異世界でスポーツ科学の達人〜パフォーマンス向上と怪我予防の冒険者ギルド日記

あさあき

文字の大きさ
上 下
35 / 51
遠くへジャンプ!新人冒険者の薬草採取

速さは地面にかけた力の積分だ

しおりを挟む
ジャンプで飛び越えないと先に進めない箇所の下見を終えた一行は、ギルド地下訓練場に戻ってきた。

「これから、ジャンプ力を上げるためのトレーニングを行おうと思うが、その前に、これからやることの背景を説明する」
「何で、そういうトレーニングをするのかを理解したうえで、しっかりとやっていこう!」

「まず、最初に、今回のタスクを振り返ろう」
「川をジャンプして飛び越えて、反対側の崖の上に移りたいということだが、助走距離が限られていることや、助走を行う場所が若干登り坂になっていること、飛び移りたい側が飛ぶ側よりも少し高い、といった要素がある」

「さて、それを踏まえて、遠くへジャンプするというのは、物理的にどういうことかを考えよう」
「まず大前提として、ジャンプした後に空中では加速ができない」
「さらに、ジャンプした後の重心は放物線を描く」
「この2点が大事だ」

「ジャンプ中に手足を動かすと、少しでも遠くに飛べるような印象があるかも知れないが、それによって変わるのは手足や身体のパーツの位置だけで、それによって重心が加速するわけではない」
「重心に着目すると、重心は放物線を描くんだ。手足を動かすと、身体に対して重心の位置は変わるかも知れないが、重心そのものは放物線に沿って移動するわけだ。」

「そして、ジャンプしているときの対空時間は、地面から離れる瞬間の加速に依存する。」
「ジャンプのときの鉛直方向への速度は、地面から離れて最高到達点までは重力加速度に応じて減速していき、最高到達点で速度が0になり、そこから地面の方向に向かって重力加速度に応じて加速していく」
「その時間が対空時間だ」

徐々に早口になっていく。

「そして、横方向への移動は、地面から最初に離れたときの速度に対して滞空時間を掛け算した値だ」

「そこからわかることは、遠くにジャンプするためには、長い対空時間と地面からの踏み切りを行った瞬間の水平方向への速度が大事だということだ」
「鉛直成分、および水平成分の、それぞれに対して十分な速度が求められるわけだ」

「水平成分の速度は、すなわち助走でのスピードだ」
「2016年の論文[Bridgett2016]では、助走のスピードが速ければ速いほど、遠くへジャンプすることにとって有利であることが確認されている」
「現場を見てきたが、今回は限られた距離しか助走ができない」

「では、速度をどのように出すかだが、出せる速度は、どれぐらいの力を地面にかけたのかによって変わる」
「ニュートン力学にある、ニュートンの質点に関する運動の法則の、第3法則、作用反作用の法則というものがある。
「それは、物体に対して力が加えられたときを"作用"とし、その作用に対して反対向きに同じ値の力、すなわち反作用が発生するという法則だ!」
「地面に対して身体が重力で引っ張られることによって発生する作用に対しても、反作用が発生するわけだ」
「地面に対して、大きな作用を発生させたとき、それに対する反作用も同時に発生するが、体重が変わらないのであれば、その力は速度を発生させることで同じ力の値として釣り合う」

「速さはそれまでの加速度の積分で、加速度は地面にかけた力によるものなので、速さは地面にかけた力の積分だ」
「ということで、地面に対して大きな作用を発生させることが、速い速度を生み出すわけだ!」

「地面に対して大きな力をかけるためには、筋力が大きな要素になってくる」
「大きな力を出せるだけの筋力がなければ、大きな力は出せない。そこで、大きな力を出す能力を効率良くあげる方法、すなわち、効率的なトレーニング内容とトレーニング量が大事になってくる。」

「ただし、ジャンプするときには地面に接地している時間は非常に短いので、その短い時間でどれだけ大きな力をかけられるのかが鍵となる」
「力があることと、それを短い時間で発揮できることは、それぞれ別の話なんだ」

説明が意味不明で宇宙猫状態のエリカが、ボソッとぼやいた。

「今日は、いつも以上に難しくて意味不明ですね。。。」

フジカルは、かまわず続けた。

「とにかく、力があることが大事なんだ。ただ、力があることと、それを短い時間で発揮できることは、それぞれ別の話なんだ」

「そこで、RFDを把握するという方法を使うわけだ!」

「RFDって何だ?」、パタヘネが質問する。

「RFDはRate of Force Developmentの略で、力の立ち上がり率、筋力発揮率と表現されたりもするぞ」
「瞬発的な筋力発揮の指標として使われている」
「ある時間で、力がどれだけ発揮されたのかを示しているんだ」

「このRFDの計測方法だが、このフォースプレートを使う。」

そう言ってフジカルはチート能力を使って地下訓練場の床に何やら装置を作り出した。


======
参考文献
======

[Bridgett2016]
Bridgett, L. A., Galloway, M., & Linthorne, N. P. (2016). The effect of run-up speed on long jump performance. In ISBS-Conference Proceedings Archive.

RFDに関しては、2020年に発表されたNSCAによる論文が日本語に翻訳されていて読みやすいのでお勧めです。

Taber, C., Bellon, C., Abbott, H., & Bingham, G. E. (2020). 筋パワーを最大化するための最大筋力と力の立ち上がり速度の役割. Strength & conditioning journal: 日本ストレングス & コンディショニング協会機関誌, 27(2), 42-48.

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

処理中です...