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老兵の花道
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触手のバケモノに知性があるとは思わず、またその無数の触手ゆえ、目立つのか、人間たちは、俺が魔王とは気づかずに、ただ気持ち悪いと感じて集中的に狙ってきた。触手の数を警戒して、不用意に近づかないと考えるよりも犠牲が多くてもさっさと倒してしまおう、そのうねうねと蠢く触手を目障りだと言わんばかりの力押しで、人間どもは襲ってきた。
魔界の住民はろくに言葉を理解できず人間の方が賢いと見下していたから、そんな無謀な攻めができたのだろう。
兵を揃えて逆侵攻してきた時点で、こちらを見下さずに、冷静に戦っていれば、こちらも楽勝とはいかなかっただろう。
だが、勝手に油断して猪突猛進してくるなら、俺をそれは利用して触手をブンブンと振り回すだけだった。
こちらに理性や知性がなく、ただバケモノが暴れているだけと、無策に突っ込んで来るだけだから、触手で吹っ飛ばすのは容易だった。相手が勝手に回転する電ノコに突っ込むようなものだ。それを後方にいた総大将の皇女らは、俺が敵を引き付け、自分たちを守っていると勘違いしていた。
忙しいのは先陣の俺だけで、本当に皇女のいる後方まで敵は攻め込めずにいた。
実は、小さな軍師は、人間界に攻め込む前に、人間どもの撤退戦で魔界に取り残され賢者に助けられた兵たちに自分たちの無事を、人間界にいる家族や知人たちに伝えるのを推奨した。
人間が撤退し、魔界の門は我々の支配下にあったので、連絡を取るのはたやすく、その彼らの手紙から、人間が魔界で大敗北した事実が漏れ、魔界での人間側の醜態が噂となって広がっていた。当然、勇者が悪い、勇者のせいと責任逃れをしようとしていた皇帝に反発する貴族も増え、しかも魔族の逆侵攻に対して皇帝は地方領主らに増援を送らず、魔族の侵攻を見逃すことができない地方領主が、少ない兵で対応しているようだった。
しかも、人間側が惨めに魔界から敗走したことも知れ渡っていたので、ちょっと戦ってすぐに降伏する領主が多かった。さすがに無条件で領地を通してくれる貴族はいなかったが、面目を保てる程度に戦ってすぐに降伏の使者を出す貴族ばかりだった。武闘派の勇猛な貴族たちは、先の魔界侵攻で勇ましく死んでいるか優秀な兵たちをなくし、人間界に残っていたのは、勇者のせいにしようとした卑怯者の皇帝を筆頭にして魔界侵攻に勇んで参加しなかった温厚な遺族ばかりだった。
だから、わーと人間が攻めてきたと思い俺が触手で薙ぎ払うと、彼らはすぐに後退し、白旗を上げた使者が出てくるという繰り返しが多くなった。
しかも、魔法使いが、魔界の海と人間界の海を新しい門でつなげて、帝国の商船を魔界の海の魔物に襲わせていることは、まだ気づかれていないようだ。
軍師殿が魔界での人間たちの敗北を広めて、ひと段落すると、魔界で生きてる彼らの元へ、家族や知人らが魔界にやってきた。彼らは皇帝の失策で家族や知人をなくすところであったが、無事だと知って会いに魔界にやってきた。しかも、賢者に助けられて生き残った兵や魔界侵攻の失敗を繰り返した皇帝を見限って魔界の皇女の元へと参じる者もいて、魔界に人間が増え、皇女とともに戦いたいと申し出る者が多く、俺は軍師と相談して、軍師とともに彼らに軍馬と赤備えを用意した。
彼らを皆赤備えで統一したのは、その方が、敵味方の区別がつきやすいからだった。魔界の者たちは、個々の戦闘能力が高いので、あまり戦で馬を使わない。だが、戦に使える馬が魔界にいないというわけではなく、しかも、敗走した人間たちが魔界に置き去りした軍馬もいたので、その貴重な馬をかき集めて彼らに貸し与えた。
そんな彼らを軍師が統率した。赤備えの兵に千頭あまりの軍馬が軍師の軍配の指示によって魔界の荒野を右に左に突撃する様は圧巻だった。その赤備えの騎兵の中に総大将として皇女自ら鎧を着こみ、また皇帝から離反した将軍らも加わっていた。それが、人間界侵攻軍の後方本陣の主力となっていた。
彼らを相手に短槍使いの女戦士が直々に稽古をつけたりもした。
これまでその本陣が攻め込まれることはなかったが、おれが先陣として敵を薙ぎ払っていたとき、少数の騎兵が、総大将の首を狙ってその後方本陣を奇襲していた。
彼らは、皇女が幼いころ教育係をしていた老騎士に率いられた一団で、父親に対して反旗を翻す皇女をいさめるため、老騎士が、一族から勇士を募り、その少数の手勢で攻め込んでいたのだ。
だが、奇襲とはいえ総勢五十騎程度で、貫けるほど、皇女を守る赤備えは無能ではなく、敵陣の真っ只中であっという間に老騎士一人だけになっていた。それも、老騎士を庇いながら、一人一人壮絶に散っていた。
だから、その勇猛さに敬意を払うように勇者が、一対一で老騎士と対峙していた。
また勇者は、この戦いで聖剣を抜く気はなく、聖剣を鍔のところで鞘に縛りつけていた。
「よく頑張ったぜ、おっさん」
馬上の老騎士は、久しぶりに着込む甲冑の重さで、はぁはぁと馬上で息を乱していた。
その様子を取り囲んだ赤備えが見守っている。
「そろそろケリをつけようか」
鞘をつけたままの聖剣を構える。勇者の魔法で、一撃で倒すこともできたが、それでは、少数で挑んできた彼らに敬意がないと判断して、聖剣を鞘付きで構えた。
「ところで、皇女様は元気か?」
「ああ、元気だから、こうして兵を率いてオヤジに喧嘩を売っている。あんたはよく戦った。降参しても誰も責めないぜ」
「いや、この儂のわがままについて来てくれた者たちに申し訳が立たん。最後に勇者と一騎打ちしたとあの世への土産話をくれんか」
「そうかい。じゃ、来な。魔王を倒した人類最強の勇者様が引導を渡してやるよ」
老騎士が綱を振ると、馬はそれに応えるように勇者に突っ込んでいた。
老騎士は片手で手綱を握り、もう片方でランスを握っていた。そのランスで鋭く勇者を狙うが、勇者は馬よりも高く跳んですれ違いざま、その兜を強く叩いた。
どさりと老騎士が地面に落ちる。その落ちた老騎士に馬が近寄る。立ち上がって、また自分に跨ってくれという感じで馬は老騎士に寄り添っていた。
その光景を総大将の皇女は少し離れた場所で見ていた。何度か飛び出して、その老騎士を止めようと思ったが、ただ見ているだけで止められなかった。
総大将のそばにいた軍師の命令で、その老騎士と無謀な突撃をしてきた兵たちは丁重に葬られた。
そのことを俺が知ったのは、その土地の領主が降伏の使者を出した後だった。
魔界の住民はろくに言葉を理解できず人間の方が賢いと見下していたから、そんな無謀な攻めができたのだろう。
兵を揃えて逆侵攻してきた時点で、こちらを見下さずに、冷静に戦っていれば、こちらも楽勝とはいかなかっただろう。
だが、勝手に油断して猪突猛進してくるなら、俺をそれは利用して触手をブンブンと振り回すだけだった。
こちらに理性や知性がなく、ただバケモノが暴れているだけと、無策に突っ込んで来るだけだから、触手で吹っ飛ばすのは容易だった。相手が勝手に回転する電ノコに突っ込むようなものだ。それを後方にいた総大将の皇女らは、俺が敵を引き付け、自分たちを守っていると勘違いしていた。
忙しいのは先陣の俺だけで、本当に皇女のいる後方まで敵は攻め込めずにいた。
実は、小さな軍師は、人間界に攻め込む前に、人間どもの撤退戦で魔界に取り残され賢者に助けられた兵たちに自分たちの無事を、人間界にいる家族や知人たちに伝えるのを推奨した。
人間が撤退し、魔界の門は我々の支配下にあったので、連絡を取るのはたやすく、その彼らの手紙から、人間が魔界で大敗北した事実が漏れ、魔界での人間側の醜態が噂となって広がっていた。当然、勇者が悪い、勇者のせいと責任逃れをしようとしていた皇帝に反発する貴族も増え、しかも魔族の逆侵攻に対して皇帝は地方領主らに増援を送らず、魔族の侵攻を見逃すことができない地方領主が、少ない兵で対応しているようだった。
しかも、人間側が惨めに魔界から敗走したことも知れ渡っていたので、ちょっと戦ってすぐに降伏する領主が多かった。さすがに無条件で領地を通してくれる貴族はいなかったが、面目を保てる程度に戦ってすぐに降伏の使者を出す貴族ばかりだった。武闘派の勇猛な貴族たちは、先の魔界侵攻で勇ましく死んでいるか優秀な兵たちをなくし、人間界に残っていたのは、勇者のせいにしようとした卑怯者の皇帝を筆頭にして魔界侵攻に勇んで参加しなかった温厚な遺族ばかりだった。
だから、わーと人間が攻めてきたと思い俺が触手で薙ぎ払うと、彼らはすぐに後退し、白旗を上げた使者が出てくるという繰り返しが多くなった。
しかも、魔法使いが、魔界の海と人間界の海を新しい門でつなげて、帝国の商船を魔界の海の魔物に襲わせていることは、まだ気づかれていないようだ。
軍師殿が魔界での人間たちの敗北を広めて、ひと段落すると、魔界で生きてる彼らの元へ、家族や知人らが魔界にやってきた。彼らは皇帝の失策で家族や知人をなくすところであったが、無事だと知って会いに魔界にやってきた。しかも、賢者に助けられて生き残った兵や魔界侵攻の失敗を繰り返した皇帝を見限って魔界の皇女の元へと参じる者もいて、魔界に人間が増え、皇女とともに戦いたいと申し出る者が多く、俺は軍師と相談して、軍師とともに彼らに軍馬と赤備えを用意した。
彼らを皆赤備えで統一したのは、その方が、敵味方の区別がつきやすいからだった。魔界の者たちは、個々の戦闘能力が高いので、あまり戦で馬を使わない。だが、戦に使える馬が魔界にいないというわけではなく、しかも、敗走した人間たちが魔界に置き去りした軍馬もいたので、その貴重な馬をかき集めて彼らに貸し与えた。
そんな彼らを軍師が統率した。赤備えの兵に千頭あまりの軍馬が軍師の軍配の指示によって魔界の荒野を右に左に突撃する様は圧巻だった。その赤備えの騎兵の中に総大将として皇女自ら鎧を着こみ、また皇帝から離反した将軍らも加わっていた。それが、人間界侵攻軍の後方本陣の主力となっていた。
彼らを相手に短槍使いの女戦士が直々に稽古をつけたりもした。
これまでその本陣が攻め込まれることはなかったが、おれが先陣として敵を薙ぎ払っていたとき、少数の騎兵が、総大将の首を狙ってその後方本陣を奇襲していた。
彼らは、皇女が幼いころ教育係をしていた老騎士に率いられた一団で、父親に対して反旗を翻す皇女をいさめるため、老騎士が、一族から勇士を募り、その少数の手勢で攻め込んでいたのだ。
だが、奇襲とはいえ総勢五十騎程度で、貫けるほど、皇女を守る赤備えは無能ではなく、敵陣の真っ只中であっという間に老騎士一人だけになっていた。それも、老騎士を庇いながら、一人一人壮絶に散っていた。
だから、その勇猛さに敬意を払うように勇者が、一対一で老騎士と対峙していた。
また勇者は、この戦いで聖剣を抜く気はなく、聖剣を鍔のところで鞘に縛りつけていた。
「よく頑張ったぜ、おっさん」
馬上の老騎士は、久しぶりに着込む甲冑の重さで、はぁはぁと馬上で息を乱していた。
その様子を取り囲んだ赤備えが見守っている。
「そろそろケリをつけようか」
鞘をつけたままの聖剣を構える。勇者の魔法で、一撃で倒すこともできたが、それでは、少数で挑んできた彼らに敬意がないと判断して、聖剣を鞘付きで構えた。
「ところで、皇女様は元気か?」
「ああ、元気だから、こうして兵を率いてオヤジに喧嘩を売っている。あんたはよく戦った。降参しても誰も責めないぜ」
「いや、この儂のわがままについて来てくれた者たちに申し訳が立たん。最後に勇者と一騎打ちしたとあの世への土産話をくれんか」
「そうかい。じゃ、来な。魔王を倒した人類最強の勇者様が引導を渡してやるよ」
老騎士が綱を振ると、馬はそれに応えるように勇者に突っ込んでいた。
老騎士は片手で手綱を握り、もう片方でランスを握っていた。そのランスで鋭く勇者を狙うが、勇者は馬よりも高く跳んですれ違いざま、その兜を強く叩いた。
どさりと老騎士が地面に落ちる。その落ちた老騎士に馬が近寄る。立ち上がって、また自分に跨ってくれという感じで馬は老騎士に寄り添っていた。
その光景を総大将の皇女は少し離れた場所で見ていた。何度か飛び出して、その老騎士を止めようと思ったが、ただ見ているだけで止められなかった。
総大将のそばにいた軍師の命令で、その老騎士と無謀な突撃をしてきた兵たちは丁重に葬られた。
そのことを俺が知ったのは、その土地の領主が降伏の使者を出した後だった。
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