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メイドのメリンと派手女シロ

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旅の途中、忍の佐助とくノ一は一緒にいることがほとんどなかった。仲が悪いからではなく、一人が私たちのそばにいるとき、もう一人が私たちから離れて、待ち伏せがいないかとか、周囲を警戒して離れて警護するためだった。夜も、交代で見張りをしてくれたから、どちらかが、起きているとき、どちらかが寝ている感じだった。
村を通りかかれば、食料を分けてもらったり、薬の調合のために使わない器などをいただいた。病人がいれば、派手女と姉妹が介護しながら私の薬の調合を手伝ってくれた。そうして作った薬を村人に渡したりして、そういうとき、派手女が、村人と交渉して、薬代として我々では食べきれないくらいの野菜と交換したり、その村で一晩お世話になることもあった。私たちのことは薬を売る行商人親子で通した。見た目で娼婦と分かるような女たちと同行なのは、旅は大人数の方が安全だからと集まった一行だと話した。
私が魔女であること、王都で騒ぎを起こして居づらくなって飛び出したことは誤魔化して、村人に話した。特に、私の弟子の男娘が、盗賊たちの慰み者になり、それがきっかけで女装するようになったという話は、どこでも受けた。ある村などでは、収穫が終わってひと段落したところで、娯楽の少ない村娘たちが、女装の似合う美少年である私の弟子に同情しつつ夜這いをしようとしたところを、偽りのお姉ちゃんに撃退されるような騒動もあった。
魔女が新手を放って襲撃してくるかと思って忍び二人は、常に気を張って警護してくれていたのだが、誰一人怪我するようなことはなく、たまに物取りや魔物たちに襲われても、忍や私の作った毒で撃退し、同行の娼婦たちを巡って村の男たちが喧嘩する程度の危機しか訪れなかった。
時々、くノ一が王妃宛ての手紙を書き、街道ですれ違う本物の旅の行商人に王妃の元に私たちが元気であると伝えているようだったが、本当に平和な旅だった。つい、このまま偽親子で行商の旅を続けてもいいかなと思えるほどに穏やかな日々だった。
だが、魔女として、きちんと落とし前をつけるため、私は知り合いに会うことにした。
目の前の豪邸は貴族の屋敷と変わらなかった。
魔女であることを隠し、富を得たという噂は本当だったようだ。
私とて、他の魔女がけしかけて来なければ、王妃と親しくなった王都で富を蓄え、豪邸に住めたかもしれないが、その可能性を潰してくれた魔女に落とし前をつけるつもりで、そこに来た。
屋敷に近付くと、門の前にメイドが立っていた。
「お待ちしておりました、黒曜の魔女様」
「さすが、時読みね。私の来訪を先読みしたのね」
魔女は占いが得意だが、この屋敷の主である魔女は未来視と呼べるほどの力を持っていた。
「黒曜の魔女様は歓迎しますが、調停者気取りのカマ野郎はお呼びではないと、ご主人様が、申しておりまして」
「え!」
カマ野郎という単語で私の弟子がビクッとするが、そのメイドが瞬時に魔法で呼び出した槍の切っ先を向けたのは派手女だった。
「魔女に憧れるあまり、死人の皮を剥いで女に化けるとは、悪趣味だと、しかも、他人の皮だというのを誤魔化すための厚化粧、うちの御主人様がとても気色悪いと。わたしも同意見です」
メイドが不愉快そうに顔を歪めていた。
「面の皮が厚いと申しますけど、文字通りでキモイですわ」
「ちょ、ちょっと、何を言ってるの?」
派手女がうろたえていた。
「いくら魔女に憧れたからと言って、人の皮を被ってまで女に成りすます。そんな変態は、この屋敷の敷居を跨がせるわけには・・・、ケツの穴を掘られるの好きなんでしょ、カマ野郎。この私のぶっとい槍で、貫いて昇天させてあげます」
「ああ、思い出した。あんた昔、白の魔女のところにいたガキだったのか、すっかり騙された。随分と大きくなったものだね」
私は昔の知り合いのことを思い出して、その姿を派手女と重ね合わせて、みなを庇うように一歩前に出た。
その左右に佐助とくノ一に偽姉が並び、弟子の男娘、姉妹と娼婦たちを背後に立たせる。
私の後ろに回された男娘が、私の後ろで申し訳なそうにしていたが、佐助が言った。
「自分の弱さを知っていることは悪いことじゃない。無理に頑張られる方が、迷惑なときもある。今は、黙って守られる側に居ろ。嫌なら、師匠を越えるられるようこれからしっかり勉強しろ」
「はい・・・」
佐助の言葉に我が弟子がうなずく。うん、かわいい。こういう子だから、私は弟子にすることに決めたのだ。
だが、優秀な偽姉の方は、何となく、調停者気取りのカマ野郎のことを知っているようだったが、不出来な弟を含め他の忍びたちは何も知らないようなので、私は、みんなに教えるように口にした。
「昔、白の魔女って、強い者が弱い者を守るのが当り前と思っているお人よしの魔女がいてね、弱い者を守るため魔女の秘術を惜しげもなく使って、あまりに人を救うから、彼女を神のように崇める人々が出て来て、それが気に入らない連中が騒いで、魔女狩りが起きて、そのお人よしの白の魔女は、火あぶりさ。でも、彼女、行き場のない可哀そうな孤児を拾って育てていて、彼女が殺されると、育てられていたその男の子が、彼女の代わりに自分が白の魔女を継ぐんだって、こじらせてね。御覧の通り、他人の皮を被って私らが騙されるくらい女になりきったみたいだね。おまけに、白の魔女はお人よしだから、プライドが高くていつも張り合っている私ら魔女に、みんな仲良くって言ってて、で、彼も、彼女の意志を継いで、私たちの調停役を名乗ってるわけ。でも、私にちょっかいをかける魔女がいるように、全然、調停役になっていない可哀そうな子よ。けど、まさか他人の顔の皮を被るとはね、そこまでしてたなんて驚いたわ、今日まで全然気づかなかった。白の魔女はとても賢かったから、その優れた技術も完璧に受け継いだようね」
魔女が見た目通りの年齢ではないように、この白の魔女の弟子は私でさえ騙されるくらいに完璧に女になっていたようだ。言われてみれば、その顔に張り付けた皮膚の死臭を誤魔化すためのきつい香水で、正体がばれない様に幻覚剤も香水に混ぜているのかもしれない。ま、この私を騙せるくらいの幻覚剤を扱えるなら、女のふりして娼婦として男を生かせることもできるだろう。
派手女にしゃぶられたことを思い出した我が弟子の男娘が、複雑そうな顔をしていた。
あそこを咥えられたことは知らなかったが、自分に迫っていた女が実は男だと知って動揺しているのだろうと私は思った。とにかく、今日まで派手女の正体に気付けなかったのは、私の失態だ。
「しかし、まだ魔女の調停者気取りでいたとは、だから、サバトに近付き、あんたなりに解決しようとしていたのかい? けど、あんたが解決する前に私が手を出したから、その流れで、私のそばで、今日まで大人しく様子を伺っていたというわけ?」
私は距離を詰めるように一歩、前に出た。時読みのメイドが片付けてくれるのなら傍観しているつもりだったが、槍を手にしていたメイドは、黒い蛇のようなものに締め付けてられていた。
「髪ね、皮を剥ぐついでに収集したのね。その長さ、何人分かしら?」
一人二人ではないだろう。
思わず、溜め息が出る。
死体の皮をはぎ、髪まで集める。
魔女とはいえ、良識を捨てた覚えはない。不快に思うには十分だった。

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