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黄金の兜
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一兵卒のただの歩兵でしかない俺は、前線から急に本陣に呼び出されて、居並ぶ、将軍たちを前にひざを折ってかしこまっていた。将軍たちの真ん中に、今回の王国軍の総大将である王子が、金ピカの兜を被って座っていた。
「済まぬが、そなたに頼みたいことがある」
「こ、この私にですか」
一番下の歩兵で、しかも、今回の戦が初陣の俺は、王子を前に恐縮するしかできなかった。
「そなたに、余の影武者を務めてもらいたい。実は、我が兄が、この非常時に父上を殺し、玉座を簒奪したという。急ぎ、王都に戻って、逆賊の兄を討たねばならぬ」
「こ、国王陛下が亡くなられたと・・・」
「そうだ。内密じゃぞ。だが、このまま撤退したのでは、敵の追撃を受け我が軍に甚大な被害が出る。最悪、父殺しの大罪人の兄の軍と挟み撃ちになるかもしれん。そこで、ここは引かず、敵を欺きつつ我と一部の者だけが王都に急ぎ戻り、兄を討つ。それまでの間の影武者をそなたに任せたいのだ」
「お、俺が、王子の身代わりですか?」
あまりにも、突拍子もない話に俺はビビった。
「そうだ、そなたと儂は年齢も近いし、背格好も似ておると皆が言うておる。頼む、数日、この本陣にどんと座っているだけでいい。指揮は将軍たちがしてくれる。そなたは、総大将たる我が本陣にいるぞと、欺瞞してくれればいい。兄上も、我が戦場から動けずにいると油断するであろう」
「なるほど、敵も味方も欺く、ということですな」
俺は農民で、この戦が始まる直前まで、畑を耕していたが、王子の言っていることを理解できないような田舎者でもない。
「もちろん、すべてがうまく行ったら、報酬は・・・」
「当然だ、ここにいる将軍たちが証人だ。そなたの満足する恩賞を授けよう」
そうして、俺は王子から金ぴかの兜や鎧一式を借りて、王子の影武者を演じた。俺の前で、軍議が開かれるが、それはパフォーマンスであり、俺は居並ぶ将軍たちの言葉に云々うなずくだけだった。すべては、反逆した兄を王子が討つまでの時間稼ぎだと、俺も将軍たちも思っていた。敵の猛攻が、王子が本陣を去った直後に始まった。金ぴかの兜を被りながら戦場を眺めていたが、明らかに敵に押されて前線が下がっていた。本陣は戦場を見渡せる小山の上にあり、敵味方の動きがよく分かった。
「あ、あの・・・右翼が、右側が押されているようですが」
俺は近くにいた将軍の一人に不安そうに尋ねた。もちろん、俺が本物の王子ではないと知っている。
「陛下も、そう思われますか。援軍を送った方がよいとおっしゃるのですな」
その将軍は三文役者のように俺が指示を出したように配下の武人に命令する。
「右翼に本陣の兵を急ぎ回せ、陛下のご命令であるぞ」
そんな感じで、将軍たちは、俺が指示を出しているようにふるまいつつ、自ら兵を率いて本陣から出撃したりして、戦線を押し戻した。
俺は戦場を眺めながら、気になることを口にし、それを聞いた将軍たちが動く。そういう感じで戦闘が続き、ただ戦線を維持するだけの戦闘に兵の疲労が重なったせいか、敵に一気に押され、俺が総大将としている本陣まで迫ってきた。金ぴかの荘厳な兜は戦場では目立つ、おそらく、敵にも、それが大将首だと分かって向かってきてるのだろう。俺は、この目立つ兜を捨てて逃げ出そうかと考えた。俺は影武者であり、王子本人ではないのだから。
だが、そんな俺の弱気に気づいた将軍の一人が、
「心配めさるな、陛下。ここへは、一兵たりとも近づけません」
そう、その将軍の言う通り、本陣を守る多くの兵は、俺が本物の王子と思い込み必死で戦っていた。俺自身もやけっぱちで、迫ってくる敵の剣を死にたくなくて自ら受け止めた。総大将自ら剣をふるって戦い始めたので、その姿に兵士たちは鼓舞され、逆に一気に討って出た。その本陣までの突撃は調子に乗った無謀なものだったようで、俺のところまでたどり着いた敵兵も数名だけだった。
「押し返せ! 今が好機ぞ!」
俺は総大将らしく大声で叫んだ。将軍たちも全軍に檄を飛ばす。こちらの本陣に攻め込もうとして無理をした敵の隊列は崩れており、こちらの一転攻勢に敗走を始める。後で知ったことなのだが、敵将の中に、本陣の金ぴかの兜を見つけて手柄を焦った将が、無理な突撃を決行したために、これまで五分五分だった隊列を敵は乱してしまったようだ。
ただ、戦線を維持するだけで良かったのに、その日の夕方までには敵は完全に敗走していった。だが、ホッとする間もなく、今度は王都に向かった王子が、兄の返り討ちにあい死んだという報せが飛び込んできた。
将軍たちは相談し、俺を王子と偽ったままで、敵を敗走させた勝利の余韻にある全軍で王都に向かい、父殺し弟殺しの王子の兄を討つことが決まった。
そして、俺はそのまま、王子の影武者を続けて、国王にまで祭り上げられた。
成り行きというか、俺が王子を続けなければ、権力欲しさに実の父親、弟を殺すような人物がこの国の玉座に座ることになるので、それだけは阻止したくて俺は頑張った。で、後世に賢王と称えられる王様になった。
「済まぬが、そなたに頼みたいことがある」
「こ、この私にですか」
一番下の歩兵で、しかも、今回の戦が初陣の俺は、王子を前に恐縮するしかできなかった。
「そなたに、余の影武者を務めてもらいたい。実は、我が兄が、この非常時に父上を殺し、玉座を簒奪したという。急ぎ、王都に戻って、逆賊の兄を討たねばならぬ」
「こ、国王陛下が亡くなられたと・・・」
「そうだ。内密じゃぞ。だが、このまま撤退したのでは、敵の追撃を受け我が軍に甚大な被害が出る。最悪、父殺しの大罪人の兄の軍と挟み撃ちになるかもしれん。そこで、ここは引かず、敵を欺きつつ我と一部の者だけが王都に急ぎ戻り、兄を討つ。それまでの間の影武者をそなたに任せたいのだ」
「お、俺が、王子の身代わりですか?」
あまりにも、突拍子もない話に俺はビビった。
「そうだ、そなたと儂は年齢も近いし、背格好も似ておると皆が言うておる。頼む、数日、この本陣にどんと座っているだけでいい。指揮は将軍たちがしてくれる。そなたは、総大将たる我が本陣にいるぞと、欺瞞してくれればいい。兄上も、我が戦場から動けずにいると油断するであろう」
「なるほど、敵も味方も欺く、ということですな」
俺は農民で、この戦が始まる直前まで、畑を耕していたが、王子の言っていることを理解できないような田舎者でもない。
「もちろん、すべてがうまく行ったら、報酬は・・・」
「当然だ、ここにいる将軍たちが証人だ。そなたの満足する恩賞を授けよう」
そうして、俺は王子から金ぴかの兜や鎧一式を借りて、王子の影武者を演じた。俺の前で、軍議が開かれるが、それはパフォーマンスであり、俺は居並ぶ将軍たちの言葉に云々うなずくだけだった。すべては、反逆した兄を王子が討つまでの時間稼ぎだと、俺も将軍たちも思っていた。敵の猛攻が、王子が本陣を去った直後に始まった。金ぴかの兜を被りながら戦場を眺めていたが、明らかに敵に押されて前線が下がっていた。本陣は戦場を見渡せる小山の上にあり、敵味方の動きがよく分かった。
「あ、あの・・・右翼が、右側が押されているようですが」
俺は近くにいた将軍の一人に不安そうに尋ねた。もちろん、俺が本物の王子ではないと知っている。
「陛下も、そう思われますか。援軍を送った方がよいとおっしゃるのですな」
その将軍は三文役者のように俺が指示を出したように配下の武人に命令する。
「右翼に本陣の兵を急ぎ回せ、陛下のご命令であるぞ」
そんな感じで、将軍たちは、俺が指示を出しているようにふるまいつつ、自ら兵を率いて本陣から出撃したりして、戦線を押し戻した。
俺は戦場を眺めながら、気になることを口にし、それを聞いた将軍たちが動く。そういう感じで戦闘が続き、ただ戦線を維持するだけの戦闘に兵の疲労が重なったせいか、敵に一気に押され、俺が総大将としている本陣まで迫ってきた。金ぴかの荘厳な兜は戦場では目立つ、おそらく、敵にも、それが大将首だと分かって向かってきてるのだろう。俺は、この目立つ兜を捨てて逃げ出そうかと考えた。俺は影武者であり、王子本人ではないのだから。
だが、そんな俺の弱気に気づいた将軍の一人が、
「心配めさるな、陛下。ここへは、一兵たりとも近づけません」
そう、その将軍の言う通り、本陣を守る多くの兵は、俺が本物の王子と思い込み必死で戦っていた。俺自身もやけっぱちで、迫ってくる敵の剣を死にたくなくて自ら受け止めた。総大将自ら剣をふるって戦い始めたので、その姿に兵士たちは鼓舞され、逆に一気に討って出た。その本陣までの突撃は調子に乗った無謀なものだったようで、俺のところまでたどり着いた敵兵も数名だけだった。
「押し返せ! 今が好機ぞ!」
俺は総大将らしく大声で叫んだ。将軍たちも全軍に檄を飛ばす。こちらの本陣に攻め込もうとして無理をした敵の隊列は崩れており、こちらの一転攻勢に敗走を始める。後で知ったことなのだが、敵将の中に、本陣の金ぴかの兜を見つけて手柄を焦った将が、無理な突撃を決行したために、これまで五分五分だった隊列を敵は乱してしまったようだ。
ただ、戦線を維持するだけで良かったのに、その日の夕方までには敵は完全に敗走していった。だが、ホッとする間もなく、今度は王都に向かった王子が、兄の返り討ちにあい死んだという報せが飛び込んできた。
将軍たちは相談し、俺を王子と偽ったままで、敵を敗走させた勝利の余韻にある全軍で王都に向かい、父殺し弟殺しの王子の兄を討つことが決まった。
そして、俺はそのまま、王子の影武者を続けて、国王にまで祭り上げられた。
成り行きというか、俺が王子を続けなければ、権力欲しさに実の父親、弟を殺すような人物がこの国の玉座に座ることになるので、それだけは阻止したくて俺は頑張った。で、後世に賢王と称えられる王様になった。
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