何度繰り返しても愛してる

りんごちゃん

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夢の中で逢いたい

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 泣き腫らした次の日の朝は頭が痛い。
 けれど彼に抱かれていないせいか、身体はいつもよりもすっきりとした気分だった。
 この屋敷に来てから彼に抱かれないのは初めてだ。

 頭の痛みを我慢するようにベッドの上で横になって目を閉じる。ウトウトとしてきたところでカチャと扉が開く音がして誰かが入って来た。
 ……あの、侍女かしら。そしたら今は何時なのだろう。
 そんなことを考えてると、部屋に入って来た人物がベッドへと近付いてくる気配。
 そしてその人がすぐ近くまで来たと思ったら、髪を撫でられる。ふんわりと香るあの人の匂い。その人物は前髪をかき上げながら額を晒すと、そこにチュッとキスをした。

 ゆめ、かな。目を開けたら終わってしまいそうで、私は必死で目を閉じる。
 終わらないで。行かないで。

 好きなの。愛してるの。

 ──もう、いきたくない。



 ハッとして目覚めると、そこはいつもの部屋だった。
 隣に彼のぬくもりはなくて、初老の侍女が扉の近くに立っている。
 私と目が合うと「おはようございます、奥様」と変わらない挨拶を言われた。
 頭の痛みはいつの間にか消えていた。どこかすっきりとした気分の目覚め。

 割り切ってしまえばいいと思う。
 なんにも考えずに、ただ人形のように。でも、割り切れない。彼が好きだから。

 ふと、外が普段より騒がしいことに気がついた。

「今日は、少し外が騒がしいわ」
「もうすぐ祭りがあるからでしょう。隣国からも使者がやってきて視察なさるそうです」
「そうなの……」

 思い出したのは何度目かの私たち。
 彼はやっぱり他に愛する人がいて、私は我儘から自分より身分の低い彼を引き止めた悪女だった。
 それでも彼は優しくて、私を祭りに連れて行ってくれたことがあった。
 彼との祭りは楽しかった。美味しいものがたくさんあって、綺麗なものもたくさんあった。ふわふわと心が浮かぶ気がした。……その日に彼の恋人だった人に殺されたけど。
 でも、あれは私が悪い。あのときの私は彼をなんとかして振り向かせたかった。その結果があれだもの。

 それにしても、お祭り……。
 少しだけ行ってみたい。だけど、それを彼が許してくれるかわからない。
 甘い小さな星のようなお菓子。また、食べてみたかったな。ここにあるのかもわからないけど。

「彼は、……いえ、なんでもないわ。庭までなら出てもいいのよね?」
「ええ、奥様。旦那様に許可をいただいております」

 その言葉にホッとする。昨日、あんなことがあったからもう外には出してもらえないかもと思った。
 外は好き。平民の私は幼い頃に両親を亡くした。それからは両親の持っていた畑を父の祖父母と一緒に耕しながら生活をしていた。祖父母が亡くなってからは一人で。
 畑いじりをしていたのに、私の肌はあまり焼けてない。あまりに周りと違って白いから村ではあまり歓迎されてなかったように思う。
 母はその村の出身ではなくて、どこかの異国の人らしかったけれど、詳しいことは知らない。知る前に両親は無くなったし、祖父母はそのことを知らなかったようだから。薄っすらと、母が貴族の令嬢だったかなと予測はしたけど、それは私には関係のないこと。だって今の私は平民で、彼に囲われているのだから。

「なら、今日もあの温室に行きたいの。そこで刺繍をすることはできる?」
「はい、奥様。かしこまりました」
「あり……いいえ、なんでもないわ」

 ありがとう、と言葉をかけそうになって、静かに首を振る。
 その言葉は貴族としてはふさわしくない。過程はどうあれ、理由はどうあれ、彼にお世話になってる間はそれに倣った態度を示さなければいけない。
 彼に、迷惑をかけたくない。

 一礼した侍女を見送って、一人の部屋で小さく息を吐く。

 息苦しい。そのうち本当に息が出来なくなりそう。
 むにっ、と自分の頬を掴む。むにむにと表情を動かすように。
 そうでもしないと表情を忘れてしまいそう。

 愛してほしい。抱いてほしい。あなたが欲しい。
 今世で叶ったそれらの願い。ずっとずっと願ってきたことだったのに、今ではその逆のことを願ってる。
 嘘でいいはずだったのに、今は真実を望んでこんなにわがままになってる。
 どうして我慢できないんだろう。
 感情と理性が別々に動いてる。
 もっと、誰かの心を想っていられるような人間ならよかったのに。
 私はただひたすらに自分のことだけ。


「奥様、準備ができました」

 しばらくぼーっとしてると、侍女の声が聞こえた。
 その言葉に微笑みを浮かべて頷き立ち上がる。
 外は好き。日差しが好き。自由な気分になるから。
 これはきっと今の私が好きなことだ。

 温室に入ると、昨日まではなかった小さなミニテーブルとソファが置いてある。
 地べたでもよかったのに。ここまでしなくても。
 ソファに腰掛けて、刺繍の道具を持ちながら小さな黄色の花を見つめる。
 この花を、彼は覚えていた。それが嬉しく思う。
 この花の思い出は私のものなのかしら。そう期待してしまう。期待なんて無駄なだけ。そう思ってるのに、心はどこか期待してしまってる。

 どう足掻いても、彼を嫌いになれない。
 もしも呪いがあるならこれこそ呪いだと思う。
 少し強くなぞっただけで花びらは剥がれ落ちた。
 か弱い花。その弱さに項垂れる。
 その弱さはまるで私のようで。

「奥様、体調でも悪いのですか?」
「──いえ、違う。違うの、よ」

 どこからが間違いだったんだろう。
 逃げ出すことも叶わず、彼も自由にもできない。
 吐き気がする。目眩がする。頭が痛い。
 まるで世界が揺れてるような──……

 ガッシャーン!

「奥様!? 奥様! 誰かッ誰か来て!」

 揺れる視界の中でたくさんの私と彼が泣いてた。



 最初の彼はフィニ。その次の彼はアラン。次の彼はテオドール。次の彼がシャロン。次がアルフレッド。その次、その次、その次、その次が────。
 彼のすべての名前を憶えてる。
 好きで好きでたまらない私の愛しい人たち。

「彼はね、優しいの」
「それからちょっぴり泣き虫ね」
「普段は無表情なのにー」
「笑うとえくぼができて幼くなる!」

 夢の中で行われる私たちの愛の囁き。
 私たちの会話はいつだって彼らの魅力で溢れてる。
 私はそれを聴きながら、頭の中に私の彼を思い描く。
 私の彼は強くて、優しくて、強引で、泣き虫で、嘘つきで。
 あ、はじめての彼だ。新しい彼をひとりじめ。嬉しい。

「私も愛してるって嘘でもいいから言われたーい」
「泣いてたら慰めてあげるのに!」
「泣き虫なら甘やかしてあげたいな」
「彼はいつも甘やかしてくれるよ?」
「それは妹みたいによ。恋人になりたい」
「家族になりたい」
「彼との子どもが欲しい」

『彼に愛されたい』

 収束する。私たちはいつだってその願いを持っていた。
 夢の中でさえ、彼らは一度も「愛してる」と言ってはくれない。
 言ったとしても、それは違う誰かに向けて。
 その「愛してる」が欲しくて、私はなんでもした。
 そう。なんでも。犯罪だってなんでも。それが彼のためになるのならなんだって。

「ふぃに、さま……」
 あなたのためなら、なんだって。

 息が苦しい。はふ、と息を吸い込んで、そのまま噎せる。

「どうした、マリア!」
「ふぃ、に、さま?」

 そう名前を呼んでしまってから、違うと頭を振る。
 この人は、違う。フィニ様じゃない。
 私の、今の私の恋しい人。
 私を支えるよう彼の手を借りて、ベッドから起き上がる。

「私……? ああ、倒れたのね」

 刺繍セットを床に落として、そのまま倒れたことを思い出す。今では吐き気も収まって、なんだか穏やかな気持ちだ。
 彼が私を抱きしめる。耳元をくすぐる彼の吐息に身をよじらせると、私を抱き締める腕にさらに力がこもった。

「心臓が止まるかと思った……」
 うそつき。

 そう思ってるのに、必死そうな彼の声に私の心臓は激しく音を立てた。簡単に乱される心臓。
 躊躇いながら、そっと彼の背に手を回す。
 過去の彼とはまた違う華奢な体躯。それでも私よりはがっしりしてる。
 こんなにも胸が痛い。あなたが好きすぎて苦しいの。
 トクトクと一定の動きを見せる彼の心臓に悲しくなる。

「医者は精神的な疲れから来るものだと言っていたが、どうだ? いまもまだ体調が良くないのか?」
「平気……です。仕事は?」
「それなら問題ない。それより君の方が心配だ」

 眉を下げて私の顔を覗き込む彼と目が合って、慌てて目をそらす。
 嘘だってわかってるのに、彼の言葉に嬉しくて頬が赤くなるのが自分でもわかった。単純な私。それでも喜びは胸の奥から溢れてくる。

 だけどそれもつかの間だった。
 バタンッとノックもなく勢いよく開けられた扉。現れた女性に、私の顔から表情が消えた。

「サーフィル様! どうしてわたくしを迎えに来ないんですの! ……あら?」

 鈴の音のような愛らしい声が部屋に響く。
 とたんに冷や水をかけられたように冷静になって、彼の身体を押し返した。

「マリエラ姫、なぜここに?」

 彼はそのまま立ち上がり、その女性へと近づく。
 行かないで、と泣きそうになる私の弱い心は必死で押し殺して、私は女性を見つめた。
 私たちよりも少し幼い女性、というよりも少女のような雰囲気のその人は、ぷくっと頬を膨らませる。

「あなたがいらっしゃらないからですわ。せっかくわたくしが隣国から来たというのに! それに結婚したと聞きました! わたくし、そんな話聞いてないですわ!」

 彼の腕へと擦り寄るように、豊満な胸を押し付ける。
 ぞわりと心臓が凍る。

 聞きたくない。聞いちゃダメ。イヤ。

「あなたはわたくしの婚約者のはずでしょう!」

 泣かないで、私。

「姫! それはあなたが勝手におっしゃっていただけですよ!」

 大きな声で彼が否定するけど、そんなわけない。わかってる。
 だって、彼は王子様だ。この国の第三王子である彼に、今まで婚約者がいないわけがなかったのだから。
 また、私は彼を不幸にしただけ。

「まだ未定だったかもしれませんが、ほとんど決まっておりましたわ。父も賛成していたもの。それを平民を娶ったですって? 信じられませんわ!」
「っ、それは……!」

 彼と目が合う。
 どんな顔をすればいいかわからなくて、視線を逸らして窓の外を見た。
 言葉を失った彼に畳み掛けるように彼女は叫ぶ。

「わたくしはあなたのこと愛してるのよ!」

 チカチカと頭の奥で助けを求める。
 これ以上ここにいたくない。もうイヤ。
 蹲って頭を抱える。聞きたくない。背負いたくない。

「マリア!」
「う、ぅー……」

 狂いたい。私って自我を無くしてしまいたい。
 なにもかも、忘れてしまえればいいのに。

「っ、マリエラ姫! とにかくここから出て行っていただきたい。他国の王女とはいえ、勝手に人の家に入ってくるのは許しがたい」

 頭が痛い。もうイヤ。
 彼の言葉に彼女がなにかをキャンキャンと叫ぶ。それに対して、また彼は怒鳴るように声を張り上げる。
 頭が痛いんだってば。

 もう、だれも話さないで。



「マリア、マリア……。すまない、けれど彼女の言った言葉は……」

 いつの間にか、彼女はいなかった。
 抱き締められて、びくりと肩を揺らす。
 もう、話さないでよ。喋りかけないで。
 私の心に入って来ないで。

「……って、」
「マリア?」
「…………ってよ」
「マリ、」

「出てっててば!!!!」

 彼の身体を押しのけて、シーツを巻き込みながらベッドの端に寄る。
 彼の顔すら見たくなくて、視線を下に向けながら私も叫ぶ。

「もうイヤなのッ! なんで、こんなことまでして復讐しなくてもいいじゃないっ。私、私たちは、あなたのことを嫌いになんてなれないんだから! そうまでして不幸にさせたい? そうまでして、復讐されなくちゃいけない私ってなに!? あなたと関わりたくなんてなかったのにっ! 遠くであなたの幸せを祈るだけで、私は満足できたのに! もう、不幸だから、一番不幸だから、殺してよぉ……」

 ボロボロと涙が次から次へと溢れてきて、白い布にシミを作る。
 好きよ、好き。あなたが世界で一番好き。
 それは絶対に変わることのない真実。
 どんな私もあなたのことが好きだった。
 私も彼が好きで好きでたまらない。
 だからこそ、もう関わりたくない。この愛が変わることがない心だってわかってる。
 でも、愛する人の心も信じられず、荒れ狂うこの心の闇をどうすればいいのかわからないから。
 過去の私が彼を傷付けたように、私は彼を傷付けたくない。
 ためらうような彼の指先が私の腕に触れる。
 私はそれを追い払った。

「触らないでッ! 出てって! もう一人にしてよ……!」
「マリア」

「おねがいだから、ひとりにして」

 しばらくして、パタンと音を立てて扉が閉まる。
 そこで私はやっと顔を上げては、と息を吐いた。

「なんで」
 なんで、彼は私を妻になんてしたの?
 わかんない。なんで? わかんないよ。
「ああ……そっか」
 婚姻は手段。私を不幸にするための、手段。
 それに気づいて、また涙が溢れてくる。
 たくさんの人生を生きてきた。
 辛いことも悲しいこともたくさん経験してきた。でも、今の人生が一番不幸だ。
 だって、これは復讐だから。
 彼の意思でもって為される二度目の復讐。あの父の娘だからという理由ではなくて、私が私だから行われる復讐。
 なんて、なんて残酷なんだろう。
 こんなに好きなのに。愛してるのに。
 だけどそれは私の都合で、彼に私の想いは関係ない。
 むしろ私が彼を愛してるからこそ、この復讐だ。
 彼が望むなら私はなんだってするのに、どうしてこんな残酷な手段を選ぶんだろう。
 最初からわかっていたことのはずなのに、とっても胸が痛いの。
 この婚姻は復讐だって、気づいてたはずなのに。

 愛してるから、愛されたかった。
 私なりに彼に尽くしていたつもりだった。
 けれどそれも彼にとってなんの意味も持たない。
 だって、どこまで行っても私は彼の復讐相手。人の心は一方通行。
 そんなこと、わかってたはずじゃない。
 復讐されることは当たり前のことで、それは甘受しなくちゃいけないこと。
 復讐されたくないなんて取れるような言葉を吐くなんて、してはいけないことだった。
 それに一時だけでも夢が見れるなら、それでいいじゃない。
 彼に愛される甘美な夢。
 そのあとに訪れるのは絶望だけれど、それは当たり前のこと。

 ごめんなさいごめんなさい。
 だから、まだ私を捨てないで。
 あなたに会えるなら何度でも復讐されてもいい。
 あなたの次の幸せになれるならなんだっていいから。
 復讐されるから、少しの間だけでも私を見て。

 目を閉じて、最初を思い出す。
 彼に本当の意味で初めて出逢った日のことを。
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