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憧れのヒーロー

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その日私は出会った。偶然乗り合わせたバスの優先席に、その人は座っていた。手には杖を持ち、明らかに老けてはいたが、テレビで見た面影を残した特撮ヒーロー役だった俳優さんである。ガキだった俺は、その特撮番組を見るため、毎週日曜きちんとテレビの前に座って観ていた。今でも、その番組の主題歌は、俺のカラオケの十八番だ。
話しかけたいが、今は任務中だ。俺はヒーローに憧れて、地球に逃げてくる宇宙犯罪者を捕らえる宇宙刑事をやっていた。スーツとサングラスのエージェントが活躍する映画があるので、薄々人類には気づかれているのかもしれないが、宇宙犯罪者を捕まえる宇宙警察は実在していて、今俺はその地球在住の宇宙刑事をやっていた。だが、探知機で、奴らを追いかけてきたのだが、近くにいることは分かるのだが、人間そっくりに擬態できるスーツを着た奴らは、容易には判別できない。いつも、ここからが大変だった。普段は、なるべく、人目のない採掘場や廃工場に追い詰めて確保することが多いのだが、バスの座席はほとんど埋まっており、立っている乗客がいる程度には混んでいた。目撃者の記憶を消せるフラッシュライトを持っているが、壊したモノは直せないので、犯人確保の際、余計な被害を出さないのが鉄則である。
俺がどうしようかと悩んでいると相手の方が動いた。擬態スーツの顔の部分を解除し、爬虫類のような素顔ををさらした犯罪者が、銃を手に近くに立っていたOLさんを人質に叫んだ。
「おい、いるんだろ、下手に動いたら、こいつ殺すぜ」
警察に追い詰められた犯人が一般市民を盾に取るという、よくあるあれだった。
もちろん、戦闘用のメタルスーツは持っているが、他に乗客のいるバスの中では使えない。と、苦々しく思っていると、あの人が杖を突いて立ち上がり、車内の騒動に驚いたバスの運転手が急ブレーキをかけるのに合わせてよろめき、手にしていた杖で、その爬虫類顔の犯罪者の脳天を剣道の面のように叩いて、ビシッとポーズを決めた。
俺はすかさず犯人を確保し、犯人逮捕の協力をしたその人に感謝を言おうとしたら、他の乗客にも、昔のヒーロー役の人だとバレ、ついでに、これはゲリラ撮影だと誤魔化してくれていた。
犯人をしょっ引きながら、彼と一緒にバスを降り、改めて彼にお礼を言おうとすると、
「あんた、宇宙刑事だろ。知ってるよ」
と、さらりと笑って去って行かれた。ヒーロー役なんてやっていたから、宇宙警察の情報もどこかから入っていたのだろう、俺はその歩き去る杖を突いた紳士の背中に宇宙警察式の敬礼をした。
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