切り立ち止まったが、なんてことはなかったのだろう。俺は気を取り直して、会社に向かった。今朝まで感じていた不安は、一日の業務の合間に消え去っていた。
「あ、ん、・・・・・・ああっ、鬼崎さん、俺、も、いきそっ」
蓮太郎を膝に乗せ下から貫き、触ってやったペニスがぴゅるっと精液を放った。びくんと顎をそらせて苦しげな呼吸をするもなお腰を揺すり、俺を求める。序盤から飛ばしすぎな気がするが、淫らに腰を押し付けられたら応えないわけにはいかない。
ズブズブとナカを掻き分け突き上げてやるたびに、痙攣を繰り返しながら肉壁がうねり、絞られる感覚に息を詰めた。
「・・・・・・ッ」
「ん、うぅ、・・・・・・あううん」
深く感じ入ると、蓮太郎は子犬が鳴くような声を出す。犬の真似をしていたせいでついてしまった蓮太郎の癖だ。本人は無意識であげているので、「やめなさい」と言及ができない。
この声は俺にとって触れてはいけないものだった。たった一声で俺の性器が張りと硬度を増す。
俺は感じやすい方の胸に噛みつき、乳首をすすった。ぴくんと反応する腰を抑え、腹のナカの最奥にぴたりと先端をあて腰を回す。
「ひゃああっ、ん、んんう」
ゆるく勃ち上がったペニスの鈴口に親指を添えて擦り上げると、蓮太郎は嫌々と激しく抵抗した。
「やめて、やめてぇっ」
漏らしているのとは違うと言っても、感覚が似ているそうで、極端に恥ずかしがって嫌う。だからやりたくなってしまうのだが。
「アアッッ、やだって言ってるのにぃ」
「知ってるよ」
そう囁き、回していた腰をピストン運動に切り替え、膀胱を狙って叩いてやる。
「ヒィィ・・・・・んあっ、あっ、でる、やあああ!」
ぷしゃりと飛沫を上げたと同時にナカが引き攣って震え、俺は蓮太郎の最奥に押しあてたまま達した。
「あっあ・・・・・・鬼崎さ・・・・・・ひどい」
「うんうん、ごめんね。蓮太郎が可愛いから」
不貞腐れた顔で顔を擦り寄せてくる蓮太郎をよしよしと撫でてやり、風呂に運ぶ。くってりと身体を預けてされるがままの蓮太郎を清め、湯を張り一緒に浸かった。
ぼぉっとした横顔に不意に昨晩の啜り泣きが思い起こされて重なる。
「疲れた? 眠い?」
「ん、すこしだけ」
俺は取り留めのない会話をして安堵した。毎回こうして、微妙に感じてしまった違和感を心の底に沈める。
「それなら早くあがって寝ようか」
「うん」
立ち上がった拍子によろめいた肩を支えてやり、二人で身体を拭いた。洗いたてのバスタオルは乾燥機にかけたばかりで、フレッシュミントと、ほんのりとあったかい香ばしい匂いがする。
寝る前なので、ラベンダーとかジャスミンとか花系の柔軟剤にすればよかったかと考えて、ああ違うと思う。自分が考えるべきはそんなことではなくて、でもやはり自分ではどうすることもできない。
大切だから近づけない。そんな俺自身を嘲笑うように、俺は鏡越しに微笑んで、蓮太郎に首輪をつけた。
もっと強く。コレもやめようと否定するべきだったかもしれない。
けれど俺は蓮太郎にも自分にも甘い。
「おやすみなさい鬼崎さん」
「おやすみ、蓮太郎」
嬉しそうで悲しそうな蓮太郎に、俺は今日も何も言えなかった。
いつかの、揃いのマグカップをプレゼントしてくれた日の夜を思い出す。あのときを境に俺と蓮太郎は急激に接近したのだった。あのころの蓮太郎はアルバイトで連日帰りが遅く、帰宅時間でいえば今日の真逆だ。
おかしな話だと思う。
あとから本人に聞いた話。蓮太郎と距離を取っていたのに、それが裏目に出て、距離を縮める結果になった。
鍵を開けて、音を立てないように玄関に入る。リビングの電気は消えており、しかし帰宅する俺のために玄関と廊下には電気がつけられていた。靴を脱ぎ、階段の下から二階を見上げると、静寂の中に感じる人の気配にホッと息をつく。
食事は済ませてきたので、手早くシャワーをし、寝巻きに着替えた。明日の朝は何を作ってあげようかと考えながら自室にむかい、珍しく心地のよい気分で微睡んでいた。
そのとき、隣室——蓮太郎の部屋のドアが開いた音がした。蓮太郎の足音は階段を下がっていき、トイレだろうかと思っていたが、いつまで経っても戻ってくる様子がない。
俺が帰ってきた音で起こしてしまったのだろうか。謝りたくて下へ降りると、リビングに姿はなかった。トイレの電気もついておらず、その先の洗面所も真っ暗。念のために覗いてみると、蓮太郎はそこにいた。
壁に寄って膝を抱え、先ほど脱いだ俺のワイシャツを抱きしめている。
何をしているんだろう・・・・・・と不思議に思った。声をかけるべきか迷い、悩んでいる間に蓮太郎が鼻をすすった。俺は息を呑む。帰りが遅くなったことが、そんなに嫌だったんだろうか。状況からみて、泣いている原因は俺なのではないかと思えてならない。むしろ、そうとしか思えない。
心地よかった気持ちに入り込もうとしてくる、ひんやりと冷たいすきま風。こういうとき、恋人ならば慰めに駆け寄らねばならないのだろう。
知りたいのなら、自分から歩み寄らないと駄目だ。わかっているのに、足が動かない。物理的な距離にさえも俺は躊躇している。しかし自分の都合を優先せざるをえない。俺はその場から立ち去り、眠れない夜を過ごした。
翌朝、何も知らないふりをして朝食をつくり、蓮太郎が起きてくるのを待った。八時半ごろ、そろそろ家を出ようかという時間、ようやく蓮太郎が目をこすりながらリビングに顔を出した。
「おはよう、蓮太郎。今日は寝坊してもいい日だったのかい?」
昨晩の姿が思い起こされ、緊張気味に挨拶をする。だが蓮太郎は昨晩のあれが幻だったかのごとく「おはよう」と明るい口調で言い、そして、にっこりと笑う。
「大学は午後からの講義しか入ってないから今日はゆっくりで大丈夫。いつも朝ごはんありがとう鬼崎さん」
「あ、うん、じゃあ俺は先に家を出るよ」
「もしかして俺が起きるの待っててくれた? ごめんなさい気がつかなくて」
蓮太郎は甘えて俺にすり寄り、上目使いに見つめてくる。
「今日の夜、覚えてる? 約束ね?」
「ああ、わかってる」
昨日の朝に俺から告げたベッドの誘いのことだ。俺は積極的な蓮太郎に煽られ、顎を持ち上げて唇を合わせた。チュッとリップ音を残して口付けると、蓮太郎が嬉しそうに照れる。
「ン、いってらっしゃい」
「いってきます」
甘い雰囲気に後ろ髪を引かれつつ、リビングを後にする。途中に洗面所の前を横切り立ち止まったが、なんてことはなかったのだろう。俺は気を取り直して、会社に向かった。今朝まで感じていた不安は、一日の業務の合間に消え去っていた。
「あ、ん、・・・・・・ああっ、鬼崎さん、俺、も、いきそっ」
蓮太郎を膝に乗せ下から貫き、触ってやったペニスがぴゅるっと精液を放った。びくんと顎をそらせて苦しげな呼吸をするもなお腰を揺すり、俺を求める。序盤から飛ばしすぎな気がするが、淫らに腰を押し付けられたら応えないわけにはいかない。
ズブズブとナカを掻き分け突き上げてやるたびに、痙攣を繰り返しながら肉壁がうねり、絞られる感覚に息を詰めた。
「・・・・・・ッ」
「ん、うぅ、・・・・・・あううん」
深く感じ入ると、蓮太郎は子犬が鳴くような声を出す。犬の真似をしていたせいでついてしまった蓮太郎の癖だ。本人は無意識であげているので、「やめなさい」と言及ができない。
この声は俺にとって触れてはいけないものだった。たった一声で俺の性器が張りと硬度を増す。
俺は感じやすい方の胸に噛みつき、乳首をすすった。ぴくんと反応する腰を抑え、腹のナカの最奥にぴたりと先端をあて腰を回す。
「ひゃああっ、ん、んんう」
ゆるく勃ち上がったペニスの鈴口に親指を添えて擦り上げると、蓮太郎は嫌々と激しく抵抗した。
「やめて、やめてぇっ」
漏らしているのとは違うと言っても、感覚が似ているそうで、極端に恥ずかしがって嫌う。だからやりたくなってしまうのだが。
「アアッッ、やだって言ってるのにぃ」
「知ってるよ」
そう囁き、回していた腰をピストン運動に切り替え、膀胱を狙って叩いてやる。
「ヒィィ・・・・・んあっ、あっ、でる、やあああ!」
ぷしゃりと飛沫を上げたと同時にナカが引き攣って震え、俺は蓮太郎の最奥に押しあてたまま達した。
「あっあ・・・・・・鬼崎さ・・・・・・ひどい」
「うんうん、ごめんね。蓮太郎が可愛いから」
不貞腐れた顔で顔を擦り寄せてくる蓮太郎をよしよしと撫でてやり、風呂に運ぶ。くってりと身体を預けてされるがままの蓮太郎を清め、湯を張り一緒に浸かった。
ぼぉっとした横顔に不意に昨晩の啜り泣きが思い起こされて重なる。
「疲れた? 眠い?」
「ん、すこしだけ」
俺は取り留めのない会話をして安堵した。毎回こうして、微妙に感じてしまった違和感を心の底に沈める。
「それなら早くあがって寝ようか」
「うん」
立ち上がった拍子によろめいた肩を支えてやり、二人で身体を拭いた。洗いたてのバスタオルは乾燥機にかけたばかりで、フレッシュミントと、ほんのりとあったかい香ばしい匂いがする。
寝る前なので、ラベンダーとかジャスミンとか花系の柔軟剤にすればよかったかと考えて、ああ違うと思う。自分が考えるべきはそんなことではなくて、でもやはり自分ではどうすることもできない。
大切だから近づけない。そんな俺自身を嘲笑うように、俺は鏡越しに微笑んで、蓮太郎に首輪をつけた。
もっと強く。コレもやめようと否定するべきだったかもしれない。
けれど俺は蓮太郎にも自分にも甘い。
「おやすみなさい鬼崎さん」
「おやすみ、蓮太郎」
嬉しそうで悲しそうな蓮太郎に、俺は今日も何も言えなかった。
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