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灰色絨毯
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敵は、ついに仕掛けてきた。
王都手前の街で、見世物で稼いで、妹姫様を追いかけてその街を離れると、馬車のまわりを無数のネズミが取り囲んできた。気持ち悪いほどの数だった,しかし、檻に下げた匂い袋がネズミたちにも効いているのか、こちらに近寄って馬車によじ登って来ようとはしない。クロにはその匂いを打ち消す別の匂い袋を渡してあった。だから、二股のクロは手をついて四つ足のようになりながら尻尾を逆立てて、「ウ~」とネズミたちを唸って威嚇していた。
少し離れた場所でも、姫と騎士たちもネズミたちに囲まれていたが、私から受け取った大量の匂い袋を運んでいたのでネズミたちは囲むだけで何もできずにいた。そして、そのことを察した軽業師が、運んでいた匂い袋を二、三個手にして、行く手を塞ぐネズミたちに向けて匂い袋を放った。すると地面に落ちた匂い袋を避けるようにネズミたちが道を開けた。その開けた道を妹姫様一行が進む。
それを私は遠視の魔法で見た。私たちだけ狙われるように三尾を見世物にしたのだが、灰色は、数に物を言わせて、妹姫様と私たちを同時に始末するつもりらしい。諸々私のせいにするため王都に着いてから、仕掛けてくると思ったのだが、三尾を見世物にして連れまわしたのが功を奏したのか、もう辛抱できなかったようだ。
「あっちは、問題なさそうね。さて、こっちはどうしようかしら」
マネできるほどこちらは匂い袋を積んではいない。姫様たちが匂い袋を撒いて道を作るなら、こちらは、姫様たちが無事に通り抜けたその道を使って、後からゆっくり行けばいいかと考えた。無理に焦ってネズミたちを刺激して、妹姫様たちまで襲われたら厄介だ。匂い袋は獣が嫌うだけで、完全に行動不能にしたり、駆除できるものではないから、興奮したネズミが馬車をよじ登って人を襲うことが不可能というわけでもない。
妹姫様が無事に抜け出すのを待ってから、毒を撒いてネズミたちを一掃してから悠々と進むか。などと考えていると、檻の中の三尾が大声で叫んだ。
「おい、我々を逃がせば、お前たちを見逃してやってもいいぞ。お~い、聞こえるか、魔女!」
「ええ、聞こえてるわよ」
私の乗っている馬車と、檻の付いた馬車はそれほど離れていない。両方ともネズミに囲まれて立ち往生していた。馬車を引く馬が道を塞いでいた無数のネズミに怯えて足を止めているのだ。鞭を打って無理に進ませようとすれば、急に暴れて馬車がひっくり返るかもしれない。
「おいおい、見逃してやるって言ってるんだぞ。私たちを解放したほうが、利口だぞ!」
私が色々考えていると三尾はしつこく怒鳴った。
「・・・」
このネズミたちは、灰色の使い魔で九尾の下僕じゃない。それに、ここまで見世物にされた恨みもあるだろうし、私たちを見逃すという言質には胡散臭さを感じていた。
だが、ちょいと試してみるのもいいか。
「本当に、私たちを見逃してくれる?」
私は精一杯、本当に困ってその言葉にすがろうとしているふりをした。
ここを切り抜ける打開策は他にもあるが、私はわざと三尾に頼った。
「ああ、無事に見逃してやるよ、約束だ」
私はにやりと笑って佐助に指示した。
「檻の鍵、開けてやりな」
「おいおい、いいのかよ」
「あんたの自慢の分身で、これだけのネズミ全部駆除できる?」
私が余裕で笑みを浮かべていたので、それで佐助も何かを察したようだ。言われたとおり、キツネを押し込めた檻の鍵を開けて、その扉を開いた。
すると、三尾ではなく、一尾のキツネたちが我先にと檻から逃げ出した。
すると、味方と思ってネズミたちの方に舞い降りたキツネにネズミたちは一斉に群がっていた。
気持ち悪い光景だった。ネズミたちは貪欲で、キツネに噛みつき、むさぼり、その傷口から骨が見えていた。
やはり、ネズミたちはキツネを助けに来たわけではなかった。
それは薄々三尾も分かっていたのだろう。三尾は一尾たちが食われるのを檻から飛び出さず匂い袋の吊るされた檻の中から眺めていた。
そして、一尾たちもネズミが自分たちの味方ではないと気づくと慌てて檻に戻ろうとした。すると青白いキツネ火が
灯り、キツネに噛みついていたネズミを焼いた。獣には嫌いな匂いがあるように、大抵の獣には炎が有効である。それは三尾の狐火で、慌てて檻の外に飛び出した一尾の迂闊者を助けるためのものだった。
だが、すべてのキツネが助けられたわけではなく、何匹かはネズミに骨になるまで齧られていた。
「ようやく、みんな来たみたいね」
私たちを囲んでいたネズミたちが、急に慌てて逃げ始めた。私の使い魔である猫たちが到着し、ネズミの駆除をはじめたのである。
ネズミは王都を襲うと思っていたから、猫たちは王都に近い場所で待機させていたので、出番が少し遅れた。しかし、猫にとってネズミ駆除は、昔から得意であり、すぐにネズミの巨大な死骸の山ができた。
特に二股になりかけの二匹が先輩のクロに対抗するようにネズミを狩っていた。
佐助から聞いた話では、彼の国では狐や狸が人に化けて騙すというのは珍しい話ではないそうだ。猫又も今回初めて知った存在だ。魔女として長く猫を使い魔にしてきたが、今まで二股に出会ったことはなかった。九尾やそれらの狐たちがこちらに来たので、その影響で、こちらにも猫又という存在が生まれたのかもしれない。
国を傾けさせたというバケモノのなにかが、影響を与えたのだろうか。魔女として、それなりに見識が広いつもりだが、世界は広い。私の知らないものが、まだまだあってもおかしくはない。
「どう、大丈夫?」
私は、ネズミ退治を猫たちに任せて、キツネたちの様子を見るため檻に近付いた。無傷なのは不用意に檻の外に出なかった三尾だけで、他のキツネたちは傷だらけだった。
「獣にも効くと思うから、この傷薬を傷に塗っておきなさい」
そう言って薬瓶を檻の中に差し入れした。
「どうやら、私たちは、母上に見捨てられたようだ」
三尾がぽつりとこぼす。
「そうじゃないかと思って、あなたは、すぐに檻から飛び出さなかったんでしょ」
「・・・お前にも見透かされていたようだな」
そうなると分かっていて逃がそうとした私を三尾は不愉快そうに見て不貞腐れたように黙った。
傷薬は、一尾たちが舌ですくって傷口に塗っていた。
そして、猫たちが狩り集めて山積みになったネズミの死体に薬をかけて一気に燃やしてから、私たちは堂々と王都に向かった。
王都手前の街で、見世物で稼いで、妹姫様を追いかけてその街を離れると、馬車のまわりを無数のネズミが取り囲んできた。気持ち悪いほどの数だった,しかし、檻に下げた匂い袋がネズミたちにも効いているのか、こちらに近寄って馬車によじ登って来ようとはしない。クロにはその匂いを打ち消す別の匂い袋を渡してあった。だから、二股のクロは手をついて四つ足のようになりながら尻尾を逆立てて、「ウ~」とネズミたちを唸って威嚇していた。
少し離れた場所でも、姫と騎士たちもネズミたちに囲まれていたが、私から受け取った大量の匂い袋を運んでいたのでネズミたちは囲むだけで何もできずにいた。そして、そのことを察した軽業師が、運んでいた匂い袋を二、三個手にして、行く手を塞ぐネズミたちに向けて匂い袋を放った。すると地面に落ちた匂い袋を避けるようにネズミたちが道を開けた。その開けた道を妹姫様一行が進む。
それを私は遠視の魔法で見た。私たちだけ狙われるように三尾を見世物にしたのだが、灰色は、数に物を言わせて、妹姫様と私たちを同時に始末するつもりらしい。諸々私のせいにするため王都に着いてから、仕掛けてくると思ったのだが、三尾を見世物にして連れまわしたのが功を奏したのか、もう辛抱できなかったようだ。
「あっちは、問題なさそうね。さて、こっちはどうしようかしら」
マネできるほどこちらは匂い袋を積んではいない。姫様たちが匂い袋を撒いて道を作るなら、こちらは、姫様たちが無事に通り抜けたその道を使って、後からゆっくり行けばいいかと考えた。無理に焦ってネズミたちを刺激して、妹姫様たちまで襲われたら厄介だ。匂い袋は獣が嫌うだけで、完全に行動不能にしたり、駆除できるものではないから、興奮したネズミが馬車をよじ登って人を襲うことが不可能というわけでもない。
妹姫様が無事に抜け出すのを待ってから、毒を撒いてネズミたちを一掃してから悠々と進むか。などと考えていると、檻の中の三尾が大声で叫んだ。
「おい、我々を逃がせば、お前たちを見逃してやってもいいぞ。お~い、聞こえるか、魔女!」
「ええ、聞こえてるわよ」
私の乗っている馬車と、檻の付いた馬車はそれほど離れていない。両方ともネズミに囲まれて立ち往生していた。馬車を引く馬が道を塞いでいた無数のネズミに怯えて足を止めているのだ。鞭を打って無理に進ませようとすれば、急に暴れて馬車がひっくり返るかもしれない。
「おいおい、見逃してやるって言ってるんだぞ。私たちを解放したほうが、利口だぞ!」
私が色々考えていると三尾はしつこく怒鳴った。
「・・・」
このネズミたちは、灰色の使い魔で九尾の下僕じゃない。それに、ここまで見世物にされた恨みもあるだろうし、私たちを見逃すという言質には胡散臭さを感じていた。
だが、ちょいと試してみるのもいいか。
「本当に、私たちを見逃してくれる?」
私は精一杯、本当に困ってその言葉にすがろうとしているふりをした。
ここを切り抜ける打開策は他にもあるが、私はわざと三尾に頼った。
「ああ、無事に見逃してやるよ、約束だ」
私はにやりと笑って佐助に指示した。
「檻の鍵、開けてやりな」
「おいおい、いいのかよ」
「あんたの自慢の分身で、これだけのネズミ全部駆除できる?」
私が余裕で笑みを浮かべていたので、それで佐助も何かを察したようだ。言われたとおり、キツネを押し込めた檻の鍵を開けて、その扉を開いた。
すると、三尾ではなく、一尾のキツネたちが我先にと檻から逃げ出した。
すると、味方と思ってネズミたちの方に舞い降りたキツネにネズミたちは一斉に群がっていた。
気持ち悪い光景だった。ネズミたちは貪欲で、キツネに噛みつき、むさぼり、その傷口から骨が見えていた。
やはり、ネズミたちはキツネを助けに来たわけではなかった。
それは薄々三尾も分かっていたのだろう。三尾は一尾たちが食われるのを檻から飛び出さず匂い袋の吊るされた檻の中から眺めていた。
そして、一尾たちもネズミが自分たちの味方ではないと気づくと慌てて檻に戻ろうとした。すると青白いキツネ火が
灯り、キツネに噛みついていたネズミを焼いた。獣には嫌いな匂いがあるように、大抵の獣には炎が有効である。それは三尾の狐火で、慌てて檻の外に飛び出した一尾の迂闊者を助けるためのものだった。
だが、すべてのキツネが助けられたわけではなく、何匹かはネズミに骨になるまで齧られていた。
「ようやく、みんな来たみたいね」
私たちを囲んでいたネズミたちが、急に慌てて逃げ始めた。私の使い魔である猫たちが到着し、ネズミの駆除をはじめたのである。
ネズミは王都を襲うと思っていたから、猫たちは王都に近い場所で待機させていたので、出番が少し遅れた。しかし、猫にとってネズミ駆除は、昔から得意であり、すぐにネズミの巨大な死骸の山ができた。
特に二股になりかけの二匹が先輩のクロに対抗するようにネズミを狩っていた。
佐助から聞いた話では、彼の国では狐や狸が人に化けて騙すというのは珍しい話ではないそうだ。猫又も今回初めて知った存在だ。魔女として長く猫を使い魔にしてきたが、今まで二股に出会ったことはなかった。九尾やそれらの狐たちがこちらに来たので、その影響で、こちらにも猫又という存在が生まれたのかもしれない。
国を傾けさせたというバケモノのなにかが、影響を与えたのだろうか。魔女として、それなりに見識が広いつもりだが、世界は広い。私の知らないものが、まだまだあってもおかしくはない。
「どう、大丈夫?」
私は、ネズミ退治を猫たちに任せて、キツネたちの様子を見るため檻に近付いた。無傷なのは不用意に檻の外に出なかった三尾だけで、他のキツネたちは傷だらけだった。
「獣にも効くと思うから、この傷薬を傷に塗っておきなさい」
そう言って薬瓶を檻の中に差し入れした。
「どうやら、私たちは、母上に見捨てられたようだ」
三尾がぽつりとこぼす。
「そうじゃないかと思って、あなたは、すぐに檻から飛び出さなかったんでしょ」
「・・・お前にも見透かされていたようだな」
そうなると分かっていて逃がそうとした私を三尾は不愉快そうに見て不貞腐れたように黙った。
傷薬は、一尾たちが舌ですくって傷口に塗っていた。
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