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黒屋敷とあまいスコーン③

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紅茶を無事淹れ終わると(結局私が淹れた)
黒崎さんは高そうな洋菓子店の箱から、スコーンを2つ出して、お皿にのっけてくれた。


甘い、いい香りが部屋に漂う。


「いただきます!」


私のテンションの上がりっぷりが可笑しいのか、黒崎さんさまたクスクスと笑った。


スコーンは初めて見るけど、
手のひらサイズのパン菓子で、生地の中にレーズンが入っていた。


ひとくち食べ、
口当たりの良いアッサムのミルクティーを飲み、またひとくち食べると、甘さが口から逃げなくていつまででも食べれそうに美味しい!


備え付けのバターをフォークにのせ、少しつけるとこれまたおいしい!


甘さにうっとりしていると、「君は本当に子犬みたいだな」と黒崎さんに笑われた。



黒崎さんはバターを指で舐めとる仕草も、様になるほど品のある食べ方をしていた。










「黒崎さん、ご馳走さまでした!
私そろそろおいとまします!」


「ああ、。帰ったらあのおっちょこちょいな宅配員に私とのお茶会を存分に自慢してやると良いさ、結子君。」


(おっちょこちょいは人のこと言えないですよ…)



私は黒いテーブルを眺め、ついポツリと呟いた。

「あの ずっと気になってたんですけど【黒】、好きなんですか?」


カーペット、家具…

そしてこのお屋敷自体、全てが黒色で統一されている。
唯一白いのは壁ぐらい。ずっと奇妙に思っていた。




「そうだよ。
黒は何色にも染まらない唯一の色だからね。
私の仕事は物書きでね。

自己を表現するのに、
他人に染まっていては駄目なんだよ。

だからこんな田舎の山奥にいるのさ。
まるで魔女みたいに。
私は黒のような作品が書きたいからね。」



「へぇ…なんか凄いですね。」

ー他人に染まっていては…

「…………あ!
じゃあ私邪魔でしたよね!すいません!」


ここに最初に来たときより深く、私はまた頭を垂れる稲穂のポーズをとる。

私は黒崎さんの仕事のポリシーの邪魔をしてしまったかもしれない。  


だって私、黒くないし!
青いジャージきてるし!



「いや………君は……。」

黒崎さんは何か考える姿勢をとった。
そしてこちらを、けろっとした、吹っ切れた表情でみてこう言った。








「君はいいよ。

犬みたいでかわいいから。」



犬……。

黒崎さん、やけに私を犬扱いしてこない!!?
こんな美人に犬扱い……嬉しいような、悲しいような…。

いや、ちょっと嬉しいと思ってしまった。
これはいかん。




「またおいで、わんちゃん」

「わ、私わんこじゃないですから!
頭撫でるのやめてください!!」



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