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1章
8※
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パチリと目を開ける。視界に広がるモノトーンでまとめられた部屋と腰に広がる痛みに、やらかしてしまった、と心の中で呟いた。昨日と同じように、腰には鍛えられた腕が回されている。
相違点を挙げるとするならば、僕が半裸ではなくサイズの全くあっていないTシャツを着ていることと、昨日の出来事を全て覚えていることだ。
ベッドで4回し、その後一緒に入ることとなった――というより、腰が抜けて一緒に入らざるをえなかったお風呂場で、さらにもう1回交えた僕の身体は、昨日など比ではない程の疲労で支配されている。お風呂から上がった後の記憶だけがないところをみると気を失ってしまったのだろう。もし気絶していなければ、さらに回数を重ねていたのだろうか。考えるだけで恐ろしい。
昨日の朝は酔っ払い相手になんてことを、だなんて批判していたけれど、この痛みから察するに手加減をしてくれていたのかもしれない。だとしても許されることではないが。
でも、1番許せないのは、昨晩の行為を悪くないなと思ってしまっている僕自身だ。
だって、気持ちよかった。ぐずぐずになって、普段は絶対に言わないような恥ずかしいことを口走ってしまうくらいには気持ちよかった。男の人もお尻で気持ちよくなれると聞いたことはあったけれど、まさか、あれ程だなんて。
体を回転させ、穏やかに眠る藤咲綾人の顔を見つめる。寝ている姿は穏やかで、昨日の底意地の悪い笑みやこちらに一切の配慮のない責めをしていた人物とは思えない。
それにしても整った顔をしている。小さな顔に綺麗なパーツが収まるべき場所に収まっている。その頬に手を伸ばすと、きめの細かい肌が掌に吸い付く。それに人間の不平等を感じ、頬をはたいた。
小気味よい音に満足をしているとその手をがしりと掴まれる。
あ、やべ。
「てめぇ、今叩いただろ」
「気のせいだよ」
手を引っ張られ視界が回転する。僕を押し倒し、不機嫌そうにこちらを見下ろす姿に冷や汗が頬を伝った。
「蚊がいた! 蚊がいたの!」
「だったら誤魔化す必要ねぇよな」
骨ばった手がTシャツを捲り上げた。パンツとTシャツしか身に着けていないため、必然と下着がさらけ出される。藤咲綾人のものだろうか、昨日の僕が身に着けていたものとは違うその布の上から、柔らかく握られ、下腹部に疼きが――。
「やーめーてっ!」
上体を起こし、あらん限りの力で頭突きをする。痛みに悶える藤咲綾人の下から逃げ出し、自身の身体を守るようにシーツを巻き付けた。
あんなに好き勝手したくせに朝一でしようとするとか本当にあり得ない!
「昨日いっぱいシたでしょ!」
「昨日の話だろ」
おでこを擦りながらベッドボードのスマホに手を伸ばす藤咲綾人の挙動を警戒しながら、距離を取ろうと後ろに下がる。
便宜上昨日と言ったけれど、日付は変わっていたからあれは今日。たとえ今日ではなかったとしても、みんながみんな自分のように底なしの体力を持ち合わせているなんて考えないでほしい。
「そっちの基準で考えないで!」
ベッドのギリギリまで下がってから睨むと、シーツを引っ張られた。身体に纏わり付く布の塊に邪魔をされて手を出せず、バランスを崩した体が藤咲綾人の胸にダイブする。その顔を片手で掴み上げられ、上を向かされた。肩先まで伸びた艶やかな毛先が顔をくすぐる。
「でも気持ちよかったんだろ?」
「気持ちよくなんてない!」
片方の口角をあげ、こちらを見下ろす藤咲綾人の胸元を両手で押し返し、距離をとろうと試みる。しかし、長い脚で引き寄せられたせいで、距離が離れることはなかった。
「体の相性よかったもんな」
「はぁ!?」
よくない!全然よくないから!勝手にそっちがそう思ってるだけじゃん!
大体、藤咲綾人以外のものなんて知らないんだから、そんなの分かるわけないし、相性が良かったとしてもここで認めてしまおうものなら、今後平穏な大学生活を送ることができなくなる。僕は、性欲に支配された爛れた生活に堕ちるつもりはない。そんなもの、1人でやってほしい。
「ねぇ、離して!」ともうひと暴れすると、目の前にスマホが差し出される。そこに映し出された映像と流れ出る音声に目を見開いた。
『ぼく、が、ぁあっ、さかり、ついたいぬっ、っぁ……っそれ、きもちぃ、んぁっ』
「うわぁぁあああ!」
その音をかき消すように大声を上げ、スマホに手を伸ばすけれど、触れる前に避けられ空振った。その間もスマホからは鼻にかかった媚びた声が流れ続けている。
「何で撮ってるの!?」
「こんなによがっといて気持ちよくないはねぇよな」
「変態! 消してよ!」
「それとも、また忘れた?」
動画の再生が終わり、音が鳴りやむ。相変わらず頬を掴んだまま、意地の悪い笑みを浮かべる藤咲綾人に何も返せずにいた。
認めてしまえばセフレ扱いされるのは目に見えているし、認めなければ昨日と同じ轍を踏むことになる。さらに、あの動画。気持ちよくないと言ってしまったら、あの動画はどうなるんだろう。サークルで晒される?そうなると、大学中に広がるのも時間の問題だ。
男に嵌められ甘い声を出しながら自分が盛りのついた犬だと自称する男の動画。……だめだ、誤魔化しようがない。下手すれば、SNSで拡散されて全国デビューの可能性だって0じゃない。大学生活どころか今後の人生が詰む。
大学生活と人生がのった天秤を思い浮かべる。その結果は、当然。
「……ってば」
「あ?」
「だからぁ、覚えてるってば! これで満足!?」
「じゃあ、ヤッても問題ないな」
再び押し倒され、Tシャツの中に手が入ってきた。その指がパンツのゴムにかかり、引き下ろされそうになるのを両手で止める。
「ちょっ、しない! 絶対しない!」
「何でだよ」
「僕疲れてるから!」
「そんだけ騒げるなら大丈夫」
抵抗むなしく下着が脱がされていった。そのまま脚を開かされ、後ろの窄まりをほぐす様にローションを纏った指が這う。
「やだやだやだっ!しない!」
「おい、あんま暴れると動画バラまくぞ」
「はぁっ!? 最低! ほんっと、さいて――ひゃぁあっ」
入り口付近に宛がわれていた指が中に沈む。昨日散々弄られたそこは異物の侵入を簡単に許してしまった。指の関節が縁を擦りながら中へ潜っていく。ぐにぐにと肉壁を刺激しながら進んでいく指があの1点に近づいていき、期待でお尻の穴がヒクリと震えた。
「もう息あがってんぞ」
「……るさい」
誰のせいだと思っているんだ。少なくとも、一昨日までの僕は、そんなところを触られても何ともなかった。それを、こうなるように仕込んだのは自分じゃん。僕だって、この程度で反抗の言葉を詰まらせてしまうような状況に戸惑っているんだから。
手の甲を口に当て漏れ出る息を抑え込み、その整った顔を睨み上げれば、鋭い瞳が僅かに細まった。
僕の身体から力が抜けたタイミングを見計らって、もう1つ指が入り込む。2本の指が、あの場所の周辺をゆっくりとこすり上げる。その度に、下腹部をぞくぞくと快感が走り、熱い息がこぼれた。
わずかに首を反らしながら、あの快楽が与えられるのを待つけれど、いつまでたってもその時は来ない。近づいたかと思えば遠ざかり、自ら腰を揺らせば逃げていく。昨日は、あんなにピンポイントで責め立てられた場所を、百戦錬磨のこの男が把握していないわけがない。これは態とで、何かを企んでいるに違いない。昨夜のように罠にかかって口を緩ませれば、容赦のない責めをされるのがオチだ。だから、絶対に何かを言ってはいけない。
そう分かってはいるけれど、浅瀬を抜き差しするだけの温い刺激では決定的な快感にはつながらず、少しずつ溜められた期待がお腹の中でぐるぐると回り燻っている。与えられず、自ら擦り付けることもかなわず、ずっとお預けをくらわされるような状況が続き、こぼれる吐息に切なさが混じり始めた。
「っ、ねぇ、」
「んー」
「そこじゃない、」
「何が」
分かっているくせに、白々しく惚けた表情を浮かべる。中で動いている指が、わざとらしくその場所を避ける。
あぁ、あと少しなのに。あと少し横にずれてくれればいいだけなのに。その指があの場所を擦り上げてくれれば、押し込んでくれれば、体に溜まったこの熱が解放されて楽になれるのに。
「わかってる、くせにぃ」
「ちゃんと言わなきゃ分かんねぇよ」
「~~~っ! きのうのとこ、さわってよぉ」
口角をあげ、薄ら笑いを浮かべた藤咲綾人の指が、あの場所ににじり寄り、短い呼吸を繰り返す。けれど、あと少しのところで再び止まった。
「なんでっ。いったじゃん、さわってよぉ」
「俺はさー、お前が疲れてるって言ったから手加減してやってんの。分かる?」
「やだぁ、いいからさわって、」
そう言い終わるのと同時に、ずっと避けていた場所をこすり上げられる。その瞬間背筋に電流が走り、背中がしなった。
「ぁぁああっ! そこっ、もっとぉ、んぁあっ……!」
お腹側に曲げられた指が、2本の指でしこりを挟みこみ、こりこりと転がす。放置されていた快感が解放され、頭の中で火花に変わる。浮き上がった腰が空中でガクガクと震えた。イッているのに、その手は動きを緩めず、またお腹の底から何かがこみ上げる。それを逃がす術など分からず、シーツを握り締めていると、ばちん、とはじけ飛んだ。腰が大きく跳ねた後、力を失いベッドに倒れ込む。
うつろな瞳で天井を見つめることしかできない僕の耳に、「入れるぞ」という声が届く。もう少し待ってという声は嬌声に飲み込まれた。
浅瀬にある1点に当たるように侵入したそれは奥を穿ち、抜くときもそこを擦り上げる。何度も何度も同じ場所を刺激され、鋭く甘い快感が腰にこみ上げた。
「ま、まってぇ、ぁあ……っ! んっ、ひゃぁあ、もっ、もぉいぃっ、……やぁあっ!」
「お前が触れって言ったんだろ」
「もぉおわりっ、ぁっ、んやぁっ……あ、あ、あっ……!」
再び腰がガクリと震えた。それでもなお抽送は止まらず、シーツに押し付けた頭を振りながら、喘ぎ交じりに「もういい、もういい」と伝える。
「しないしないって駄々こねてたわりにグズグズじゃん。お前の中うねって離さねぇけど、本当にやめていいわけ?」
「も、いっ、ひぃぃっ…… !あたま、おかしくっ……んんっ、ぁあっ、だめ、おねがっ……ゅーことっ、きくからぁ、ゃめっ……ふぁあっ……」
「誰の言うこと聞くって?」
「ふじさき、あやとぉっ」
「何でフルネーム」と笑われる。小馬鹿にした笑いも気にならない程にとろけた頭で、「綾人でいいよ」というその言葉を繰り返す。
「あやとっ、」
「俺が何?」
「あやとの、いうこときくからぁっ」
自分が何を言っているのか理解する間もなく、快楽に全身を包み込まれた。腰を打ち付けながら、小さく笑い声をあげる理由を考えることなどできずに、再び奥を突かれて甘い声を上げた。
「最後にもう1回イっとけよ」
何かを言われた気がするが、それを聞き分ける前に、神経や焼ききれるような快感に襲われ、視界が白と黒の交互に染まる。全身を覆いつくすような大きな波が迫りくるのが分かって、必死に腰を逃がした。しかし胎内に収まったものが、その腰を追いかけ、しこりを捏ねながら奥へと分け入る。
「んぁぁあああっ……!」
足先から頭に向かって電撃が走り、背中が浮き上がる。膝をガクガクと震わせながら腰が跳ねると、性器から精液が飛び散り、服を汚した。やがて脱力した身体がベッドに沈み込む。
ぼやけた視界の中でこちらを見下ろす藤咲綾人を捉え、心の中でこの絶倫が、と罵った。
相違点を挙げるとするならば、僕が半裸ではなくサイズの全くあっていないTシャツを着ていることと、昨日の出来事を全て覚えていることだ。
ベッドで4回し、その後一緒に入ることとなった――というより、腰が抜けて一緒に入らざるをえなかったお風呂場で、さらにもう1回交えた僕の身体は、昨日など比ではない程の疲労で支配されている。お風呂から上がった後の記憶だけがないところをみると気を失ってしまったのだろう。もし気絶していなければ、さらに回数を重ねていたのだろうか。考えるだけで恐ろしい。
昨日の朝は酔っ払い相手になんてことを、だなんて批判していたけれど、この痛みから察するに手加減をしてくれていたのかもしれない。だとしても許されることではないが。
でも、1番許せないのは、昨晩の行為を悪くないなと思ってしまっている僕自身だ。
だって、気持ちよかった。ぐずぐずになって、普段は絶対に言わないような恥ずかしいことを口走ってしまうくらいには気持ちよかった。男の人もお尻で気持ちよくなれると聞いたことはあったけれど、まさか、あれ程だなんて。
体を回転させ、穏やかに眠る藤咲綾人の顔を見つめる。寝ている姿は穏やかで、昨日の底意地の悪い笑みやこちらに一切の配慮のない責めをしていた人物とは思えない。
それにしても整った顔をしている。小さな顔に綺麗なパーツが収まるべき場所に収まっている。その頬に手を伸ばすと、きめの細かい肌が掌に吸い付く。それに人間の不平等を感じ、頬をはたいた。
小気味よい音に満足をしているとその手をがしりと掴まれる。
あ、やべ。
「てめぇ、今叩いただろ」
「気のせいだよ」
手を引っ張られ視界が回転する。僕を押し倒し、不機嫌そうにこちらを見下ろす姿に冷や汗が頬を伝った。
「蚊がいた! 蚊がいたの!」
「だったら誤魔化す必要ねぇよな」
骨ばった手がTシャツを捲り上げた。パンツとTシャツしか身に着けていないため、必然と下着がさらけ出される。藤咲綾人のものだろうか、昨日の僕が身に着けていたものとは違うその布の上から、柔らかく握られ、下腹部に疼きが――。
「やーめーてっ!」
上体を起こし、あらん限りの力で頭突きをする。痛みに悶える藤咲綾人の下から逃げ出し、自身の身体を守るようにシーツを巻き付けた。
あんなに好き勝手したくせに朝一でしようとするとか本当にあり得ない!
「昨日いっぱいシたでしょ!」
「昨日の話だろ」
おでこを擦りながらベッドボードのスマホに手を伸ばす藤咲綾人の挙動を警戒しながら、距離を取ろうと後ろに下がる。
便宜上昨日と言ったけれど、日付は変わっていたからあれは今日。たとえ今日ではなかったとしても、みんながみんな自分のように底なしの体力を持ち合わせているなんて考えないでほしい。
「そっちの基準で考えないで!」
ベッドのギリギリまで下がってから睨むと、シーツを引っ張られた。身体に纏わり付く布の塊に邪魔をされて手を出せず、バランスを崩した体が藤咲綾人の胸にダイブする。その顔を片手で掴み上げられ、上を向かされた。肩先まで伸びた艶やかな毛先が顔をくすぐる。
「でも気持ちよかったんだろ?」
「気持ちよくなんてない!」
片方の口角をあげ、こちらを見下ろす藤咲綾人の胸元を両手で押し返し、距離をとろうと試みる。しかし、長い脚で引き寄せられたせいで、距離が離れることはなかった。
「体の相性よかったもんな」
「はぁ!?」
よくない!全然よくないから!勝手にそっちがそう思ってるだけじゃん!
大体、藤咲綾人以外のものなんて知らないんだから、そんなの分かるわけないし、相性が良かったとしてもここで認めてしまおうものなら、今後平穏な大学生活を送ることができなくなる。僕は、性欲に支配された爛れた生活に堕ちるつもりはない。そんなもの、1人でやってほしい。
「ねぇ、離して!」ともうひと暴れすると、目の前にスマホが差し出される。そこに映し出された映像と流れ出る音声に目を見開いた。
『ぼく、が、ぁあっ、さかり、ついたいぬっ、っぁ……っそれ、きもちぃ、んぁっ』
「うわぁぁあああ!」
その音をかき消すように大声を上げ、スマホに手を伸ばすけれど、触れる前に避けられ空振った。その間もスマホからは鼻にかかった媚びた声が流れ続けている。
「何で撮ってるの!?」
「こんなによがっといて気持ちよくないはねぇよな」
「変態! 消してよ!」
「それとも、また忘れた?」
動画の再生が終わり、音が鳴りやむ。相変わらず頬を掴んだまま、意地の悪い笑みを浮かべる藤咲綾人に何も返せずにいた。
認めてしまえばセフレ扱いされるのは目に見えているし、認めなければ昨日と同じ轍を踏むことになる。さらに、あの動画。気持ちよくないと言ってしまったら、あの動画はどうなるんだろう。サークルで晒される?そうなると、大学中に広がるのも時間の問題だ。
男に嵌められ甘い声を出しながら自分が盛りのついた犬だと自称する男の動画。……だめだ、誤魔化しようがない。下手すれば、SNSで拡散されて全国デビューの可能性だって0じゃない。大学生活どころか今後の人生が詰む。
大学生活と人生がのった天秤を思い浮かべる。その結果は、当然。
「……ってば」
「あ?」
「だからぁ、覚えてるってば! これで満足!?」
「じゃあ、ヤッても問題ないな」
再び押し倒され、Tシャツの中に手が入ってきた。その指がパンツのゴムにかかり、引き下ろされそうになるのを両手で止める。
「ちょっ、しない! 絶対しない!」
「何でだよ」
「僕疲れてるから!」
「そんだけ騒げるなら大丈夫」
抵抗むなしく下着が脱がされていった。そのまま脚を開かされ、後ろの窄まりをほぐす様にローションを纏った指が這う。
「やだやだやだっ!しない!」
「おい、あんま暴れると動画バラまくぞ」
「はぁっ!? 最低! ほんっと、さいて――ひゃぁあっ」
入り口付近に宛がわれていた指が中に沈む。昨日散々弄られたそこは異物の侵入を簡単に許してしまった。指の関節が縁を擦りながら中へ潜っていく。ぐにぐにと肉壁を刺激しながら進んでいく指があの1点に近づいていき、期待でお尻の穴がヒクリと震えた。
「もう息あがってんぞ」
「……るさい」
誰のせいだと思っているんだ。少なくとも、一昨日までの僕は、そんなところを触られても何ともなかった。それを、こうなるように仕込んだのは自分じゃん。僕だって、この程度で反抗の言葉を詰まらせてしまうような状況に戸惑っているんだから。
手の甲を口に当て漏れ出る息を抑え込み、その整った顔を睨み上げれば、鋭い瞳が僅かに細まった。
僕の身体から力が抜けたタイミングを見計らって、もう1つ指が入り込む。2本の指が、あの場所の周辺をゆっくりとこすり上げる。その度に、下腹部をぞくぞくと快感が走り、熱い息がこぼれた。
わずかに首を反らしながら、あの快楽が与えられるのを待つけれど、いつまでたってもその時は来ない。近づいたかと思えば遠ざかり、自ら腰を揺らせば逃げていく。昨日は、あんなにピンポイントで責め立てられた場所を、百戦錬磨のこの男が把握していないわけがない。これは態とで、何かを企んでいるに違いない。昨夜のように罠にかかって口を緩ませれば、容赦のない責めをされるのがオチだ。だから、絶対に何かを言ってはいけない。
そう分かってはいるけれど、浅瀬を抜き差しするだけの温い刺激では決定的な快感にはつながらず、少しずつ溜められた期待がお腹の中でぐるぐると回り燻っている。与えられず、自ら擦り付けることもかなわず、ずっとお預けをくらわされるような状況が続き、こぼれる吐息に切なさが混じり始めた。
「っ、ねぇ、」
「んー」
「そこじゃない、」
「何が」
分かっているくせに、白々しく惚けた表情を浮かべる。中で動いている指が、わざとらしくその場所を避ける。
あぁ、あと少しなのに。あと少し横にずれてくれればいいだけなのに。その指があの場所を擦り上げてくれれば、押し込んでくれれば、体に溜まったこの熱が解放されて楽になれるのに。
「わかってる、くせにぃ」
「ちゃんと言わなきゃ分かんねぇよ」
「~~~っ! きのうのとこ、さわってよぉ」
口角をあげ、薄ら笑いを浮かべた藤咲綾人の指が、あの場所ににじり寄り、短い呼吸を繰り返す。けれど、あと少しのところで再び止まった。
「なんでっ。いったじゃん、さわってよぉ」
「俺はさー、お前が疲れてるって言ったから手加減してやってんの。分かる?」
「やだぁ、いいからさわって、」
そう言い終わるのと同時に、ずっと避けていた場所をこすり上げられる。その瞬間背筋に電流が走り、背中がしなった。
「ぁぁああっ! そこっ、もっとぉ、んぁあっ……!」
お腹側に曲げられた指が、2本の指でしこりを挟みこみ、こりこりと転がす。放置されていた快感が解放され、頭の中で火花に変わる。浮き上がった腰が空中でガクガクと震えた。イッているのに、その手は動きを緩めず、またお腹の底から何かがこみ上げる。それを逃がす術など分からず、シーツを握り締めていると、ばちん、とはじけ飛んだ。腰が大きく跳ねた後、力を失いベッドに倒れ込む。
うつろな瞳で天井を見つめることしかできない僕の耳に、「入れるぞ」という声が届く。もう少し待ってという声は嬌声に飲み込まれた。
浅瀬にある1点に当たるように侵入したそれは奥を穿ち、抜くときもそこを擦り上げる。何度も何度も同じ場所を刺激され、鋭く甘い快感が腰にこみ上げた。
「ま、まってぇ、ぁあ……っ! んっ、ひゃぁあ、もっ、もぉいぃっ、……やぁあっ!」
「お前が触れって言ったんだろ」
「もぉおわりっ、ぁっ、んやぁっ……あ、あ、あっ……!」
再び腰がガクリと震えた。それでもなお抽送は止まらず、シーツに押し付けた頭を振りながら、喘ぎ交じりに「もういい、もういい」と伝える。
「しないしないって駄々こねてたわりにグズグズじゃん。お前の中うねって離さねぇけど、本当にやめていいわけ?」
「も、いっ、ひぃぃっ…… !あたま、おかしくっ……んんっ、ぁあっ、だめ、おねがっ……ゅーことっ、きくからぁ、ゃめっ……ふぁあっ……」
「誰の言うこと聞くって?」
「ふじさき、あやとぉっ」
「何でフルネーム」と笑われる。小馬鹿にした笑いも気にならない程にとろけた頭で、「綾人でいいよ」というその言葉を繰り返す。
「あやとっ、」
「俺が何?」
「あやとの、いうこときくからぁっ」
自分が何を言っているのか理解する間もなく、快楽に全身を包み込まれた。腰を打ち付けながら、小さく笑い声をあげる理由を考えることなどできずに、再び奥を突かれて甘い声を上げた。
「最後にもう1回イっとけよ」
何かを言われた気がするが、それを聞き分ける前に、神経や焼ききれるような快感に襲われ、視界が白と黒の交互に染まる。全身を覆いつくすような大きな波が迫りくるのが分かって、必死に腰を逃がした。しかし胎内に収まったものが、その腰を追いかけ、しこりを捏ねながら奥へと分け入る。
「んぁぁあああっ……!」
足先から頭に向かって電撃が走り、背中が浮き上がる。膝をガクガクと震わせながら腰が跳ねると、性器から精液が飛び散り、服を汚した。やがて脱力した身体がベッドに沈み込む。
ぼやけた視界の中でこちらを見下ろす藤咲綾人を捉え、心の中でこの絶倫が、と罵った。
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