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国王謁見
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時読みは、妹姫様に頼まれたとおり、少しだけ、街道を元に戻した。
先が見えていたので本当に少しだけであり、新しい落とし穴や岩壁を追加し、進軍を妨げる防壁を逆に増やしていた。
当然、侵攻してきた隣国の兵たちは、時読みの築いた新たな障害のため。侵攻が遅れた。
「ま、こんなものかしら」
ほうきに跨って空の上から、大軍がう回路を探して転進し始めたのを時読みが見届ける。
ここに伏兵があれば、大打撃を与えられる好機だったが、そんな都合のいいものはない。ここの領主は武勇に優れていたが、隣国の脅威があるからと言って、領民に負担をかける軍備拡大をしていなかった。だから、時読みは一人で、障害を作って侵攻を遅らせるだけにした。彼女の読みでは、もう王都に侵攻の連絡が届き、折り返し援軍が送られてくるまでもたせればいいはずだった。化けキツネたちが何か仕掛けて来るかと思ったが、男をたぶらかすのは得意でも、戦闘とかそういうのは苦手らしい。
進軍を阻んだのを確認してから時読みは、自分の屋敷に戻った。
もう特に危険だという未来は見えていない。
後は、領主らの仕事だ。
和平や調停など政治的なことは、魔女には関係ない。
王妃の子飼いとなった忍びたちの働きで、王妃は即日にそれを知ったが、実家である隣国を警戒していたわけではない。元々はこの国の脅威となる化けキツネの親玉の九尾の居所を忍びたちに探らせるため四方に放ったのが功を奏しただけだった。
「まったく父上は、何を考えているのか!」
王妃と一緒にその報を聞いた妹姫様が、かなり激怒していた。
実の娘を嫁として差し出した国に父親が軍を送る。これでは、王族同士の婚姻というものが無になってしまう。妹さんが怒るのも当然だった。
「いくら化けキツネの甘言があったとはいえ、そういうことをやらかしそうな父だということは私たち姉妹がよく知っていることではありませんか」
姉の王妃は怒る妹姫様を諭すように言った。
「では、行きましょうか」
王妃は急に立ち上がって私たちを促した。
「あの、どこに?」
「もちろん、私の夫の元です。あなたもついてきなさい。事情を説明するのを手伝ってもらいますからね」
「は、はぁ・・・」
王妃の夫、つまり国王に会えと急に言われても、正直困るのだが、そんな私の戸惑いを無視して王妃は、王のいる執務室に向けて歩き出していた。
「ま、待って」
隣国の姫様である妹さんも慌てて姉について行く。私もついて行かないわけにはいかなかった。
薬を直接王宮に何度か届けに来たことはあるが、国王に会ったことは一度もない。
王妃は軽くノックをして、返事を待たずにドアを開けた。中では国王と宰相が、国政について、あれこれ話しているところだった。この国は王政であり、国王が貴族の代表である宰相と話し合って国政を行っていた。
議会も貴族を中心としたものがあり、市民の声は、領民である市民が領主である貴族に訴えて、その意見を聞きながら、時々開かれる議会で、貴族の利益を守りつつ、領民の意見を貴族の議員が議会で発言し、必要ならば新しい法律を王の名のもとに決めていた。
「王妃様、何です、いきなり」
いきなり入室してきた王妃に、初老の宰相が眉をひそめていた。
「宰相閣下はこの国の一大事に、よくのんびりしておられますね」
宰相をたしなめるように王妃が言葉を返す。
「なっ・・・何を、急に」
「我が父が乱心しまして、攻めて来たのを、まだご存じない?」
王妃は、大貴族でもある宰相をからかうように見つめた。
「な、何ですと?」
「隣国が攻めてきたと申しているのですが、わかりませんか?」
「!?」
国の一大事に彼らがのんびりしているように見えたので、私もつい思わず口を挟んだ。
「急ぎ対策を、陛下」
「誰だ、そなたは?」
「実は、少し前までこの王都で薬を売っておりまして、その関係で王妃様にはごひいきにさせてもらっていた者です。恐れながら、ここに王妃の妹様、隣国の姫様もおられます。このおふたりがここにいて、それが事実だと判断されれたのなら、まず、様子を見に行く兵を急ぎ出すだけでも」
「うむ、なるほど。どうかな、宰相、大軍を今すぐ派遣しろとは言わん。様子を確認するための、少数の偵察の兵を国境に差し向けても良いのではないか」
「は、はぁ・・・」
「では、私の私兵で、使える忍が二十名ほどいます、彼らを向かわせましょう」
王妃が自分の夫に提案する。
「あと、幸い隣国に接している領主の娘さんも近くにいますから、彼女も同行させては」
私も王妃の提案に補足で意見を出す。本来、魔女風情が、口を出すのは不敬だろうが、言わせていただいた。
「うむ、王妃の私兵を動かすのならば文句はないだろう、宰相?」
「は、はい、陛下。念のため、軍の準備を進めておきますので、王妃様、偵察の兵、お任せしてよろしいですか」
王妃が自分で即動かせる私兵を持っているというのは、本来、よろしくないが、宰相は、目の前にいる王妃の性格を熟知していた。正直、王妃を敵に回していないから、宰相を続けていられるという自覚はあった。そして、生まれたばかりの王子にこの国を継がせるために母親である王妃が、どんな手でも使うだろうことも宰相は知っていた。息子に渡すべき国を実の父親に踏みにじらせないだろうことは間違いない。
だから、宰相は、王妃の申し出を了承した。
「ことは急を要する様子、王妃様の意見に従うのが得策のようですな」
夫の国王もうなずく。
「では、攻めてきた隣国の兵の様子を王妃の私兵に調べてもらい、状況に寄って援軍を派遣するとしよう。それで。お前もいいな」
「はい、陛下」
国王陛下の決断に、王妃も頷き返す。
そうして、王妃の私兵である忍び集団を率いて現地まで案内する役を槍使いのメイドが引き受けることになった。彼女には忍び集団の服部組の他に佐助と首輪メイドと二股のクロたちも同行させることにした。特に二股のクロには、私に化けてもらって私が王妃の側を離れたように欺瞞してもらうことにした。さらに国王陛下が、王の勅命の書面を携えた腹心の騎士を彼らに随伴させることにした。王の勅命があれば、街道沿いの領主たちも彼らに手を貸さざるおえない。戦場に急ぐために馬を乗りつぶしても、すぐに新しい馬が調達できる。
槍使いは、さすがにメイド服のままというわけにはいかないので、王妃から彼女に王宮を守る近衛の馬と甲冑を支給された。
忍たちにもそれぞれ馬が与えられて、急ぎ、戦場に向かった。
もちろん、私は槍使いのメイドに、自慢の媚薬とどんな怪我や病気も治す薬と一気に敵を殲滅できる毒薬の小瓶も渡した。あの地には、時読みがいるから、私の薬の出番はないかもしれないと思いつつ、王妃と一緒に彼らを見送った。
「では、残った私たちは、あなたが捕らえた魔女と化けキツネたちの拷問でもしながら待ちますか」
「拷問ですか?」
「あら、あれを好きにしていいと言ってませんでした?」
「はい、王妃様のお好きに」
私は、そうして、灰色と三尾の身柄を王妃の好きにさせることにした。
先が見えていたので本当に少しだけであり、新しい落とし穴や岩壁を追加し、進軍を妨げる防壁を逆に増やしていた。
当然、侵攻してきた隣国の兵たちは、時読みの築いた新たな障害のため。侵攻が遅れた。
「ま、こんなものかしら」
ほうきに跨って空の上から、大軍がう回路を探して転進し始めたのを時読みが見届ける。
ここに伏兵があれば、大打撃を与えられる好機だったが、そんな都合のいいものはない。ここの領主は武勇に優れていたが、隣国の脅威があるからと言って、領民に負担をかける軍備拡大をしていなかった。だから、時読みは一人で、障害を作って侵攻を遅らせるだけにした。彼女の読みでは、もう王都に侵攻の連絡が届き、折り返し援軍が送られてくるまでもたせればいいはずだった。化けキツネたちが何か仕掛けて来るかと思ったが、男をたぶらかすのは得意でも、戦闘とかそういうのは苦手らしい。
進軍を阻んだのを確認してから時読みは、自分の屋敷に戻った。
もう特に危険だという未来は見えていない。
後は、領主らの仕事だ。
和平や調停など政治的なことは、魔女には関係ない。
王妃の子飼いとなった忍びたちの働きで、王妃は即日にそれを知ったが、実家である隣国を警戒していたわけではない。元々はこの国の脅威となる化けキツネの親玉の九尾の居所を忍びたちに探らせるため四方に放ったのが功を奏しただけだった。
「まったく父上は、何を考えているのか!」
王妃と一緒にその報を聞いた妹姫様が、かなり激怒していた。
実の娘を嫁として差し出した国に父親が軍を送る。これでは、王族同士の婚姻というものが無になってしまう。妹さんが怒るのも当然だった。
「いくら化けキツネの甘言があったとはいえ、そういうことをやらかしそうな父だということは私たち姉妹がよく知っていることではありませんか」
姉の王妃は怒る妹姫様を諭すように言った。
「では、行きましょうか」
王妃は急に立ち上がって私たちを促した。
「あの、どこに?」
「もちろん、私の夫の元です。あなたもついてきなさい。事情を説明するのを手伝ってもらいますからね」
「は、はぁ・・・」
王妃の夫、つまり国王に会えと急に言われても、正直困るのだが、そんな私の戸惑いを無視して王妃は、王のいる執務室に向けて歩き出していた。
「ま、待って」
隣国の姫様である妹さんも慌てて姉について行く。私もついて行かないわけにはいかなかった。
薬を直接王宮に何度か届けに来たことはあるが、国王に会ったことは一度もない。
王妃は軽くノックをして、返事を待たずにドアを開けた。中では国王と宰相が、国政について、あれこれ話しているところだった。この国は王政であり、国王が貴族の代表である宰相と話し合って国政を行っていた。
議会も貴族を中心としたものがあり、市民の声は、領民である市民が領主である貴族に訴えて、その意見を聞きながら、時々開かれる議会で、貴族の利益を守りつつ、領民の意見を貴族の議員が議会で発言し、必要ならば新しい法律を王の名のもとに決めていた。
「王妃様、何です、いきなり」
いきなり入室してきた王妃に、初老の宰相が眉をひそめていた。
「宰相閣下はこの国の一大事に、よくのんびりしておられますね」
宰相をたしなめるように王妃が言葉を返す。
「なっ・・・何を、急に」
「我が父が乱心しまして、攻めて来たのを、まだご存じない?」
王妃は、大貴族でもある宰相をからかうように見つめた。
「な、何ですと?」
「隣国が攻めてきたと申しているのですが、わかりませんか?」
「!?」
国の一大事に彼らがのんびりしているように見えたので、私もつい思わず口を挟んだ。
「急ぎ対策を、陛下」
「誰だ、そなたは?」
「実は、少し前までこの王都で薬を売っておりまして、その関係で王妃様にはごひいきにさせてもらっていた者です。恐れながら、ここに王妃の妹様、隣国の姫様もおられます。このおふたりがここにいて、それが事実だと判断されれたのなら、まず、様子を見に行く兵を急ぎ出すだけでも」
「うむ、なるほど。どうかな、宰相、大軍を今すぐ派遣しろとは言わん。様子を確認するための、少数の偵察の兵を国境に差し向けても良いのではないか」
「は、はぁ・・・」
「では、私の私兵で、使える忍が二十名ほどいます、彼らを向かわせましょう」
王妃が自分の夫に提案する。
「あと、幸い隣国に接している領主の娘さんも近くにいますから、彼女も同行させては」
私も王妃の提案に補足で意見を出す。本来、魔女風情が、口を出すのは不敬だろうが、言わせていただいた。
「うむ、王妃の私兵を動かすのならば文句はないだろう、宰相?」
「は、はい、陛下。念のため、軍の準備を進めておきますので、王妃様、偵察の兵、お任せしてよろしいですか」
王妃が自分で即動かせる私兵を持っているというのは、本来、よろしくないが、宰相は、目の前にいる王妃の性格を熟知していた。正直、王妃を敵に回していないから、宰相を続けていられるという自覚はあった。そして、生まれたばかりの王子にこの国を継がせるために母親である王妃が、どんな手でも使うだろうことも宰相は知っていた。息子に渡すべき国を実の父親に踏みにじらせないだろうことは間違いない。
だから、宰相は、王妃の申し出を了承した。
「ことは急を要する様子、王妃様の意見に従うのが得策のようですな」
夫の国王もうなずく。
「では、攻めてきた隣国の兵の様子を王妃の私兵に調べてもらい、状況に寄って援軍を派遣するとしよう。それで。お前もいいな」
「はい、陛下」
国王陛下の決断に、王妃も頷き返す。
そうして、王妃の私兵である忍び集団を率いて現地まで案内する役を槍使いのメイドが引き受けることになった。彼女には忍び集団の服部組の他に佐助と首輪メイドと二股のクロたちも同行させることにした。特に二股のクロには、私に化けてもらって私が王妃の側を離れたように欺瞞してもらうことにした。さらに国王陛下が、王の勅命の書面を携えた腹心の騎士を彼らに随伴させることにした。王の勅命があれば、街道沿いの領主たちも彼らに手を貸さざるおえない。戦場に急ぐために馬を乗りつぶしても、すぐに新しい馬が調達できる。
槍使いは、さすがにメイド服のままというわけにはいかないので、王妃から彼女に王宮を守る近衛の馬と甲冑を支給された。
忍たちにもそれぞれ馬が与えられて、急ぎ、戦場に向かった。
もちろん、私は槍使いのメイドに、自慢の媚薬とどんな怪我や病気も治す薬と一気に敵を殲滅できる毒薬の小瓶も渡した。あの地には、時読みがいるから、私の薬の出番はないかもしれないと思いつつ、王妃と一緒に彼らを見送った。
「では、残った私たちは、あなたが捕らえた魔女と化けキツネたちの拷問でもしながら待ちますか」
「拷問ですか?」
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