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悪戯の代償

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人々は魔女を恐れた。
ある者は占星術を極めて神のごとく未来を予言し、ある者は魔法を極めて竜さえ使役し、空に魅入られた者は天候を読み、大津波や大嵐を予見し操った。ある者は代々受け継がれた薬の知識をさらに研磨して、新しい薬を調合し、どんな病人でも神のごとく治した。
だが、昔、恐ろしい流行り病が広がって多くの人が死んだ。薬に詳しい魔女も、必死に人々を救おうと努力して、その流行り病を治す治療薬を作り、多くの病人を救った。すると、病が流行り始めた最初の頃に家族を亡くした遺族たちが、何で、もっと早く助けてくれなかったとその魔女を責め始めた。しかも、その病を流行らせたのはその魔女で、わざと病気をばらまいて、薬を売って大儲けしようとしたんだと疑い、流行り病は魔女のせいだという噂が流れ、人々の憎悪が、その魔女に向けられ、その魔女は、魔女を名乗るのをやめて、ひとを治す薬をあまりつくらなくなり、生まれた土地を離れ別の地で媚薬売りと呼ばれるようになった。
しかし、魔女の名を捨てたつもりだった私の店の周りで、媚薬香をまき散らされた。当然、いま魔女ではなく媚薬売りと言われているこの私が疑われるのは間違いない。魔女を恐れた人々が魔女にすることは、昔から火あぶりが定番であり、何も悪いことをしていないと訴えても、自分で悪い魔女と認めるまで拷問するのが、魔女を恐れる人々のやり口だ。
「わりと、うまくやってたんだけどなぁ・・・」
もう王都にはいられないだろうなと思いつつ、魔法の杖を飛ばす。
いた。
なにやら、薬の調合の道具を抱えながら、遺跡らしい穴から飛び出してきた人影を見つけた。
こんなところにも遺跡があったんだと思いつつ、私はすーと行く手を塞ぐようにその女の前に降りた。
「察知されたと悟ったら、一目散に逃げ出す。いい判断ね」
「ひっ、い・・・」
私が地上に降りたつと、魔女っぽい格好をした女は怯えるように立ち止まった。まだ若い、見たことない顔だ。
「ひどいじゃない、挨拶もなしで、黙って立ち去ろうとするなんて。あなた、タダで済むと思ってないわよね」
「わ、私は・・・・」
「初めまして、こんにちは。それ、私のマントに似てるけど、本物は、こうよ。もっと黒いの」
と、着ているマントをひらひらさせる。古くてかび臭いが、その闇色は落ちていない。
「魔女には、それぞれ、自分の魔力と相性のいい鉱物があるのよ。私は黒曜なんだけど、あなたも黒曜石と相性が良かったのかしら? さて、私のに似たマントを着て、しかも、媚薬香を私の店の周りで振りまいたの、あなたの仕業で間違いないわよね、誰の差し金?」
私は比較的優しく尋ねたのだが、私のことを知っているのか、彼女は怯えて、後ずさりをした。
「あらま、大人しく教えてくれないというなら、ちょっと拷問しましょうか」
時間を無駄にする気はない。
「人をスケベな気持ちにさせる香があるのなら、その逆に恐怖させる香もあると思わない?」
私はそう言いながら小瓶を取り出した。
「強そうな獣を見たら、人は恐怖する。この臭いを嗅いだら、どんな人間だって、震えだすわよ」
そう言いながら、彼女の足元にその小瓶を放る。普段から色んな薬や香りを作っている私には耐性があるが、初めてそれを嗅いだ彼女は、急に腰が抜けたらしく、薬を調合する道具を落して、ペタンと座り込んだ。
「あらあら、私がすごく怖いバケモノに見えたかしら」
「ひ、い、いい、く、くるな。くるな・・・」
私は魔法のほうき代わりの魔法の杖から降りてゆっくり近づいているだけで、何もしていないが、彼女は怯えていた。
「さて、誰の差し金?」
「い、言えない、殺される・・・」
「なるほど、私に話したら、死ぬほど怖い目にあわされるのね。でもね、私も魔女なのよ、分かる?」
「ひぃぃぃ・・・」
彼女は怯え、ついに漏らして股間に大きな染みを作った。
「じゃ、誰の差し金かはいいから、この薬を飲みなさい。私なりの罰。私の調合した媚薬の原液よ。飲むとどうなるか分かるわね。死ぬよりマシでしょ」
私が優しく提案すると、彼女は私から小瓶を奪い取り、グイと自分で飲んだ。黒幕を教えるより、感度マシマシの方がいいようだ。
「うん、いい子。じゃ、もう誰の差し金かは言わなくていいから、靴を脱いで、ここから裸足で王都に歩いて行って私が媚薬香を撒きましたと大声で叫んできなさい。でなければ、死んだ方がマシと思える薬をもっと飲ませてあげる。まだ、色々な試作品の薬もあるから、魔女の実験体になりたくなければ、急いで王都に向って私がやりましたと叫んできなさい」
私を恐れ、しかも、そよ風さえ、愛撫に感じられる感度倍増状態の彼女は、何とか立ち上がって、王都に向けて歩き出した。素足に感じる地面の感触でさえ、彼女には、何千もの舌に舐められる愛撫に等しいだろう。走って逃げ出そうとすれば、数歩走っただけで、絶頂に達するはずだ。恐怖を感じる香は、嗅いだだけで永遠に効くわけではないが、がぶ飲みした媚薬の原液の効果は、そう簡単には抜けない。一歩踏み出すたびに、ビクンッと震えていた。
「そんなにのろのろだと、暗くなるまでに王都にはつけないわよ」
私は、彼女の後をゆっくりとついていった。本物の魔女には程遠い小娘だ。きっと誰か他の魔女の弟子で、その師匠の命令で、媚薬を使って私の周りで嫌がらせをして来いと言われてきたのだろう。
薬を作って多くの人に感謝される私を魔女らしくないと毛嫌いする仲間の魔女がいたのは知っていた。人より優れた力を持つ魔女は、そのせいか、性格がゆがんで尊大な奴が多くて、自分より賞賛される者が許せない。
迫害されることが多い魔女にあって、媚薬を売って人々と馴染んで生活している私が許せなかった魔女が、弟子を使って、私に嫌がらせに来たようだと私は考えた。
そして、その黒曜の偽物は王都まで裸足で歩き切ったが、王都に着くと力尽きて気絶してしまい、仕方なく、うちの店に運んだ。その頃には、雇われて媚薬香をまき散らしていた連中を佐助の分身がすべて捕らえ、王都は落ち着きを取り戻していた。媚薬香をばらまいていた連中の中には、私の店を襲い、死罪を免れた盗賊の下っ端も混じっていた。

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