18 / 29
憧れのヒーロー
しおりを挟む
その日私は出会った。偶然乗り合わせたバスの優先席に、その人は座っていた。手には杖を持ち、明らかに老けてはいたが、テレビで見た面影を残した特撮ヒーロー役だった俳優さんである。ガキだった俺は、その特撮番組を見るため、毎週日曜きちんとテレビの前に座って観ていた。今でも、その番組の主題歌は、俺のカラオケの十八番だ。
話しかけたいが、今は任務中だ。俺はヒーローに憧れて、地球に逃げてくる宇宙犯罪者を捕らえる宇宙刑事をやっていた。スーツとサングラスのエージェントが活躍する映画があるので、薄々人類には気づかれているのかもしれないが、宇宙犯罪者を捕まえる宇宙警察は実在していて、今俺はその地球在住の宇宙刑事をやっていた。だが、探知機で、奴らを追いかけてきたのだが、近くにいることは分かるのだが、人間そっくりに擬態できるスーツを着た奴らは、容易には判別できない。いつも、ここからが大変だった。普段は、なるべく、人目のない採掘場や廃工場に追い詰めて確保することが多いのだが、バスの座席はほとんど埋まっており、立っている乗客がいる程度には混んでいた。目撃者の記憶を消せるフラッシュライトを持っているが、壊したモノは直せないので、犯人確保の際、余計な被害を出さないのが鉄則である。
俺がどうしようかと悩んでいると相手の方が動いた。擬態スーツの顔の部分を解除し、爬虫類のような素顔ををさらした犯罪者が、銃を手に近くに立っていたOLさんを人質に叫んだ。
「おい、いるんだろ、下手に動いたら、こいつ殺すぜ」
警察に追い詰められた犯人が一般市民を盾に取るという、よくあるあれだった。
もちろん、戦闘用のメタルスーツは持っているが、他に乗客のいるバスの中では使えない。と、苦々しく思っていると、あの人が杖を突いて立ち上がり、車内の騒動に驚いたバスの運転手が急ブレーキをかけるのに合わせてよろめき、手にしていた杖で、その爬虫類顔の犯罪者の脳天を剣道の面のように叩いて、ビシッとポーズを決めた。
俺はすかさず犯人を確保し、犯人逮捕の協力をしたその人に感謝を言おうとしたら、他の乗客にも、昔のヒーロー役の人だとバレ、ついでに、これはゲリラ撮影だと誤魔化してくれていた。
犯人をしょっ引きながら、彼と一緒にバスを降り、改めて彼にお礼を言おうとすると、
「あんた、宇宙刑事だろ。知ってるよ」
と、さらりと笑って去って行かれた。ヒーロー役なんてやっていたから、宇宙警察の情報もどこかから入っていたのだろう、俺はその歩き去る杖を突いた紳士の背中に宇宙警察式の敬礼をした。
話しかけたいが、今は任務中だ。俺はヒーローに憧れて、地球に逃げてくる宇宙犯罪者を捕らえる宇宙刑事をやっていた。スーツとサングラスのエージェントが活躍する映画があるので、薄々人類には気づかれているのかもしれないが、宇宙犯罪者を捕まえる宇宙警察は実在していて、今俺はその地球在住の宇宙刑事をやっていた。だが、探知機で、奴らを追いかけてきたのだが、近くにいることは分かるのだが、人間そっくりに擬態できるスーツを着た奴らは、容易には判別できない。いつも、ここからが大変だった。普段は、なるべく、人目のない採掘場や廃工場に追い詰めて確保することが多いのだが、バスの座席はほとんど埋まっており、立っている乗客がいる程度には混んでいた。目撃者の記憶を消せるフラッシュライトを持っているが、壊したモノは直せないので、犯人確保の際、余計な被害を出さないのが鉄則である。
俺がどうしようかと悩んでいると相手の方が動いた。擬態スーツの顔の部分を解除し、爬虫類のような素顔ををさらした犯罪者が、銃を手に近くに立っていたOLさんを人質に叫んだ。
「おい、いるんだろ、下手に動いたら、こいつ殺すぜ」
警察に追い詰められた犯人が一般市民を盾に取るという、よくあるあれだった。
もちろん、戦闘用のメタルスーツは持っているが、他に乗客のいるバスの中では使えない。と、苦々しく思っていると、あの人が杖を突いて立ち上がり、車内の騒動に驚いたバスの運転手が急ブレーキをかけるのに合わせてよろめき、手にしていた杖で、その爬虫類顔の犯罪者の脳天を剣道の面のように叩いて、ビシッとポーズを決めた。
俺はすかさず犯人を確保し、犯人逮捕の協力をしたその人に感謝を言おうとしたら、他の乗客にも、昔のヒーロー役の人だとバレ、ついでに、これはゲリラ撮影だと誤魔化してくれていた。
犯人をしょっ引きながら、彼と一緒にバスを降り、改めて彼にお礼を言おうとすると、
「あんた、宇宙刑事だろ。知ってるよ」
と、さらりと笑って去って行かれた。ヒーロー役なんてやっていたから、宇宙警察の情報もどこかから入っていたのだろう、俺はその歩き去る杖を突いた紳士の背中に宇宙警察式の敬礼をした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
光速文芸部Ⅳ~ゲーム・オーバー~
きうり
キャラ文芸
二十年ぶりに母校の図書館を訪れた片桐優実。彼女がその蔵書室に足を踏み入れたのには理由があった。夫の小説家・高柳錦司が高校時代に書いた冊子がそこに隠されているという情報を得たのだ。彼女は在校生の真琴の協力を得て、その冊子『21th Century Flight』を手に入れるが…。
※拙作『光速文芸部』の続編にあたりますが単体作品として読めます。
※『リバイバル群雛10th』に掲載した作品を、期間限定でアルファポリスで公開するものです。一定期間経過後に削除します。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる