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おねえちゃん 02
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「……真紘とあいかお姉ちゃんもそっくりだね」
依ちゃんの言葉にあたしと真紘は二人で目を合わせた。
初めて言われた、そんなこと。
くすくすとかわいらしく笑ってる依ちゃんはあたしたちが驚いてることに気付いてない。
真紘とあたしは似てない姉弟だ。
異母姉弟だっていうのもあるだろうけど、あたしは母親、真紘は父親に似てて、共通してるのは美人だってことぐらい。
だから高校であたしが保健医として仕事をしていても、苗字さえ変わってしまえば誰もあたしと真紘が姉弟だなんて疑ってきたりしなかった。
少しは似ていればよかった。真紘にとって、あたしは自分を犯した義母に似た女。もしも少しでも父に似てれば、もっと姉弟としてうまく付き合っていけた。
真紘にはあまり好かれていなかった。
今でさえ、きっと姉として認められてない。それどころか家族として認められてないかもしれない。
それはあたしの罪。あたしのせいだ。
「……依ちゃん、俺と姉貴って似てるの?」
先に言葉を発したのは真紘だった。
依ちゃんの手を握りしめて、真紘は訊ねる。
あたしの手は少しだけ震えてる。情けない。
「似てるよ。そっくり。真紘もあいかお姉ちゃんも、同じ行動するんだもん。二人とも姉弟だよねぇ」
姉弟、だなんて言われたことがなかった。
父はあたしたち子供にあまり関心はなかったし、真紘のことがあってから真紘に付きっ切りだったけどあたしは無視。そもそもあたしは父にとって憎い女の娘。いくら自分の血があろうと、父があたしを好きになることはない。
真紘が引き取られてから、母は真紘を目の敵にし、そのくせ父に似ているその顔に執着した。母にとってあたしは父を引き留める道具。いや、それにすらなれなかった。
そんな母が真紘をあたしの姉弟として認めるはずがなかった。
なんだろう。少しだけ泣きそう。
「でもね、二人ともお店の中でテーブルに突っ伏すのはよくないよ。びっくりするから。それにおでこあかくなっちゃってるし」
依ちゃんはあたしたちの複雑な感情には気付かずなんだかプリプリと怒ってる。かわいい。
「……だって、姉貴。姉貴はちゃんと姉だって」
「そうね……。真紘はあたしの弟みたいよ」
姉弟、だなんて。どこかいつも歪だった。
あたしは真紘を見捨てて逃げた。真紘から姉貴だと呼ばれてもどこか自覚がなかった。
でも、ちゃんとあたしたちは姉弟でいいんだ。
姉と弟として、いていいんだ。
「あー、もー、本当依ちゃん愛してるっ!」
「ゃっ! も、あいかお姉ちゃんの前でそういうことしないでっ!」
「だって依ちゃんかわいすぎなんだもん」
依ちゃんを抱きしめる真紘の笑顔にホッとする。
依ちゃんから真紘を引き離して以来、こんな笑顔を見なかった。
いつだって無表情で、感情を動かすのは依ちゃんのことを考えてるときと、依ちゃんのAVを見てるときだけ。
ちなみに依ちゃんのAVはあたしもちょっぴり見ました。依ちゃんかわいすぎて濡れたわ。
真紘にバレたら殺されそうだから絶対言わないけど。
「というかあいかお姉ちゃんって、なに?」
「え? 先生にそう呼んでって言われたから」
「ふーん。じゃあ今度俺のことも真紘お兄ちゃんって呼んでよ」
「えっ、やだ」
「姉貴がいいのに俺はダメなの?」
「だって真紘は、えっと、か、彼氏でしょ? 彼氏にお兄ちゃんはやだ」
頬をピンクに染めながらそう言う依ちゃんは本当にかわいい。真紘が依ちゃんを抱き締めたまま、依ちゃんの肩に頭を預けて悶えてる。
わかる、わかるわ~!
まだ真紘を彼氏って呼ぶことが恥ずかしい依ちゃんはかわいい。控えめに言っても天使だと思う。
くぅ、真紘ったらずるい! あたしも依ちゃん抱き締めたい。
依ちゃんはさっきまで真紘に抱き締めるのはやめて、と言ってたはずなのに、すっかり忘れて真紘を恋人呼びした事実に悶えてる。
なるほど。依ちゃんの疑問から話を逸らして自分の都合のいい話に持っていかせる。真紘らしいやり方だと思う。
ちょっと間抜けな依ちゃんもかわいらしい。
「依ちゃん、あのことはあたしじゃなくて真紘に訊きなさいな」
「えっ!」
「きっと優しく教えてくれるわよ」
それはもう。
というか依ちゃんがあんなこと調べてたってことは、もしかしてフェラはさせてないのかしら。
……あんだけ濃厚なセックスをしといて?
どれだけ弟は依ちゃんを溺愛してるの?
弟。なんだかその言葉に恥ずかしくなる。
そっか。真紘はあたしの子供じゃない。弟なのよね。
「そうそう、依ちゃん。依ちゃんが訊きたいことは俺に聞いて。ちゃーんと教えてあげる」
赤く染まった依ちゃんの頬をツンツンと指でつつく真紘にくすりと笑う。
真紘が笑ってる。ちゃんと笑ってる。依ちゃんも恥ずかしそうに俯いてるけど、その姿は幸せそう。
二人の姿は誰がどう見ても恋人同士。
ふと、依ちゃんと目が合う。依ちゃんは照れ臭そうにふわんと微笑んだ。
「っ……!」
「えっ、えっ? 先生? どうしたんですか!? なんで泣いちゃったの?!」
「依ちゃんが……あまりにも、神々しくて……ぐすっ」
依ちゃんはあたしたち姉弟の救世主だと思う。
依ちゃんがいなければ真紘はこんな風には笑わなかっただろうし、あたしと真紘は姉弟になれなかった。
依ちゃんがいなかったら、なんて考えたくない。
今この瞬間に依ちゃんがいることを思うと、奇跡だと思う。世界って、運命って素晴らしい。
というか依ちゃんが素晴らしい。
「あのさー、姉貴。依ちゃん困らせるのやめてくんね?」
「ぐすっ、依ちゃん、ちゃんとあたしが依ちゃんのこと、幸せにするわね」
「えっ」
「いや、依ちゃんのこと幸せにするのは俺だから。依ちゃんと婚約もしたから」
「えっ?」
真紘のそれ、絶対依ちゃんに許可取ってない。
ぐすぐすと涙をハンカチで拭って、真紘と依ちゃんを見る。
真紘はあたしを睨んでるし、依ちゃんはわけがわからないとでも言うように首を傾げてあたしと真紘を交互に見てる。
「依ちゃん、今度あたしの家に遊びに来なさいな」
「えっ」
「あたしの旦那と息子紹介してあげる。ついでに父も」
「親父には顔見せするけど、義兄さんとクソガキにかわいい依ちゃんは見せない。依ちゃん誘うな」
依ちゃんを守るように、自分の腕の中に閉じ込める真紘に不満が湧き上がる。
ずるい。依ちゃんが真紘と結婚したら依ちゃんはあたしの妹になるんだし、別にいいじゃないの。
というかあたしの息子をクソガキってひどくない?
「あいかお姉ちゃん、結婚してたの?」
「あら、気づかなかった? あたし、真紘と苗字違うのよ」
「いえ、それは気付いてたんですけど……」
これでもあたしは既婚者。
旦那は女の子相手なら浮気を許してくれる。というか、そもそも結婚するつもりはなかったんだけど、旦那がどうしてもっていうから結婚した。まさか子供ができるとは思わなかったけど。
もともと旦那はあたしの元セフレ。男はタイプじゃなかったんだけど、旦那は男って感じしないのよね。女顔だし。初めて会ったときは女装してたし。
息子は幼稚園生。やんちゃ盛りで真紘とはあまり仲が良くない。まあ、どっちも子供みたいだしね。
「依ちゃんのことだからどうせ家庭の事情かなとでも思ってたんでしょ。もう、依ちゃんかわいい」
「バカにしてるよね」
「バカにしてないよ。依ちゃんかわいいってかわいがってるの~」
むすっとした依ちゃんに対して、真紘はほんと笑顔。というかにやけてるんだけど。ちょっときもい。
「まあ、義兄さんになら依ちゃん会わせてもいいけど、クソガキはダメ。絶対ダメ」
「え~、いいじゃない。依ちゃんは子ども嫌い? もうすぐ小学生なんだけど」
「子どもは好きです」
「ちなみに将来的にはなん人くらい子ども欲しいの?」
「えっ、と、……三人くらい……?」
あたしの質問に真面目に返す依ちゃんの隣で、真紘は依ちゃんのその答えに悶えてる。
ふむ、三人ね。ちょうどいいわよね。あたしもあと一人くらいは欲しいのよねえ。
……あ、待って。もしもあたしが依ちゃんと同じ時期に子どもできたら、依ちゃんの子どもとあたしの子どもが結婚する可能性も……? 確か従兄弟同士なら結婚できたわよね。
やだ、素敵じゃない! さっそく旦那と相談しよう!
「依ちゃん、俺頑張って依ちゃんのこと孕ませるからね!」
「こ、こんなところで変なこと言わないでっ! ばか!」
「照れてる依ちゃんかわいい」
真紘は依ちゃんならなんでもいいらしい。依ちゃんを抱きしめて幸せそうな真紘に目を細める。
二人とも、かわいい。
真紘をかわいいなんて思ったことなかったのに、依ちゃんと一緒にいるとなんだかすごくかわいく見える。
依ちゃんパワーすごい。あたしの義妹すごい。
「依ちゃんったら本当かわいい」
「先生までっ! 姉弟でそういうのやめてくださいっ」
「もう。愛唯お姉ちゃん、でしょ?」
「あぅっ、あ、あいかお姉ちゃん」
かーわーいーいー。こつんと指でおでこを突くと、依ちゃんは戸惑ったようにあたしの名前を呼ぶ。
やっぱりかわいい。天使。
依ちゃんの隣では真紘が依ちゃんのかわいさに悶えてる。
というか、依ちゃんと真紘ずっと隣にいるけど、いいの?
あたし、依ちゃんは他の人にバレたくない派だと思ってたんだけど。ここのカフェって依ちゃんたちの通ってる大学から離れてるけど、来る人は来るのに。
真紘に向かって首を傾げる。真紘はそれににんまりと笑って返した。
それだけで真紘の真意がわかって、なるほど、と笑い返す。
「……何ふたりで笑ってるの? こわい」
「こわいって。依ちゃんひどーい。こんな美人姉弟捕まえて」
「そうよぅ。こんなに依ちゃんのこと愛してるのに~」
ひくりと依ちゃんの笑みがつる。
はー、本当かわいい。
真紘なんかに捕まって、依ちゃんは今後大変だ。しかも月曜日には依ちゃんと真紘が付き合ってる事実が広まってるだろう。今日が金曜日でよかったと思うべきかしら。
真紘はそこらの男、むしろ芸能界の男なんて目じゃないくらい顔だけはいいし、うちの跡取りだ。大学でもモテるだろう。今も家には真紘への縁談が大量に来るぐらいだし。
そんな真紘と付き合うことが女子の嫉妬を集めることを知ってて、依ちゃんは真紘と付き合ってるとこを隠したかったのに、真紘はそれが気に入らなかったらしい。
真紘は依ちゃんをみんなに自分のものだと見せつけたいのだ。
まあ、それもそうだろうと思う。
依ちゃんはモテる。確実に。依ちゃん、かわいいもの。天使だもの。
依ちゃんは素直だし誠実だしいい子だから、依ちゃんと仲良くなったら真面目な坊ちゃんはノックアウトしそう。
それに依ちゃんってチョロそうだし、チャラい男からもいいカモだと思われそう。
まあ、ぶっちゃけた話。
今後依ちゃんは大変だろうけど、確実に真紘は依ちゃんを自分のものにする。学生の内に結婚とかいうのもあり得る。むしろあたしはそうなっても驚かない。
というかそうなってしまえとも思う。
だって真紘の異常性に気付いて、逃げられるよりは確実に捕まえておいた方がいいと思うもの。
依ちゃんはあたしたちにとって本当に奇跡みたいな存在だから。
絶対に、もう逃がせない。
依ちゃんと引き離した真紘は本当に感情を無くしたようだった。あたしは間違えたんじゃないかって本当に不安になった。
この先真紘が笑えなくなったらあたしのせいだった。
依ちゃんのことを考えてるときだけが、真紘が感情を表せる唯一の時間。
依ちゃんが真紘を想ってくれてるなら、そのまま永遠に真紘だけを想っていてほしい。
ごめんね、依ちゃん。
真紘をよろしくお願いします。
依ちゃんの言葉にあたしと真紘は二人で目を合わせた。
初めて言われた、そんなこと。
くすくすとかわいらしく笑ってる依ちゃんはあたしたちが驚いてることに気付いてない。
真紘とあたしは似てない姉弟だ。
異母姉弟だっていうのもあるだろうけど、あたしは母親、真紘は父親に似てて、共通してるのは美人だってことぐらい。
だから高校であたしが保健医として仕事をしていても、苗字さえ変わってしまえば誰もあたしと真紘が姉弟だなんて疑ってきたりしなかった。
少しは似ていればよかった。真紘にとって、あたしは自分を犯した義母に似た女。もしも少しでも父に似てれば、もっと姉弟としてうまく付き合っていけた。
真紘にはあまり好かれていなかった。
今でさえ、きっと姉として認められてない。それどころか家族として認められてないかもしれない。
それはあたしの罪。あたしのせいだ。
「……依ちゃん、俺と姉貴って似てるの?」
先に言葉を発したのは真紘だった。
依ちゃんの手を握りしめて、真紘は訊ねる。
あたしの手は少しだけ震えてる。情けない。
「似てるよ。そっくり。真紘もあいかお姉ちゃんも、同じ行動するんだもん。二人とも姉弟だよねぇ」
姉弟、だなんて言われたことがなかった。
父はあたしたち子供にあまり関心はなかったし、真紘のことがあってから真紘に付きっ切りだったけどあたしは無視。そもそもあたしは父にとって憎い女の娘。いくら自分の血があろうと、父があたしを好きになることはない。
真紘が引き取られてから、母は真紘を目の敵にし、そのくせ父に似ているその顔に執着した。母にとってあたしは父を引き留める道具。いや、それにすらなれなかった。
そんな母が真紘をあたしの姉弟として認めるはずがなかった。
なんだろう。少しだけ泣きそう。
「でもね、二人ともお店の中でテーブルに突っ伏すのはよくないよ。びっくりするから。それにおでこあかくなっちゃってるし」
依ちゃんはあたしたちの複雑な感情には気付かずなんだかプリプリと怒ってる。かわいい。
「……だって、姉貴。姉貴はちゃんと姉だって」
「そうね……。真紘はあたしの弟みたいよ」
姉弟、だなんて。どこかいつも歪だった。
あたしは真紘を見捨てて逃げた。真紘から姉貴だと呼ばれてもどこか自覚がなかった。
でも、ちゃんとあたしたちは姉弟でいいんだ。
姉と弟として、いていいんだ。
「あー、もー、本当依ちゃん愛してるっ!」
「ゃっ! も、あいかお姉ちゃんの前でそういうことしないでっ!」
「だって依ちゃんかわいすぎなんだもん」
依ちゃんを抱きしめる真紘の笑顔にホッとする。
依ちゃんから真紘を引き離して以来、こんな笑顔を見なかった。
いつだって無表情で、感情を動かすのは依ちゃんのことを考えてるときと、依ちゃんのAVを見てるときだけ。
ちなみに依ちゃんのAVはあたしもちょっぴり見ました。依ちゃんかわいすぎて濡れたわ。
真紘にバレたら殺されそうだから絶対言わないけど。
「というかあいかお姉ちゃんって、なに?」
「え? 先生にそう呼んでって言われたから」
「ふーん。じゃあ今度俺のことも真紘お兄ちゃんって呼んでよ」
「えっ、やだ」
「姉貴がいいのに俺はダメなの?」
「だって真紘は、えっと、か、彼氏でしょ? 彼氏にお兄ちゃんはやだ」
頬をピンクに染めながらそう言う依ちゃんは本当にかわいい。真紘が依ちゃんを抱き締めたまま、依ちゃんの肩に頭を預けて悶えてる。
わかる、わかるわ~!
まだ真紘を彼氏って呼ぶことが恥ずかしい依ちゃんはかわいい。控えめに言っても天使だと思う。
くぅ、真紘ったらずるい! あたしも依ちゃん抱き締めたい。
依ちゃんはさっきまで真紘に抱き締めるのはやめて、と言ってたはずなのに、すっかり忘れて真紘を恋人呼びした事実に悶えてる。
なるほど。依ちゃんの疑問から話を逸らして自分の都合のいい話に持っていかせる。真紘らしいやり方だと思う。
ちょっと間抜けな依ちゃんもかわいらしい。
「依ちゃん、あのことはあたしじゃなくて真紘に訊きなさいな」
「えっ!」
「きっと優しく教えてくれるわよ」
それはもう。
というか依ちゃんがあんなこと調べてたってことは、もしかしてフェラはさせてないのかしら。
……あんだけ濃厚なセックスをしといて?
どれだけ弟は依ちゃんを溺愛してるの?
弟。なんだかその言葉に恥ずかしくなる。
そっか。真紘はあたしの子供じゃない。弟なのよね。
「そうそう、依ちゃん。依ちゃんが訊きたいことは俺に聞いて。ちゃーんと教えてあげる」
赤く染まった依ちゃんの頬をツンツンと指でつつく真紘にくすりと笑う。
真紘が笑ってる。ちゃんと笑ってる。依ちゃんも恥ずかしそうに俯いてるけど、その姿は幸せそう。
二人の姿は誰がどう見ても恋人同士。
ふと、依ちゃんと目が合う。依ちゃんは照れ臭そうにふわんと微笑んだ。
「っ……!」
「えっ、えっ? 先生? どうしたんですか!? なんで泣いちゃったの?!」
「依ちゃんが……あまりにも、神々しくて……ぐすっ」
依ちゃんはあたしたち姉弟の救世主だと思う。
依ちゃんがいなければ真紘はこんな風には笑わなかっただろうし、あたしと真紘は姉弟になれなかった。
依ちゃんがいなかったら、なんて考えたくない。
今この瞬間に依ちゃんがいることを思うと、奇跡だと思う。世界って、運命って素晴らしい。
というか依ちゃんが素晴らしい。
「あのさー、姉貴。依ちゃん困らせるのやめてくんね?」
「ぐすっ、依ちゃん、ちゃんとあたしが依ちゃんのこと、幸せにするわね」
「えっ」
「いや、依ちゃんのこと幸せにするのは俺だから。依ちゃんと婚約もしたから」
「えっ?」
真紘のそれ、絶対依ちゃんに許可取ってない。
ぐすぐすと涙をハンカチで拭って、真紘と依ちゃんを見る。
真紘はあたしを睨んでるし、依ちゃんはわけがわからないとでも言うように首を傾げてあたしと真紘を交互に見てる。
「依ちゃん、今度あたしの家に遊びに来なさいな」
「えっ」
「あたしの旦那と息子紹介してあげる。ついでに父も」
「親父には顔見せするけど、義兄さんとクソガキにかわいい依ちゃんは見せない。依ちゃん誘うな」
依ちゃんを守るように、自分の腕の中に閉じ込める真紘に不満が湧き上がる。
ずるい。依ちゃんが真紘と結婚したら依ちゃんはあたしの妹になるんだし、別にいいじゃないの。
というかあたしの息子をクソガキってひどくない?
「あいかお姉ちゃん、結婚してたの?」
「あら、気づかなかった? あたし、真紘と苗字違うのよ」
「いえ、それは気付いてたんですけど……」
これでもあたしは既婚者。
旦那は女の子相手なら浮気を許してくれる。というか、そもそも結婚するつもりはなかったんだけど、旦那がどうしてもっていうから結婚した。まさか子供ができるとは思わなかったけど。
もともと旦那はあたしの元セフレ。男はタイプじゃなかったんだけど、旦那は男って感じしないのよね。女顔だし。初めて会ったときは女装してたし。
息子は幼稚園生。やんちゃ盛りで真紘とはあまり仲が良くない。まあ、どっちも子供みたいだしね。
「依ちゃんのことだからどうせ家庭の事情かなとでも思ってたんでしょ。もう、依ちゃんかわいい」
「バカにしてるよね」
「バカにしてないよ。依ちゃんかわいいってかわいがってるの~」
むすっとした依ちゃんに対して、真紘はほんと笑顔。というかにやけてるんだけど。ちょっときもい。
「まあ、義兄さんになら依ちゃん会わせてもいいけど、クソガキはダメ。絶対ダメ」
「え~、いいじゃない。依ちゃんは子ども嫌い? もうすぐ小学生なんだけど」
「子どもは好きです」
「ちなみに将来的にはなん人くらい子ども欲しいの?」
「えっ、と、……三人くらい……?」
あたしの質問に真面目に返す依ちゃんの隣で、真紘は依ちゃんのその答えに悶えてる。
ふむ、三人ね。ちょうどいいわよね。あたしもあと一人くらいは欲しいのよねえ。
……あ、待って。もしもあたしが依ちゃんと同じ時期に子どもできたら、依ちゃんの子どもとあたしの子どもが結婚する可能性も……? 確か従兄弟同士なら結婚できたわよね。
やだ、素敵じゃない! さっそく旦那と相談しよう!
「依ちゃん、俺頑張って依ちゃんのこと孕ませるからね!」
「こ、こんなところで変なこと言わないでっ! ばか!」
「照れてる依ちゃんかわいい」
真紘は依ちゃんならなんでもいいらしい。依ちゃんを抱きしめて幸せそうな真紘に目を細める。
二人とも、かわいい。
真紘をかわいいなんて思ったことなかったのに、依ちゃんと一緒にいるとなんだかすごくかわいく見える。
依ちゃんパワーすごい。あたしの義妹すごい。
「依ちゃんったら本当かわいい」
「先生までっ! 姉弟でそういうのやめてくださいっ」
「もう。愛唯お姉ちゃん、でしょ?」
「あぅっ、あ、あいかお姉ちゃん」
かーわーいーいー。こつんと指でおでこを突くと、依ちゃんは戸惑ったようにあたしの名前を呼ぶ。
やっぱりかわいい。天使。
依ちゃんの隣では真紘が依ちゃんのかわいさに悶えてる。
というか、依ちゃんと真紘ずっと隣にいるけど、いいの?
あたし、依ちゃんは他の人にバレたくない派だと思ってたんだけど。ここのカフェって依ちゃんたちの通ってる大学から離れてるけど、来る人は来るのに。
真紘に向かって首を傾げる。真紘はそれににんまりと笑って返した。
それだけで真紘の真意がわかって、なるほど、と笑い返す。
「……何ふたりで笑ってるの? こわい」
「こわいって。依ちゃんひどーい。こんな美人姉弟捕まえて」
「そうよぅ。こんなに依ちゃんのこと愛してるのに~」
ひくりと依ちゃんの笑みがつる。
はー、本当かわいい。
真紘なんかに捕まって、依ちゃんは今後大変だ。しかも月曜日には依ちゃんと真紘が付き合ってる事実が広まってるだろう。今日が金曜日でよかったと思うべきかしら。
真紘はそこらの男、むしろ芸能界の男なんて目じゃないくらい顔だけはいいし、うちの跡取りだ。大学でもモテるだろう。今も家には真紘への縁談が大量に来るぐらいだし。
そんな真紘と付き合うことが女子の嫉妬を集めることを知ってて、依ちゃんは真紘と付き合ってるとこを隠したかったのに、真紘はそれが気に入らなかったらしい。
真紘は依ちゃんをみんなに自分のものだと見せつけたいのだ。
まあ、それもそうだろうと思う。
依ちゃんはモテる。確実に。依ちゃん、かわいいもの。天使だもの。
依ちゃんは素直だし誠実だしいい子だから、依ちゃんと仲良くなったら真面目な坊ちゃんはノックアウトしそう。
それに依ちゃんってチョロそうだし、チャラい男からもいいカモだと思われそう。
まあ、ぶっちゃけた話。
今後依ちゃんは大変だろうけど、確実に真紘は依ちゃんを自分のものにする。学生の内に結婚とかいうのもあり得る。むしろあたしはそうなっても驚かない。
というかそうなってしまえとも思う。
だって真紘の異常性に気付いて、逃げられるよりは確実に捕まえておいた方がいいと思うもの。
依ちゃんはあたしたちにとって本当に奇跡みたいな存在だから。
絶対に、もう逃がせない。
依ちゃんと引き離した真紘は本当に感情を無くしたようだった。あたしは間違えたんじゃないかって本当に不安になった。
この先真紘が笑えなくなったらあたしのせいだった。
依ちゃんのことを考えてるときだけが、真紘が感情を表せる唯一の時間。
依ちゃんが真紘を想ってくれてるなら、そのまま永遠に真紘だけを想っていてほしい。
ごめんね、依ちゃん。
真紘をよろしくお願いします。
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