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 城から帰ってきた私は一週間引きこもりになった。誰かと会うメンタルを作るためにそれほどの時間が必要だった。
 本当はもっと必要だったのだけど、一週目の今日にユージンが来て強制的に部屋から出る羽目になった。

「アスティ、久しぶりだね」
「一週間前に会ってます……」

 初めてだったのに、容赦なしに奪われて、その次の日も嫌がる私を押し倒したことは忘れない。
 ……結局最後は私も気持ち良くなっちゃったけど。
 媚薬がないはずのユージンも鬼畜なんだもの。信じられない。もう無理だって言ってるのに、気絶するまでイかせれた。新天地に行くかと思った。
 その上、ユージンは止まらないし。あれ、絶倫って言うんじゃないの? 朝方まで貪られたわよ? そのくせ本人はケロリとしながら仕事行く。体力おばけなの?
 目の前でにっこりと微笑むユージンの顔はとても好きなのでもっと欲しいけど、他はいらない。

「うん。でも、私は毎日でもアスティに会いたいよ」
「っ、うぅ……」

 隠そうともしない好意に言葉が詰まる。
 だって顔は好みなの。イケメンにそんなこと言われたらポーッとなるでしょう。誰だって。
 まさかあの媚薬に惚れ薬効果もあったんじゃないでしょうね、と思うくらいには甘すぎる。
 だけど、私を気になり始めたのは夜会のときで、好きだと気づいたのはあのバカに迫られたときっていうし。それならそのときにそう言いなさいよ、って感じよね。
 私を抱いて味をしめたからって、甘い言葉で懐柔する気?
 私はそんなに甘い女じゃないわ。もう抱かれない。もしも次ヤるとしたら、今度こそユージンをあんあん言わせてやる。
 負けず嫌いなの、私。だからこそ、こんなところで負けてられないのよ。

「わ、わたくしもユージンに会いたかったわ」
「それは嬉しいな。なによりも愛しいアスティに会いたいと言われてとても嬉しい。本当に毎日会いたいね」
「ぅ、」
「早く結婚してアスティの小鳥のような囀りで目を覚まして、気持ちよく起きたいな。一番最初に目に入るのがアスティだと一日がとても気持ちよく過ごせそう。夜寝るときもアスティを抱き締めて寝られれば最高だよね。毎日がアスティで染まれば幸せな人生になるよ」
「ぐぅ……」

 自分の語彙力のなさを痛感する。ユージンのようにこんなにポンポン言葉なんて出てこない。
 というか。結婚したらまさか部屋は別でしょ? だって皇帝と皇妃の部屋は隣同士とはいえ別れてるもの。まさか。まさかねぇ……?

「ゆ、ユージンはなにしに来たの? なにか用事かしら?」
「アスティに会いに来たんだよ。今日は久しぶりに仕事がないからアスティとお茶でもしようと思って」

 そんなの聞いてない!

「いきなり来られても準備ができてないわ」
「ローレル家には手紙を出してあったよ。本当はすぐにでも来ようと思ってたんだけどね。ローレル夫人に今日にしてくれと言われたから」

 おーかーあーさーまー?
 お母様なら言いかねない。だってスパルタだもの。それに私とユージンの婚約が決まって、一番喜んでくれたのはお母様だ。
 元婚約者平凡顔と婚約破棄したじゃない? あの時のお母様の怒りようは本当に怖かったもの。
「もうアスティが結婚できないかもしれない!」って。失礼よね。お母様ってナチュラルに毒舌だわ。お父様とお母様の顔のいいところを集めたような私よ? その私が結婚できないっておかしくない? ちゃんと性格は猫を被って隠すし。
 全く失礼しちゃうわ。私の顔だけでも結婚する価値は大いにあるのに。

「皇太子殿下、我が家にようこそ」
「お母様」
「アスティ、庭に準備がしてあるわ。いってらっしゃい」

 いやーん。お母様のいじわるー!

 私の家の庭はかわいらしいミニチュアガーデン。
 私が設計してピーターに作らせた。私の秘密兵器たちはみんな優秀なのよ、ふふん。特にピーターはガタイのいい身体をして、DIYや小物を作るのが得意だ。
 ここでお茶をするのはとても好き。お母様も気に入ってる。

「アスティ? ほら、あーん」
「自分で食べさせて……」
「私の癒しの時間を奪わないでほしいな。ほら、口を開けて?」

 うぐぐ。どうしてこうなるの。
 そもそもお茶会って向かい合わせで座って食べるものじゃないかしら。どうして私を膝に座らせてるのかわからない。
 致した翌日もされたけど、今は違うのよ。だって周りに人がいるもの。マーズもユージンの護衛もいるもの。恥ずかしくてたまらないじゃないっ。
 近くにいるマーズと目が合う。
 あ、あの目は「お嬢様かわいい」って思ってる目ね。うっとりしてる。マーズのそんなおバカなところ、嫌いじゃないわ。好きよ。
 そういえば今日は側近のバカとヨン様はいないのね。くっ。せめてあの二人なら、ユージンの幼馴染だし、この暴挙を止めることができたかもしれないのに。
 肝心なときに役に立たないわ。

「せめて、人のいるところではやめてっ!」
「それは、人前じゃなければいいってことかな?」
「どこでもよ!」
「でもそれは私にはなんの得もないよ」

 ……まあ、確かに。
 いえ、でも待って。ちょっと私の頭は正常じゃなかったわ。だってそもそもユージンに得をあげるために動いてるわけじゃないもの。

「それなら私を膝に乗せて食べさせる行為にも得はないわ」
「あるよ? アスティのかわいい表情が見れる。私のせいで照れるアスティはすごくいやらしくて、すごくかわいい。私のことで頭いっぱいにしてるアスティを一番近くで見れてとってもお得だよ」
「いやらしっ、……な、なにを考えてるのよ!」
「アスティのこと。アスティを不安にさせたみたいだから、これからはちゃんと言葉と態度で示そうと思って」

 ユージンはそう言いながら、固まる私のこめかみにキスを落とす。
 まずい。これはなんとかしないとまずいわ。男女の距離が近すぎる。確かに美男美女の私たちなら、とっても絵になるだろうけど、ダメよ。これはダメ。
 だって、さっきからもうバクバクと心臓が鳴ってもたないもの。こんなに心臓が鳴ってたら死んじゃうわ。
 ユージンって、見た目はなよなよしいくせに、意外としっかりしてるの。私を抱き締める腕も筋肉がついてて、私をお姫様抱っこしたのはユージン自身に筋肉があったからということがよくわかった。手だって大きくてゴツゴツしてて、男の人の手って感じで……。
 女らしい顔をしてるくせに、とっても男らしいんだもの。意外なギャップ過ぎるわ。どこまで私のツボを押さえてるのよ。性格だって、突然変わっちゃうし……。なんなの? 私はどうすればいいの?

「わ、わかったから、おねがい。人前はやめてちょうだい」
「そうだね。アスティに嫌われたくないから、また二人っきりになったときにする」

 腰に回っていた腕が離れて身体が自由になる。急いで向かい側の自分の席に座った。
 これで落ち着いた。心臓もどんどん落ち着いてる。よし、私は死なない。
 二人っきりになったらする? なら、二人っきりにならなければいいのよ。余裕だわ。

「紅茶が美味しいね」
「ええ。わたくしのメイドが入れたものだもの。当たり前だわ」

 私のマーズが褒められて鼻が高い。
 マーズは魔法はできないけど、メイドとしての腕は超一流だわ。教えたキュリーよりもメイドとしての腕は確か。
 キュリーはほとんど他の家の諜報してるし、それに魔法も使えるから、それの修行も一生懸命なのよね。治癒魔法ができるのはキュリー。
 私の秘密兵器たちはみんないい子でできる子たちなのよ。
 幼い頃の私の目は確かだったわ。私、偉い。
 はっ! 一応釘を刺しておかないと。

「わたくしのメイドがいくらかわいくて優秀だからって、手を出したら許さないんだから」

 私以外の人間にユージンが目移りしたら大変だわ。
 ほら、よくあるじゃない。正妃のメイドに手を出しちゃう王の話。
 別に私の知らない女ならいいの。興味ないもの。でもマーズたちは許さないわ。私が手塩をかけて育てた子たち。美しくてかわいいから手を出したくなるのもわかるけど、不幸になるのはマーズたち。私のかわいい子を不幸にはさせない。
 側室なんて、正妃との間に確執を生んで不幸になるだけよ。作るのは勝手だけど、不幸にする相手に私のものを選ぶのは絶対絶対許さない。
 ああ、でも側室になる人間によっては幸せなのかしら。正妃を蹴り落としてやるって。
 そんな簡単に蹴り落とされてあげるつもりはないわ。
 あら、そういえば側室が出来て、精神的にダメになったら引きこもり生活ができるわね。
 ユージンが私以外の女に目移りするのはとても腹が立つけど、ありといえばありかしら……。

「……やっぱりダメ。ユージンはわたくしのよ」

 考えたらとても嫌な気分になった。
 やっぱり側室も愛妃もなしね。子どもも私が産むから、他の女に頼るのはなし。

「何を考えたのかわからないけど、私はアスティのものだから安心して? アスティ以外の女は抱かないし、目移りもしないから。不安にならないでね」
「別に不安になったわけじゃないわ」

 そう。不安になったわけじゃない。
 だって、ユージンはもう私のものだもの。私の性格が悪くても、ちゃんと最後まで付き合ってもらう。

「また不安になって、私のベッドの中に潜り込むのは大歓迎だけどね」
「ぁう、あうぅ……」

 あらためて言われると、なんてはしたないことをしたの。もう嫌。恥ずかしい。
 忘れたいぃ……。
 もう絶対あんなことしないわ。
 あの夜のことはなしよ、なし。

「とにかく、今は楽しいお茶会をするの。変なことは言わないで」
「いやらしくて綺麗でかわいかったよ?」
「言わないでっ!」

 もういっぱいいっぱいだから、勘弁して!
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