上 下
47 / 49

魔女の常識

しおりを挟む
寝坊しても、文句は言われないくらい私は働いただろう。
だから、昼ぐらいまで寝るつもりだった。すると、誰かが、ごそごそと私のベットに潜り込んできた。
「ん?」
ふと目を開けると全裸の時読みが横に眠っていた。
「おはよう」
目が合うと、彼女はにっこりと笑ってそう言ったが、私は無視して、ゴロンと体の向きを変えて、二度寝の態勢に入った。
「ちょっと、素っ裸の美少女が真横に眠ってるのに、その態度はなに!」
時読みがむくれて文句を言うが、私は呆れるように言い返した。
「悪いけど、そういうのでどぎまぎするのは童貞の何も知らない男の子だけだから。やるなら、うちの弟くんにやれば」
私は彼女に背を向けたままそう言い返した。
「やろうとしたわよ。そしたら、怖いお姉さんに邪魔されたの。なに、あの子、私の先読みの上を行くなんて」
「ああ、もと灰色の弟子だから、占いか何かで、あんたの先読みを読んだんじゃない。あの子、優秀過ぎたから、灰色の捨て駒にされたようだし」
「なによ、それ」
「うちの弟子は成り行きで、二人とも私が拾ったの。いくら、あんたでも、あの二人に妙なちょっかいかけないでよね」
「いいわよね、あんたの弟子、面白そうで」
そっちだって、領主の娘や、首輪付きの女装メイドを雇っているじゃないかと思ったが、口に出してそれは指摘しなかった。
「とにかく、私は色々疲れたから、今日は、朝食いらないから、ダラダラと昼ぐらいまで寝かせてよ」
「なによ、あんたのスタミナ薬を使えば、寝不足でも、すぐに元気になれるでしょ。そういう薬がないとは言わせないから。それより、噂の九尾、私にも見せてよ」
「あんなもの、見たって面白くないわよ」
「なによ、あんたの弟子で遊ばせてくれないなら、せめて、噂の九尾ぐらい見せてくれてもいいでしょ。ケチ」
全裸の時読みが背中を見せていた私に密着してきた。魔女は、性的に乱れている者が多いが、生憎、私は同性には、興味がない。
「ねぇ」
抱きついて来て、耳に息を吹きかけて来た。
「わ、わかったわよ」
私は、バッとベットから飛び出した。
「そんなに、九尾が見たいのなら、見せてあげるから、まずは、私の部屋から出て行って」
「はい、はい、裸の女に抱きつかれたぐらいで、そんなに狼狽えなくてもいいじゃない。それこそ、童貞の男の子でしょ」
「なに言ってるの。しれっと、私の媚薬を身体に吹きかけてるんじゃないわよ」
「あら、バレちゃった?」
しかも狡猾に、時読みは普段使っている香水の匂いを混ぜて、私に気づかせないように媚薬を嗅がせようとしたのだ。自分の作っている媚薬に耐性はあるつもりだが、寝起きに無意識に吸い込んで、私の五感ではなく、性感が鋭くならないという保証はない。
「早く、出て行って、着替えたら、すぐに中庭にいくから。そこで、九尾を見せてあげる」
「分かった。なによ、ちょっとした朝のスキンシップじゃない。そんなにおこらないでよ」
「・・・」
私が真剣に怒っていると察したのか、時読みは脱いだ自分の服をサッとまとい部屋から出て行った。
「じゃ、中庭で待ってるわ」
私は、時読みを追い出してから、大きくため息をついた。時読みは、本気で私とエロいことをしたいのか。普通の魔女ならば、それが当り前で、私の方が、魔女の常識とかけ離れているのかと少し悩んだ。だが、やっぱり、時読みとは、そういう関係になりたいとは思えない。
身支度を整えてから中庭に向かった。そこには、佐助たち忍連中もいた。彼らに教えた覚えはないが、地獄耳である彼らには、私と時読みの会話は筒抜けなのかもしれない。なんだなんだと、屋敷の連中がみな集まっていた。その中には、私が王都から連れて来た姉妹や娼婦たちもいる。
ま、見せて減るものじゃないだろうし、見物人がいて問題なら、時読みが彼らを排除しただろう。
時読みが排除しないということは、彼等はいていいということだ。
私は、待ち構えていた時読みに近づいた。
「はい、どうぞ」
私は時読みの目の前に空間を開き、どんとキツネの生首を置いた。
それも読んでいたのか、時読みは目の前に忽然と現れた、人間を丸飲みできそうな口枷を付けた巨大なキツネの生首に動揺しなかった。
「ふ~ん。これが噂の九尾、意外にかわいいじゃない」
その生きているキツネの生首を前にして、時読みは平然としていた。
「なんだい、外に出してもらえたと思ったら、とんでもないバケモノがいるじゃないか」
九尾は目の前の見た目だけは幼い、時読みに眉をひそめていた。
「あら、バケモノとは、随分ないいようね」
時読みは九尾を恐れず、自分から近づいた。喋る、巨大なキツネの生首など、普通なら触れたくないだろうが、時読みはそっと優しく九尾を撫でた。
「東方では、力あるキツネは神として崇められてるって聞いてたけど、あなたは違うの?」
「あんたこそ、人間臭くない臭いを漂わせて、こんなところで何してるのさ」
人間臭くないと言われた瞬間、時読みは目を細めた。と、同時に、周囲が急に静かになった。
首だけになっても生きている仇敵の九尾を目撃して、忍たちはざわついていたが、そのざわつきが急になくなった。
「ん? 時を止めたのかい。なんだい、人間臭くないとあまり周りに知られたくないのかい?」
その止まった時の中で、口を動かせたのは、時読みと九尾だけだった。
「ええ、そうよ。今の私は、人間たちと楽しくやってるから、人間のふりを続けたいの。それより、疑問に答えて。あなた、東方で神とたたえられてたんじゃないの?」
「ああ、そうさ、昔は、小さな村の小さな祠に住む、ちょっと妖術が使える程度の三尾だったさ。それが、戦国乱世だなんだで、その村が戦に巻き込まれて、ただの三尾だった私には村人を誰も救えなかった。小さい村だったけど、のんびりとして、収穫の秋には、私の祠にたくさん、お供え物をしてくれたいい村だった。そんな村を潰した戦バカの連中に復讐してやろうと頑張っていたら、九尾と呼ばれるくらいに力を付けちまって、気が付いたら、人間どもの怒りを買って国を追われて、こんなところまで、来ちまった。でも断っておくけど、私がやったのは、元々火種があったのを強めて大火事にしただけだからね。隣の国の王様も、優秀な自分の娘たちに、自分の地位を奪われるのを恐れていたのを焚きつけただけだし」
「つまり、自分は、そんなに悪くないと?」
「ああ、そうさ、愚かな人間たちを焚きつけただけで、私は何も悪くないよ」
本気で反省も悪びれる様子もなかった。
「で、どうする。私をこのまま東方に連れてって、金にするって聞いてるけど、あんたは、この場で、私を殺すかい? あんたなら、魂まで、完全に消滅させられるんだろう」
「そうね、東方は、私の領域じゃないし、あんたを今ここで殺しても、私には何の得もない。ただ、あの子に何かしようと考えているなら、今ここで殺すのも、悪くないかもね」
時読みは、ちらりと私を見たのだが、さすがに止まった時の空間では、時読みの視線に気づかなかった。
「その代わり、下手な復讐心を出さずに、大人しく、あの子と一緒に東方に帰るのなら、その未来を祝福してあげてもいいわ」
「東方に帰ったら、私が殺されない、未来を保証してくれるのかい?」
「ええそうよ、あなたが、大人しく、あの子について行くなら、そうしてあげるって、言ってるの」
「本気、かい」
「私は、あんたに何かされたわけじゃないから、そういう約束をしてもいいわよ」
「つまり、素手で、この私とやり合えるあのお嬢ちゃんを、そこまで気にいっているのかい?」
「ええ、で、どうするの? 東方に向かう途中で、あの子に絶対復讐してやるというなら、私が憂いを断つわ。なにせ、ただでさえ、遠く東方に旅立てば、もう二度と再会できないかもしれない、そういう可能性を少しでも減らせるなら、いまここで、処分してあげる」
時読みは、表情を変えずに、その大きなキツネの目に人差し指を突っ込んで、ぐちゅぐちゃと眼球を掻きまわした。
が、すぐに指を引き抜き、止まった時間の中で、その傷を逆再生のように治した。
九尾は痛みの悲鳴を上げる余裕もなかった。はっきりと指で眼球を潰された感触はあったが、痛みも傷も一瞬で消えた。
「わ、分かったよ、東方に帰るまで、おとなしくしてるさ。その代わり、向こうについて、私に未来がないと悟った時には、あの媚薬使い、丸飲みにしてもいいだろ」
「そうね、東方には、そっちの神がいるだろうから、後は任せるわ。とりあえず、おとなしくしていたら、この地にいる間の未来は、保証してあげる」
時読みは、にっこりとほほ笑んだ。その瞬間、周りの音が復活する。
時読みと九尾が、そんなやり取りをしたのは、誰にも分らなかった。
「ふふふ、意外にふさふさね」
「・・・・」
時読みと九尾は、もう言葉を交わさなかった。
ただ、王宮で飲まされた媚薬の効果が身体がバラバラのせいで少し残っていたのか、時読みに撫でられて少しくすぐったそうにわらった。
「お、俺も触っていいかな」
佐助が、興味深そうに九尾の首に障ったが、九尾はおとなしく黙っていた。それは、わたしが東方に向かうまで続くのだが、私は、時読みと九尾の交わした約束について知らずにいた。
とにかく、その日、九尾の首を皆にさらして、昼食をとった後、領主から使いが来て、領主が、此度の戦の報告に王都に向かうので、私にも同行するようにと連絡があった。
国の一大事であり、領主自ら国王に報告するという形式的な意味合いもあるのだろう。それに功労者である私が同行するのは当然のことらしい。
報告だけなら、領主と領主の娘だけでいいと思うのだが、あの王妃なら、私から直接話を聞きたがるだろうとおもい、了承した。
王都から、戦場に駆けつけ、再び、報告のため王都に戻る。忙しいなと思いつつ、これも王妃の約束してくれた、高額な報酬のうちと思い、翌日、領主とともに王都に向かった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

処理中です...