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 私のプライドはズタボロよ。
 というか、なんなの。誰なのよ。私の子犬ユージンはどこに行ったの!
 脱童貞したら、こんな急激な変化になっちゃうの? 初めての女は特別、みたいな?
 もうどうしたらいいのかわからない。引きこもりたい。お家帰りたい。ゴロゴロしたいー。リンに相談したい。オネエだもの。無機物がタイプのオネエでも恋愛相談はきっと得意よ。

「わ、わたくしぃ……」
「メスの匂いがするね」
「メスとかいわないぃぃ…….」

 せめて女って言いなさいよ。信じらんない。

「まさか、わたくしの前で猫をかぶってたの?」
「ねこ? どうしてそれを被るの? あ、飼いたいのかな?」
「そうじゃないわっ! だって、ユージン、あなた、ドルテラ様にしか興味がなかったじゃないっ!」

 それなのに、なによこの状況。どういうことなのよ。

「ねぇ、アスティ、婚約してから半年は経ってるよね」
「え? えぇ。もうそれくらいにはなるわね」
「その間に私が心変わりするとは思わなかったの?」

 心変わり……?
 ぱちくりと瞬きする。

「つまり、私が好きなの?」
「アスティを愛してるよ」

 ……つまり、寝取り成功? というか、私の魅力の勝利?
 でもこれって寝取りなの? でも、ドルテラから私のものにしたんだから寝取りよね。身体を使ったものね。命がけだったものね……。

「ふ、ふふふんっ」

 これで私が皇妃。絶対絶対ユージンはもう渡さないわ。私の処女を奪った責任はちゃんと取ってもらうんだ。
 でも、ずっと好きだったのにそんなに早く心変わりするものなのかしら。やっぱり私の身体が目当て? それでもいいけど。ユージンがわたしのものになるならなんでもいいわ。

「安心した?」
「ええ。これで婚約破棄はされないわよね……?」
「もちろん。それにアスティは私以外の男と子作りもできないしね」
「……ん?」

 なんの話かしら。こてんと首をかしげる。
 あら、かわいい笑顔。だけど、なんだか怖い気がするわ。本当に子犬のユージンはどこに行ったの?
 婚約破棄はしたくないけど、なんだか逃げ出したくなる笑顔だわ。
 でも、そのギャップ萌えに私の心臓がキュンキュンしてる。ただのなよなよ系よりもこっちのほうがよっぽど……。と思うけど、やっぱり結婚するなら前のユージンのほうがよかった気がする……。だって、なんか怖いもの。

「子種に魔力を混ぜてアスティの子宮に射精したときに、私以外の男のモノを受け付けないように固定したんだ」
「……それって、まほう?」
「私が作ったオリジナル。解除方法はないから私以外の人間とは一緒になれないね」

 ……この人、ドルテラを寝取られたこと根に持ってたんだ。私の前で全然気にしない素ぶりをしてたけど、本当はすごくすごく気にしてたんだ。
 だって、そうじゃなければそんな魔法を作ろうとは思わない。
 思わずひくりと笑顔が引きつる。
 別にいいけど。他の男と寝る気なんてないもの。問題ないわ。

「本当は他の男に触れられないようにしようか迷ったんだけど、そうしたら皇太子妃になったときに大変かなと思って」
「それは……大変ね」

 慰問をするときなんかは男女関係なく子供に触れるだろうし。ユージンの理性に感謝ね。ホッとしたわ。
 秘密兵器たちのことを撫でられなかったら泣いちゃうわ。秘密兵器たちが。

「本当は昨夜やるつもりはなかったんだよ? それなのにアスティはかわいらしく私を誘ってくるんだもの。何故か身体が火照っておかしかったから、理性が効かなくて、アスティに無理をさせちゃったし……。あまり慣らさなかったから痛かったでしょ? 今度からはもっとアスティにも気持ち良くなってもらえるように頑張るね」
「ひっ! い、いえ! 充分気持ちよかったわ! というか絶対初めてじゃないでしょ!」
「初めてだよ? 知識だけはあったから頑張りました。アスティが気持ちよかったならよかった。今度はもっと気持ちよくしてあげるね」

 ふるふると首を振る。いらない。もっととかいらない。さすがに頭がおかしくなる。狂ったらどうするのよ。
 それにしても知識だけであんなに上手なんて信じられない。
 というか、あるの? 今度。私の予定ではないわよ。だってあくまで今回のは寝取るのが目的だったし、目的は達成されたもの。
 でも、ふふふー。ユージンは私を好きなのね。
 この絶世の美男子が私のことを好き……。なんだかとってもいい気分だわ。私は美しいから当たり前だけどね。だってドルテラより美しいもの。かわいいもの。

「アスティは気にしないの?」
「なにを?」
「勝手に他の男に抱かれないようにしたこと」

 なにを今さら。

「気にしないわ。だってわたくしはユージンのものだし、ユージンはわたくしのものってことでしょう? 他の男に身体を許す予定もないもの。問題ないわ」

 独占欲って少し心地いいわよね。嫌いじゃないわ。
 胸を張ってそう答える。それに夜這いを仕掛けたの私だし、ちょっと反省。やっぱり媚薬効果はあったのね。
 理性が効いてなかったから、あんな鬼畜仕様だったのよ、きっと。つまり普段のユージンならわんわん子犬ってこと。とりあえずメスの匂いとか言うのはやめさせよう。自分がとてもはしたない人間になった気がするもの。

「……アスティ、今夜もしよっか」
「はい?」

 今、幻聴が聞こえた気がするの。嘘だって言って。

「かわいいアスティが私の前でとろとろに蕩ける顔がまた見たい。泣きながら欲しがるアスティもとてもかわいかった。アスティは私を誘う淫乱な女だね」
「な、な、な、」
「ほら。今もアスティにかわいいって言ったり、腰に手を添えてるだけで、メスの匂いがここまで漂ってくる。これだけで蜜を溢れさせるなんて、淫乱でかわいいよ」

 これ、天然なの? 天然でこんな毒を吐いてるの?
 淫乱って褒め言葉じゃないのよ? 嬉しくないのよ?

「ひぅっ!」
「ああ、ほら。触れただけなのに、私の指にべっとりとアスティの蜜がついちゃった」

 ユージンはただ触れただけ。それなのに、私に見せつけるように差し出されたその指は確かにキラキラとテカってる。
 羞恥で顔が熱くなる。恥ずかしくてどこを見ていいかわからなくて視線を彷徨わせると、ユージンに顎を掴まれ、ジッと見つめられた。

「昨日はこの小さい口で私のを頬張って、この赤い舌でぺろぺろと舐めて、かわいく喉を鳴らして子種を飲み込んだんだよね」
「んっ」

 親指で唇をなぞられて、指が半開きになった隙間から侵入して舌を爪で引っ掻く。そして他の指が喉を覆った。
 目を細めて私を見つめるユージンに心臓がドクドクと早鐘を打つ。
 せ、セクシー過ぎる……。色気が溢れまくってる。
 この私よりも色気があるんじゃないの? 乙女として悔しいわ……。

「そういえばどうしてキスを諦めたの? アスティからして欲しかったのに」

 今それを聞くの? というか、昨日はそんな素ぶり全然見せなかったわよね?
 この人、どれだけ自分を隠すのが上手いの……。全然裏があるようには見えなかったのに。さすが次期皇帝。見たままじゃないってことね。
 別に泣き虫なユージンも好きだったのに。かわいくて。

「アスティ、聞いてる?」
「……聞いてる。言わないわ」

 だって、目を閉じてくれなかったからとかなんか恥ずかしいじゃない。目を合わせままのキスは恥ずかしいの。
 ユージンにされたときは突然で目を閉じる暇なんてなかったから不問にするわ。

「じゃあ、アスティは気持ち良くなったら素直になるから気持ち良くなろっか」
「は、恥ずかしかっただけなのっ! あのとき、目を閉じてくれなかったからっ!」

 鬼かっ!

「アスティって最初の頃よりだいぶ私に遠慮がなくなったけど、うん。そっちのほうが私は好き。控えめだったアスティももちろんかわいいけどね。自分に素直なアスティはかわいらしくて愛しいよ」
「は、ぅ、そ、それより避妊薬がほしいわ。もう食事はいいから避妊薬をくださいませ」
「顔も耳も真っ赤だね」

 こしょこしょと耳を擦られてびくりと跳ねる。
 もうやだぁー。子犬ユージンくださいぃー。恥ずかしいからぁー。直球すぎるの。甘過ぎるの。顔がすごくタイプなんだってばぁ。それに合わせて今日はギャップ萌えもしてキュンキュンしてるからダメなの。

「避妊薬は錠剤で、身体に影響はないからそのまま水と一緒に飲んで」
「わっ、魔法……!」

 ユージンのポケットから取り出された錠剤を受け取ると、ユージンが魔法で水の球を出す。
 すごい、魔法すごいわ! こんなに近くで見ちゃった。やっぱり綺麗ね。
 どうして私は魔力があるのに魔法は使えないのかしら。転生といったら魔法が醍醐味なのに。
 薬を口に含んでから、水の球をちゅうっと吸って薬と一緒に飲み込む。
 水の味は普通ね。まずくもなく、美味しくもなく。

「じゃあ今夜も頑張ろうね」
「あっ、お、お腹の奥とか、入り口とか、まだ痛いから、」
「そっか。じゃあ治癒魔法だ」

 うそうそ、まってまって。

「ひっ、ゃ、ぁ~~~~~~ッ!」

 ちーん。
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