媚薬売り~感度、百倍、千倍、万倍~ R18作品

木全伸治

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魔女の使い魔は猫と鴉

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私は、敵がハッキリしたので、本気になることにしたが、その晩は大人しく時読みの屋敷で世話になることにした。無事に這い出て来たらしく、あのふたりは、私たちをもてなす晩餐の料理を運ぶメイドたちの中にいた。しかも、彼は化けの皮がはがれたのに、首輪をつけその上でメイド服を着せられていた。
「どう? あんたを真似て女装させてみたんだけど、なかなか似合ってるとは思わない」
「ええ、そうね」
魔女に憧れていたせいか、その素肌は女性のように白く、化けの皮がはがれも体型的にメイド服が似合っていた。
「ま、可愛がってあげればいいわ」
この様子なら、本当に可愛がられるだけで済むだろうし、彼は私の弟子ではない。
「それより、私これから本気で灰色とやり合うつもりだけと、私の連れ預かってくれない」
「娼婦たちのこと?」
「もちろん、その分の報酬は払うから」
「そうね、あんたが無事に帰ってきて、今後も、今まで通り、私にいい媚薬といい化粧品を送ってくれるなら、いいわよ」
私の申し出を先読みしていたのか、時読みは悩まずあっさりと承諾した。
「じゃ、頼むわ」
運ばれてくる料理を楽しみながら、私は王都で起きたこと、私が自分で店を燃やして王都を旅立ったことも語った。
なんでも見通す時読みなら、説明の必要はなかったかもしれないが、私は自分の口で伝えた。
知っていても、本人から直接体験談として語られるのは別のようだ。光景が見えても、そのときの本人の心情までは見透かせないらしい。
「ね、本当にそっちの弟子は置いていかなくていいの」
優秀ではない偽弟を時読みは見詰めていた。
「あなたの未来視で、私が連れていくとこの子が死ぬ未来でも見えたの?」
「いえ、見えたのは、処女の師匠にただこき使われる彼の姿だけよ」
「死ぬ未来が見えていないのなら、連れて行くわ。この子はわたしの弟子だもの。あなたのおもちゃにさせる気はないから」
「あら、残念。あんたのそばにいたら、彼、童貞が長引きそうに見えたんだけど」
「童貞が長引いたからって、死にはしないのなら連れて行くわよ」
わたしも処女だが、それで体調不良とかはない。
だいたい、男好きでなければならないという掟は魔女にはない。
世間から嫌われている、なら、嫌われるようなことを徹底的にしてやろうという反骨精神から、魔女たちは男好きでいるように思える。魔女と聞けば淫乱と想像するなら、想像通りにやってやろうという感じだ。
「人手がいるなら、うちのメイドを連れてってもいいわよ、今日はあの子ドジったけど、それなりの手練れだから」
時読みが空いた皿を下げていた槍使いのメイドをちらりと見る。魔法で瞬時に槍を呼び出し、あのときの堂々とした構えをみれば、それなりの使い手ということはわかる。
「うちには、もう弟子二人に忍びが二人いるから、灰色相手ならそれだけで十分じゃない」
時読みは、私と一緒におもてなしをうける弟子の偽姉弟と忍を見た。
「なるほどね、対魔女狩り専門忍者、略して対魔・・・」
時読みは、途中で、そのつぶやきを飲み込んだ。
「ま、とにかく、あんたに死んでもらったら、これからいい媚薬が手に入らなくなるから、無理しないで」
「はい、はい、ご忠告、ありがとう。それにしても、豪華な料理ね。そんなに羽振りがいいの?」
「そりゃ、来年どこが豊作で、どこが不作か予知ができる私のご機嫌を取ろうとする商人は多いから、珍味が手に入ったら、喜んで持って来てくれる方ばかりだからね。それに、私の予知のおかげで助かって恩義を感じた貴族なんかは、喜んで娘を私に奉公させるのよ」
そういったとき、時読みはちらりと槍使いのメイドを見た。
なるほど、普通のメイドがあんな風に槍を扱えるわけないとは思ったが、貴族としてそれなりの武芸を身につけて時読みにメイドとして奉公しているようだ。
この豪華な食事もこの屋敷も、時読みの予知の恩恵をうけた者たちからの見返りで成り立っているのだろう。
ただ、屋敷を仕切る老紳士の執事は、昔は、時読みの男だったが、魔女の秘術で老いない彼女の代わりに年を取ってしまい、今は執事の地位にいると後から知った。
とにかく、時読みは自分の未来視をうまく使ってこの辺りの人々に尊敬されているようで、この屋敷のメイドたちも執事も彼女に尽くすことを誇りに思っているような感じだった。
豪華な食事を楽しみ、与えられたへやで、私は眠りについた。
だが、翌朝、私はおだやかな目覚めを迎えられなかった。
「ちょっと起きなさいよ」
私の部屋の戸を荒々しく叩く時読みの声がした。窓の外が明るくなっていた。
「なに? おはよう」
私は声をかけながら、眠い目をこすりながら戸に近付く。
「ちょっと、聞いてないわよ、あの数は」
「数?」
「あんた、聞こえないの。あんたの猫とうちの鴉がにらみ合ってるんだけど」
「あ、ああ、うちの使い魔ね。あんた未来が見えるから、言わなくてもいいかと思ってたけど、やっぱり、黙っててまずかった?」
「いくら未来が見えると言っても毎日見ているわけじゃないわ。とにかく、うちの使い魔とあんたの使い魔が殺し合いを始める前に、何とかして」
「はいはい」
私は欠伸をしつつ屋敷の外に向かった。
私が昨夜、バラまいた臭いにつられて屋敷の敷地内に、白や黒、茶トラ、三毛など様々な猫たちがにゃーにゃーと集まっていた。その敷地の侵入者たちを威嚇するように屋敷の屋根の上に無数の黒い鴉たちが集まっていた。
私の姿に気づくとひときわ大きな黒猫が、のっそりのっそりと近づいてきた。
「あんたが、この辺りの主?」
その黒猫は私の目の前でごろんと腹を見せて寝転がった。
私は屈んで、そのお腹をさすりながら命令した。
「私、ネズミをたくさん連れた女を探しているの。見つけてくれない」
黒猫は、たっぷり私にお腹を撫でられると起き上がって他の猫たちを連れて去っていった。猫などの動物を呼びつけて、操る薬は、魔女の秘術でも古いものである
それが私の場合、猫であり、時読みは鴉、灰色は鼠だった。
猫たちが四方に散ると、鴉たちも屋根から飛び去っていた。この屋敷が襲われるようなことがあれば、あの鴉たちが時読みを守るのだろう。
ネズミとネコ、相性としては、私に分があるだろうが、逃げ回っているようだし、すぐには見つからないだろう。
「ね、しばらく、ここのお世話になっていい」
私は時読みにそう言った。
「いいわよ、その間に、あの女装っ娘が、私に落ちてもいいなら」
「あら、あの子には、怖いお姉さんがついてるから、そう簡単には落ちないけど、いい?」
「それは面白そうね」
「じゃ、しばらく滞在してもいいわね」
「ええ、どうぞ」
私たちは、朝日の中、お互いに魔女らしい笑みを浮かべていた。

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