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吸血鬼の晩餐

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城外での攻防の争いはチートな俺の耳に届いていたが、聞こえてくるのは人間の悲鳴ばかりで、伯爵側が苦戦しているような気配はない。
もしかしたら、伯爵は人間側に勝つつもりはないのでは。
娘の実力を見る限り人間の大軍相手でも慎重になる理由はないように感じられる。吸血鬼は長寿であり、本当に城に引き篭もって自分が表立って大きな行動をするのが面倒なのかもしれない。
娘が勇者たちに父は政治に無関心だから魔王の座を譲ったと言っていたのを俺のチートの耳は聞いていた。
ここで人間の包囲網を完全にうち破り外に出れば、魔界の多くの者たちが伯爵にすがって集結してきて、いやでも新しい魔王にまつり上げられる状況は避けたいのかもしれない。深読みかもしれないが、短い邂逅だったが、あの伯爵からは、自身が覇者になりたいという覇気は感じられなかった。
この人間たちとの争いがなければ、城の中で惰眠をむさぼりたいニート気質なのだろう。
だが、伯爵を焚きつけて味方にしなければ、魔界は人間に蹂躙されたままだとは思う。
さて、どうするか。
俺が考え込んでいる間、魔王の娘と吸血鬼の姫は魔王城落城から今日までの情報を交換し合うように話し込んでいた。逃げるのに必死だった王女とは逆に、吸血鬼の姫は吸血鬼王の父とともにこの城に押し寄せてくる人間どもと戦っていた。本当はすぐにでも王女のもとに駆けつけたかったと熱弁した。
王女が村々を人間どもから解放していたときも、誰も人間に敗れた前魔王に恨み言など口せず、良く王女様ご無事でと自分たちの事よりも王女を心配していた。魔王とはいっても魔界の圧政者ではなかったのだろう。それは王女の性格からなんとなくわかる。
だが、それも平時なら許されたろうが、このような乱世には向かない御仁だったのだろう。
「姫様、晩餐の用意が整いました」
獣人メイドが、俺たちを呼びに現れる。
広い豪奢な食堂には、俺と王女様用らしい二皿の料理と、若々しい裸体の男女が十人ほどたっていた。
「さ、お二人は、そちらの席に私は・・・」
吸血鬼の姫が裸体の男女を値踏みするように見る。
「今日のディナーは、この子にするわ」
まだ十代くらいの美少年を選んでその首筋にかぶりつく。
エロい。吸血鬼の姫様が人外の美人で相手の男が全裸というのもあるが、男を引き寄せてその首筋を噛む姿は、卑猥に見えた。
すると、バンと荒々しくドアを開けて伯爵が入ってくる。
「うっとうしい人間どもめ」
戦闘で気が立っているのか、全裸の少女のひとりをぐいと抱き寄せると荒々しくその首筋にかみついた。
最初は噛まれて恍惚としていた少女がびくびくと怯えるように痙攣して息絶えた。その血を吸い終えた娘を床に放置して、二人目の少女に。
「お父様!」
息絶えた少女に慌てて姫が駆け寄る。
「前々から、申してますように、このように食べ物を粗末にするから人間どもの怒りの矛先が緩むことなく我らに向くのです。死なない程度に血を吸い、生かしておいて、次の糧にする。ずっと昔にそう決めたではないですか。それができなければ、我らは、未来永劫、卑しいバケモノだ。そう言いだしたのは父上ですよね」
吸血鬼の姫が血を吸った男はちょっとふらりと貧血を起こしただけで仲間に支えられて食堂を出ていった。
逆に伯爵が、血を吸った二人目の少女も息絶え力なく床に倒れた。
「済まぬ、つい高ぶった」
伯爵は娘に頭を下げ、自分が命を吸い取ってしまった娘の目を優しく閉じた。他にいた全裸の男女が亡くなった娘の遺体を黙って食堂の外に運ぶ。伯爵を恐れたり、嫌悪する様子はない。彼ら自身、命をなくすほど血を吸われる覚悟はあったようだ。
「丁重に弔ってやれ」
亡くなった娘を運び出す彼らの背に伯爵は、沈痛な表情で言った。心の底から悔いているようだ。
「父上、そんなに冷静さを欠いては、人間どもに付け入る隙を与えます」
吸血鬼親子は、人間に対して謙虚であろうと努めているようだ。
さて、俺は、どうする。
「伯爵様、姫君のおっしゃるように、このまま籠城を続けていたら辟易して人間に敗れると思います」
「ほぉ、では、邪神様の使いは、この私に何をさせたいのですかな」
「引きこもりの臆病者をやめて、王女を立て、ともに人間どもを魔界から追い出すべきです」
「ほぉ、引きこもりとは。我を侮辱する気ですかな。たかが人間とはいえ、外の連中は手ごわいのですぞ」
「では、やつらが手ごわくないことを証明すれば、引きこもりをおやめになりますかな」
「ほぉ、触手様から見て、奴らは手ごわい敵ではない、だから私を臆病者とお笑いになると」
「その通り」
煽りは得意ではないが、これぐらい言わないと伯爵は動かないと思った。
「よろしい、では、邪神様の御使いの力、早速、見せていただきましょう」
「早速?」
「そうです、周りは御覧の通り、私をイラつかせるだけの人間であふれております。私を臆病者というなら、あやつらを蹴散らしてもらいたいですな」
「なるほど・・・、では、その代わり、私が力を見せたら、我らと一緒に城から打って出てもらいますよ」
「ええ、いいですとも、偉大な邪神様のお使いの言葉に我は従いましょう」
「お父様、私も邪神様の御使いにお手を貸します。よろしいですね」
吸血鬼の姫様が父をキッと睨んでいた。
「あ、ああ、よかろう。人間の手強さを知り、父の考え方が正しいとその身で知るといい」
吸血鬼の王は、やれるものならやってみろという感じで娘と俺を見た。
すごい博打だが、この城を包囲している大軍ぐらい打破できなければ、魔界から人間を追い出すなんて夢のまた夢だろうと思う。
そうして、触手生物VS包囲軍数万の戦いが始まった。俺の味方は、魔王の娘と吸血鬼の姫だけだ。数的には圧倒的に不利だった。


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