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第5章
しおりを挟む集会所には、沢山の妖怪たちであふれていた。化け狸から、旨い金儲けがあると聞いて、あっちの山、こっちの河原、そっちの長屋から集まってきた妖怪たちだった。
特に人間にまぎれて暮らす妖怪は人間のように贅沢な暮らしを夢見ていたので、化け狸の誘いに喜び勇んで参加したのだった。
もったいぶった様子で化け狸が壇上に上がった。
「えー、あー、本日はお日柄もよく、皆さま遠くからお集まりいただき、ありがとうございます。」
「いよっ!狸」
化け狸はちょっとだけ、ムッとしたが今は笑顔が肝心とにこにこと笑って見せた。
「この化け狸、妖怪になって、200年以上になりますが、今回のような『人間の権利』をいただけるという、美味しい…いえ、素晴らしいお話をいただきしごく感謝しています。一概に『人間の権利』といいましてもいろいろあります。それはおいおい説明するとして、今は、人間になるとどれだけ、我々に特になるかという話をさせていただきます。
まず、人間になると、我々が稼いだお金を、銀行に預けることができます。銀行に預けると銀行では、利息というのをくれます。例えば、1万円預けると、4円もらえます。たった4円と思うなよ。それが積み重なると、どれだけの儲けになることか…」
たぬきは自分の金ツボがお金であふれるところを想像して、おもわず目じりが下がった。
「おい、化け狸、よだれがでてんぞ」と野次られてしまった。
化け狸は手の甲でよだれを拭きながら、
「いや、いや、失礼」と笑ってみせた。
「人間になると、銀行預金だけでなく、株をかったり、土地を買って、売って、その差額が儲けになって、うはははは…おっと、まあ、いろいろな金儲けができる。人間をみてみなさい。そうやって、稼いだお金で、テレビや冷蔵庫、高級な車に乗っているじゃないですか。我々妖怪にもそういう生活ができるチャンスがめぐってきたんです!みなさん…」
と延々と化け狸の演説は続き、どれだけ人間になれば特をするかという話題で盛り上がっていった。
すっかり夜が更け、皆が疲れ、思考力がおぼろになってきた頃を見計らって、ぼそっと化け狸が言った。
「人間になって、もう一つ得なことがある。それは選挙権が得られる。選挙権が得られれば、俺達も政治家になってもっと金儲け…いや、妖怪にとって住みよい国をつくることができる。どうだ!みんな人間になりたいかっ!」
「おーーーー!!」
「人間になるかーーーーー!!」
「おーーーー!!」
「人間になるぞーーーーー!!」
「おーーーー!!」
長い時間化け狸の話を聞いて、まるで催眠術にかかったようになっていた妖怪達がいっせいに賛同して叫んでいた。化け狸はしめしめと心の奥底でほくそえんでいた。
「まってっ!」
盛り上がりに水を差すような、甲高い声が聞こえた。
みるとネコ女だった。
「今だって、すみやすいよ。人間は妖怪に優しいし、仲良くやってる。別にテレビや高級な車も要らない。海外旅行にいかなくったて、別に困らない。」
「そうそう。私もネコ女に賛成。今のままでも全然不自由を感じないよ。」
「子供達だって元気に育ってるし、人間の世界で生きるほど自分をもてあましてもないし、欲深くもないよ。」
「そうだ。化け狸、お前、ただ金儲けしたいだけなんだろっ」とヤナギの夫婦も言った。「なんだと、お前らは俺達が金儲けできなくてもいいって言いたいのか?自分達が金儲けできないと思ってそんなこと言ってんだ」
「そうだそうだ」
あっという間に、会場は賛成派と反対派で怒鳴りあいになったが、賛成派多数で、反対派はいつのまにか会場から追い立てられてしまった。大半の妖怪が賛成派でそのほとんどが化け狸のように、商売をして金儲けをしたいと思っている輩ばかりだった。
化け狸はしめしめと思った。人間になって、金儲けをして、そして将来は政治家になる。そのためには、大勢の妖怪の賛成が必要だったが、今、ざっと賛成派を見たところ妖怪の三分の二は集まっていた。ヌウがいなくても賛成派がこれだけ集まった。なんとかなると化け狸は算段した。念には念を入れるためにも、ヌウを味方にしたいと思っていた。
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