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もう大丈夫です、勇者様
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ハッと気が付くと、グルグルに縛られてベットに寝かされていた。知らない部屋で、窓の外の景色も見覚えなかった。
確か、モンスターと戦って、大怪我を負ったまでは覚えている。仲間が治癒魔法をかけてくれたのだろう、痛みも、大量の血の跡も残っていない。
怪我をしたから、どこかの民家に運び込んでくれたのだろうか。
なら、縛られている理由が分からない。
俺が混乱していると、部屋のドアが開き、スープを持って来た仲間の聖女が部屋に入ってきた。彼女は神の神託を受けたと言って勇者である俺の仲間になった聖職者だ。
「もう大丈夫です、勇者様。傷は完全に癒しました。でも、体力が完全回復してないと思いますから、これを」
聖女は、運んできたスープをスプーンですくい、俺に飲ませようとした。
「ま、待て、自分で食べるから、この縄をほどいてくれ」
「いえ、心配しなくて、大丈夫。私が食べさせてあげますから」
「お、おい、他のみんなは」
俺には、この聖女の他に戦士と魔法使いの仲間がいた。どちらもおっさんだが、熟練で腕が立つ。俺が大怪我したとはいえ、彼らまでやられたとは思えない。
「ああ、大丈夫です。私が、勇者様をゆっくり休ませようとしたのを反対しましたから、遠くに転移させました。殺してませんから。勇者様は、ここでゆっくりとしてください。魔王討伐なんて忘れて、必要な荷物は持ってきますので、しばらくここに二人だけで住みましょう」
「おい、何を言って」
「今日、あなたが大怪我するのを見て、もう耐えられなくなったのです。もし私の治癒魔法が失敗したら、魔界は、人間の崇拝する神の力が届きにくいと聞きます。もし、そうなって、あなたを蘇生できない日が来るかもと思うと我慢できなくて、勇者様、この家に引越し、この田舎で魔王のことなんか忘れて、私と一緒に暮らしましょう」
「おい、魔王を野放しにしろと?」
「はい、私は、もうあなたが傷つくのを見たくないんです。この気持ち、察してください」
「…」
俺は、しばらく様子を見ることにした。だが、死にかけて一時的に体力が落ちただけで、縛られていても気力体力を取り戻すのに時間はかからなかった。
魔王退治を目指す俺を拘束するには、聖女は力不足だった。
彼女が俺を拘束していた家は、古い農家で、昔は彼女の両親と一緒に住んでいたようだ。その両親が死んで行き場をなくし、教会に保護されて、放置していた家らしい。だから、勇者の魔法を阻害するような仕掛けはなく、体力が戻ったある日、自力で、その家を抜け出した。
何となく黙って抜け出すのは気が引けたので、魔王を倒したら、この家に帰ってくるから待っていてくれと手紙を書き残して彼女の元を去った。
それから、数年後、魔王を倒した俺は、その家に帰った。無事に戻ってきた俺を出迎えた彼女と、当然のように結婚した。彼女が恐れていたように、魔王を倒すまで、何度も死にかけたが、その度に彼女があの家で待っていると思うことで、何とか生き延びた。
確か、モンスターと戦って、大怪我を負ったまでは覚えている。仲間が治癒魔法をかけてくれたのだろう、痛みも、大量の血の跡も残っていない。
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俺が混乱していると、部屋のドアが開き、スープを持って来た仲間の聖女が部屋に入ってきた。彼女は神の神託を受けたと言って勇者である俺の仲間になった聖職者だ。
「もう大丈夫です、勇者様。傷は完全に癒しました。でも、体力が完全回復してないと思いますから、これを」
聖女は、運んできたスープをスプーンですくい、俺に飲ませようとした。
「ま、待て、自分で食べるから、この縄をほどいてくれ」
「いえ、心配しなくて、大丈夫。私が食べさせてあげますから」
「お、おい、他のみんなは」
俺には、この聖女の他に戦士と魔法使いの仲間がいた。どちらもおっさんだが、熟練で腕が立つ。俺が大怪我したとはいえ、彼らまでやられたとは思えない。
「ああ、大丈夫です。私が、勇者様をゆっくり休ませようとしたのを反対しましたから、遠くに転移させました。殺してませんから。勇者様は、ここでゆっくりとしてください。魔王討伐なんて忘れて、必要な荷物は持ってきますので、しばらくここに二人だけで住みましょう」
「おい、何を言って」
「今日、あなたが大怪我するのを見て、もう耐えられなくなったのです。もし私の治癒魔法が失敗したら、魔界は、人間の崇拝する神の力が届きにくいと聞きます。もし、そうなって、あなたを蘇生できない日が来るかもと思うと我慢できなくて、勇者様、この家に引越し、この田舎で魔王のことなんか忘れて、私と一緒に暮らしましょう」
「おい、魔王を野放しにしろと?」
「はい、私は、もうあなたが傷つくのを見たくないんです。この気持ち、察してください」
「…」
俺は、しばらく様子を見ることにした。だが、死にかけて一時的に体力が落ちただけで、縛られていても気力体力を取り戻すのに時間はかからなかった。
魔王退治を目指す俺を拘束するには、聖女は力不足だった。
彼女が俺を拘束していた家は、古い農家で、昔は彼女の両親と一緒に住んでいたようだ。その両親が死んで行き場をなくし、教会に保護されて、放置していた家らしい。だから、勇者の魔法を阻害するような仕掛けはなく、体力が戻ったある日、自力で、その家を抜け出した。
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