目を覚ますとサークル1のイケメンが隣で寝ていた件について

白井ゆき

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1章

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「ごちそーさまでしたー」

 支払いを済ませた藤咲綾人の隣で店員さんに頭を下げる。その頭をあげると視界がぐるりと回り、よろけた体を支えられる。その体を起こして下から顔を覗き込んだ。

「ありがとー」

 ふわふわする体に合わせて足取りも軽くなる。体を左右に揺らしながら店の扉を開けると、夜風が肌を撫でた。そのまま一歩踏み出したら店の入り口にある数段の階段に躓き、再び体を支えられる。

「大丈夫かよ」
「なーおんぶー」

 俺の肩に手を回す藤咲綾人に両手を伸ばす。けれど、その手は振り払われ、一人で歩き始めてしまう。その背に向かって、「おんぶしてよぉ」ともう一度言うと、「誰がするか」と断られた。どんどん先に進む藤咲綾人をおぼつかない足取りで追いかけて、その背中に飛びついた。一瞬よろけ、振り向いた藤咲綾人が顰めた顔でこちらを見下ろす。

「藤咲綾人のせいで腰痛いぃ。おんぶして? な?」
「離せ」

 引きはがされそうになる手を必死に握り締める。そのまま上目で、腰痛い、おんぶしてと言い続けているとだんだん声が大きくなっていく。その声に、近くを歩く人たちがこちらを振り返り始めた頃、ようやく観念した藤咲綾人が身を屈めた。その背にとびつく。

「やりぃ」

 足をぷらぷらと揺らしながら、肩に顔をのせる。ムスクのような香水の香りがして、首筋に鼻先を近づけた。煩わしそうに反対方向に顔を傾ける藤咲綾人のハーフアップで纏められた綺麗な髪の隙間から、耳の下あたりの黒い点が垣間見えた。

「あ、ほくろあるー」

 その斑点を指でなぞる。

「くすぐってぇ」

 僅かに身をよじった藤咲綾人の姿に、えへへと笑い、もう一度肩に頬を押し付け、そのほくろを眺めた。
 先輩に紹介してもらった2つ上で俺のことを可愛がってくれた彼女。2日前に、自分より可愛いのが嫌だと俺を振ったあかりさんにも、耳の下あたりに小さいほくろがあった。
 あぁ、でも藤咲綾人の方が少し耳に近いかなぁ。あかりさんのは、もう少し下の首の筋のあたりにあった気がする。
 
「あのねー、元カノにもねー、ここにほくろあったのぉ」
「知ってる」

 意外な答えに目をぱちりと瞬きをする。
 
「何でぇ? もしかして寝取ったぁ?」
「違ぇよ。飲みのときにお前が言ってたんだろ」
「そぉだっけ」
「そうだよ」

 藤咲綾人と話した飲み会と言えば、2日前しかない。「うーん」と唸りながら記憶を辿るけれど、一向に思い出せないところをみるあたり、酔った後の話なんだろう。そんな話してたんだ。
 
「俺ねぇ、このほくろ好きー」
「あっそ」

 そういえば、彼女の髪も丁度藤咲綾人くらいの長さだった。風に靡くたびに覗くほくろをいつも目で追いかけていた。その記憶を思い出しながら、正面を向く藤咲綾人の横顔を見た。高い鼻に引き締まった口元。無駄な肉のないフェイスラインはきゅっと上がっていて、どこを切り取っても綺麗な横顔。
 
「あとぉ、藤咲綾人の顔も好きぃ」

 藤咲綾人が横目でこちらを見る。
 
「面食いか?」
「うん。俺綺麗な顔した人が好きぃー」

 誰だって綺麗なものの方が好きじゃん。見ているだけで楽しいし。
 鼻で笑った藤咲綾人の足が、公園を左に曲がる。そこで、俺の家に向かってくれていることが分かった。

「それとぉ、藤咲綾人の髪も好き」
「綺麗だから?」
「うん!」

 夜風に晒された髪が時々、頬を撫でる。1本1本が細くて柔らかいからか、嫌な気分にはならず、むしろ心地いい。その艶やかな髪に指を絡ませ、「つやつやー」と遊んでいると、「鍵」と短く言われる。ポケットの中から鍵を出し差し出した。俺を背負ったまま器用に鍵を回すその手を見て、口を開く。
 
「あとね、藤咲綾人の指もすき」
「指?」

 後ろ手で鍵を閉め、俺の靴を脱がすその手に指を這わせた。「綺麗だから?」と再び尋ねる藤咲綾人に首を振ると、綺麗な顔を不愉快そうに歪めた。その様子を笑ってやると、眉間の皺がさらに深くなる。廊下を進み、足でドアを開けた藤咲綾人の首に抱き着いて足を揺らす。
 
「あのねぇ、いれるときにぃ関節がねぇ、お尻のふち? ごりごりしてきもちぃの。だからすきぃ」

 俺をベッドに下ろした藤咲綾人が振り返り、片手で頬を挟む。輪郭をなぞる顎下の指にぞくりとし、目を細めた。
 
「何、誘ってんの?」
「えー、どうだろぉ。誘ってんのかなぁ?」
「知るか」

 離れていく藤咲綾人の首に精一杯伸ばした手を絡めて引き寄せる。
 
「じゃーあぁ、誘ってるかどうかぁ藤咲綾人が確かめてみてよー」

 甘えた声でそう言うと、つー、と腰を撫でられた。ピクリと身体を跳ねながら、「ぞくぞくする」と呟く。
 
「疲れてるんじゃねぇの」
「えぇー、分かんなぁい」

 そういえば、疲れている気もする。でも、それ以上に気持ちよくなりたいという気持ちが大きい。その骨ばった指で中を触ってほしいし、大きく反ったアレで中を抉ってほしい。右も左も分からないくらいに蕩けてしまいたい。
 
「ローションとかワセリンある?」
「ワセリン持ってるよぉ」
「どこ?」
 
「せんめんじょ」と呂律が回らない口で伝えると、一人で向かおうとした藤咲綾人の服の裾を掴み、「抱っこ」と手を伸ばした。呆れながらも「はいはい」と膝裏に手を差し込むその首に抱き着く。一気に高くなった視界に気分が上がり、けらけらと笑い声をあげた。

「たかぁい!」
「暴れると落ちるぞ」
「落ちないよー」

 ムスクが香る首筋に顔を埋めたまま洗面所の場所を指し示し、誘導する。洗面所の棚に置いてあるワセリンに手を伸ばし、再び抱き着いたところで、「あっ」と声を上げて眉を下げた。

「ゴムはね、部屋にあるー。でもぉサイズ合わないかもぉ」
「そっちは持ってるからいい」
「えーいつも持ってるの? えっちぃ」

 ベッドに下ろされ、Tシャツを脱がされる。そのまま流れるようにズボンを抜き取り、押し倒された。

「ねぇー、」
「んー?」
「ちゅーしてぇ」

 笑いながら顔を近づける藤咲綾人を引き寄せて、軽いキスをする。それを何度か繰り返し、深くなったところで、藤咲綾人の中に自ら舌を入れて絡ませ、それを自分の口内に招き入れた。脳内にくちゅくちゅと響く音に溺れ、次第に体の力が抜けていく。
 お腹を這っていた手が少しずつ下りていくと期待で腰が揺れた。焦らす様に中心を避けて、足の付け根をなでる指がもどかしい。その手を掴み中心へと誘導すれば、絡めていた舌が離れていく。

「っん、はぁ……、ねぇ、こっち」
「触ってほしいわけ?」
「うん、だめ……?」

 下着の上から掌全体で柔く揉まれ、甘い痺れに目を細めた。

「直接さわって、」

 自ら下着を下ろし、藤咲綾人に押し付けた。ちょうどいい強さと速さで扱かれ、下半身に熱が集まる。息を漏らす俺を見下ろすその瞳は、数刻前と変わらず、自分だけが乱されている状況に寂しさを覚える。堪らず、藤咲綾人の下半身に手を伸ばすと、そこは何の反応もしていなくて、頬を膨らます。俺を扱く手を止めて体を起こし、ベルトに手をかけた。

「勃たせてくれんの?」

 その問いかけに頷き、服の下から藤咲綾人のモノを取り出す。一度、上目で見上げてから、まだ柔らかいそれに舌を這わせた。様子を窺いながら反応のある場所を探っていき、頃合いを見て口に含んだ。じゅぷじゅぷと音を立てて、顔を前後に動かしていると、次第に固くなっていく。

「ひもふぃい?」
「まぁまぁ」

 その答えが気に食わず、元カノの動きを思い浮かべながら再現する。藤咲綾人の腰に顔を埋め、唇で扱き、舌で撫でるのに必死になっていると、不意に後ろの蕾を触れられた。ヒクつく孔の中に遠慮入り込んだ指に甘い吐息が鼻を抜ける。
 骨ばった指の関節が1つ2つと入ってきたかと思えば、すぐに抜かれ、また入ってくる。そのたびに入り口が擦られ、思わず熱を湛えた怒張から口を離した。開いたままの口から唾液をこぼし、より快感を拾えるように腰を揺らす。

「大好きな指咥えこんだ感想は?」
「んっ、ぁっ、……きもち、んんぅっ……」
「はは、えっろ」

 抜き差しするだけの単調な動きが中を責め立てるものへと変わっていき、大きい快感が押し寄せる。太ももを震わせ、シーツを掻いていると、骨ばった指がしこりを撫でた。それをきっかけに快感をため込んだ風船が割れ、身体から力が抜ける。それでもなお、イイところを撫でる指の動きに、身体が快感を拾い上げた。

「あっ、もぉいったぁ、いったから、ぬいてっ……んぁっ!」
「ぎちぎちに締めてる奴が何言ってんだよ」
「だっ、ってぇ、ゃぁんっ」

 チカチカと点滅する視界の中で、目の前で反り勃っているものを咥えた。先端を吸い上げると、苦味のある液体が流れ込んでくる。それを飲み込むと、しこりを指先で掻かれた。

「余裕そうじゃん。3日目だと慣れたか?」

 もう一度しこりを刺激され、俺の身体が痙攣したのを確認した藤咲綾人は、軽々と仰向けにひっくり返し、取り出したゴムを装着した。ゴム越しでも、十分すぎるほどに熱く滾ったそれが、肉をかき分け中に侵入する。

「んんっ、……はっ、ぁ、……んっ」

 腰の律動に合わせて流れ込んでくる快楽に、知らず知らずのうちに腰が動いていた。俺の動きに合わせ、腰を打ち付けた藤咲綾人のモノに奥を貫かれる。
 
「やぁぁあっ! っ、あっ、そこ、きもちぃっ……んっ、ぁあっ、もっとぉ」

 再び奥を突かれ、身体を反らした。
 
「お前、酔ってると素直だよな。ずっと酒飲んでろよ」
「ふっ、んぅ……、す、なおなおれ、すきぃ?」
「そうだな」
「じゃ、ぁ、なまえ、……ぁっ、なまえ、よんでぇ」

 上体を起こしたまま、動いていた藤咲綾人が身体を曲げ耳元に顔を近づける。それに伴って角度が変わり、これまでとは違う刺激に襲われ、その頭を抱きしめた。

「那生、これ気持ちいいか?」
「う、んっ、きもちっ……あっ」

 耳に流れ込む息すらも快楽に変わり、中を締め付ける。呼応するように、短く息を漏らした藤咲綾人の動き早くなった。その力強い抽送に大きな快感が押し寄せる。お腹の内側を針で刺されるようなその感覚に、首に回した手に力が入った。

「あっ、まってっ……、はや、ぁ、やっ」
「お前の中、まじでいいわ、っ」
「ぁ、ひゃぁっ、……ゃ、ああっ、ぁ、んっ、……ぅ、あああぁっ……!」

 吐き出された精が胸にぱたぱたと音を立て落ちる。鋭い快楽に犯された身体から力が抜け落ち、去った快感の代わりに睡魔が襲い来る。蕩けきった目を閉じ、だんだんと遠くなっていく意識の中で「寝るな」と言われた気がするけれど、それにあらがう術はなくそのまま意識を手放した。

 
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