最強 触手王 ～敵は人間～ R18作品

全軍突貫

俺たちはデュラハンのそばに舞い降りた。少し遅れて馬車も武骨な石垣の中に飛び込んだ。魔王軍の陣営には、伯爵から譲り受けた獣人メイドたちもいた。非戦闘員であるが、戦争において、仕事がないということはなく、コボルトたちの食事を作ったりしていた。彼女たちは薄汚れた収監所にいた彼らの姿を見ると、俺が指示しなくても拭くものやスープなどの食べ物などを手際よく用意した。そして、デュラハンが叫ぶ。
「王が合流されたぞ！　一気に人間どもを叩け！！」
巨人たちが集めておいた巨石を人間の陣地に向かって雨のように投げ始めた。彼らは石垣の石を、投石のために集めていたように思っていたらしい。放物線を描いたその巨石が、次々、敵陣に落下する。俺ではなく囮のデュラハンに随伴した人狼たちが一気に駆け、敵の柵を超えて敵陣の人間どもの喉に食らいつく。巨石の一つが小さな軍師にも迫った。が、咄嗟に逃げられられず、つい、立ち尽くしてしまう。が、強化された勇者が、聖剣を一閃させ、叩き切る。魔法の疾風が、飛んでくる石を次々はじき返す。勇者たちが、収監所から戻ってきたのだ。巨石の雨の恐怖に足がすくんでいた兵士たちも剣を構え、突撃してきた人狼と乱戦になる。魔法使いの爆炎魔法も投石の返礼として急ごしらえの石垣を爆発で巨人ごとぶっ飛ばす。
激戦の開始だ。
小鬼であるコボルトたちは先行した人狼を追いかけるように敵の土塁や柵を超えて突貫する。
吸血鬼の姫様とハービーたちは頭上から攻撃を仕掛けていた。
巨石の攻撃を魔法で防がれると、巨人たちはバカでかいこん棒や斧を手にドシドシと敵陣に突っ込んでいった。人間の作った土塁や柵など子供の作ったおもちゃのように蹴飛ばして敵陣の内側に雪崩れ込む。
俺も触手で、巨人たちの背中を飛び移りながら、敵陣に乗り込んだ。無数の触手を弾丸のように伸ばして人間どもを吹っ飛ばす。俺の場合、海賊王ではなく魔王になっちまったが、ゴムみたいに伸びる身体というものは確かに汎用性が高い。だが、勇者たちは厄介だった。たぶん、前の魔王も思ったに違いない、勇者さえいなければと。
魔法が巨人を吹き飛ばし、賢者がケガ人を一瞬で治癒し、治癒に忙しい賢者に代わって人間界から来ていた神官が、赤備えの皇女以外にも強化の神聖魔法「戦の歌」を朗々と唱えて兵士を強くしていた。その声の届く範囲の兵士が、常人以上の働きを見せる。俺の触手も、その強化された兵士たちに何本か切られていた。
賢者と神官が邪魔だと判断した俺は人狼の背にしがみついた。
「陛下？」
「あそこだ、あそこに突っ込んでくれ」
いきなり背中に飛び乗られた人狼は驚いたが、俺の指示を理解して、賢者や神官の方に突っ込んだ。
彼女たちに肉薄すると、触手でとらえた。そして俺の動きを察したハーピーにしがみつき、賢者と神官を触手で捕まえたまま戦場から連れ去る。
「なかなかの、巨乳じゃん」
捕えた神官の身体をニュルニュルと触ってその体型を知り、俺はにやりとした。
ふたりには可哀そうだが、楽しませてもらおうか。
神官と賢者を連れ去らわれた人間側は、徐々に押され始めた。小さな軍師が指示を出して、こらえようとするが、次第に魔法使いの魔力がなくなりかけて「はぁはぁ」と息を乱し、呪文を唱えるのが困難になると、人間たちはじりじりと人間界へ続く門へと後退を始めた。